どう見る高市内閣 ⑤憲法改正|全国商工新聞

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伊藤塾塾長 弁護士 伊藤真さん

1 改憲の民意が示されたとはいえない衆院選

 2026年2月の衆議院総選挙で与党・自民が圧勝し、高市政権は憲法改正を最優先課題に掲げた。維新との連立で、改憲発議はかつてないほど現実味を帯びているが、冷静に立ち止まる必要がある。小選挙区で自民候補に投票した有権者の割合、いわゆる「絶対得票率」は、わずか26.9%に過ぎない。国民の約27%が自民を支持したに過ぎず、しかも、その大半は改憲を意識して投票したわけではない。さらに1票の格差は、最大2.1倍のまま放置されている。投票価値が是正されないまま選挙で選ばれた議員に、憲法改正発議の正統性があるのか。そもそも憲法96条が定める「総議員の3分の2以上の賛成」という要件は、多数の力で押し切るためではなく、少数意見も含めた熟議を尽くしてから発議せよという趣旨に他ならない。

2 9条改憲と緊急事態条項

 高市・自維政権が描く改憲は、かつての「ソフト路線」ではない。安倍政権時代は、公明党への配慮から自衛隊明記にとどめていたが、与党に加わった維新は9条2項の削除・国防軍の保持を明確に主張し、むしろアクセル役を担っている。しかも戦争は緊急事態の最たるものであり、「有事に備えるために」という名目で、二つを一括提案することは、改憲勢力にとって合理的な戦略となる。9条改憲と緊急事態条項をセットで発議してくる公算は極めて高い。9条2項が削除されれば、「戦力不保持・交戦権の否認」という歯止めが消える。防衛費は既にGDP比2%超に膨張し、その裏で社会保障や中小企業支援の予算が「財源不足」を口実に削られ続ける。憲法9条と25条の生存権はコインの表裏であり、一方が崩れれば、他方も崩れる。中小業者の経営を支えてきた土台が、改憲によって静かに掘り崩されかねない。

3 緊急事態と任期延長

 政府は「国会議員の任期延長」を「政治空白をなくすため」と説明するが、言葉のすり替えにすぎない。参議院の緊急集会という制度があり、現行憲法の下で十分対応できる。任期延長の必要性は、そもそも存在しない。任期延長の本質は「選挙の停止」だ。国民が「この政治家には、もう任せられない」と思っても、その意思を示す機会そのものが奪われる。しかも緊急事態の認定は議員自身が行う。議院内閣制の下では、与党が内閣を後押しするだけであり、多数派与党が国会議員として居座り続けることは、暴走の後押しにしかならない。「任期延長なら大したことはない」という印象とは裏腹に、立憲民主主義の根幹を破壊する、極めて危険な装置となりうる。

4 スパイ防止法と監視社会

 高市政権が推進するスパイ防止法も、戦争する国づくりと一体をなす。「外国スパイを防ぐ」という名目なら多数の賛同を集めそうだが、全ての国民・市民が監視対象となり、スパイか否かを決めるのは権力の側だ。海外取引先とのやり取り、技術情報の共有、業界団体を通じた政策提言。これらが「国家安全保障に反する」と認定されれば、企業の営業活動そのものが標的になりかねない。かつての治安維持法が取り締まったのは、ほぼ100%国内の市民だった。決して他人ごとではない。

5 主権者として声を上げ続けること

 状況が切迫しているものの、それでも悲観する必要はない。小選挙区制では、風向きが変われば議席はオセロのようにひっくり返る。現代日本で政府批判の言葉を発しても拘束されない。選挙権もある。これらの権利自由を使い切ることが、憲法に力を与える。
 そして弱い立場の中小業者・小規模事業者が声を上げにくいからこそ、業者団体が連帯して、代わりに声を上げ続けることが問われている。政権を監視するのは選挙のときだけではない。選挙後も目を光らせ続けることが主権者の責務だ。改憲を阻む力は、国会の外、私たちの現場にこそある。

 >> どう見る高市内閣 ①税制改革
 >> どう見る高市内閣 ②大軍拡
 >> どう見る高市内閣 ③社会保障
 >> どう見る高市内閣 ④外国人政策

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