消費税廃止めざし今すぐ減税を
トヨタ自動車などの製造業輸出大企業に対する消費税の輸出還付金上位30社の推算額は2兆7332億円に上り、消費税収の約1割(9.8%)に相当することが分かりました。元静岡大学教授の湖東京至税理士が最新(2024年度)の輸出還付金額を試算しました。消費税の輸出還付金の”そもそも”や24年度の特徴などについて、湖東税理士に聞きました。
不公平な税制正すべき
元静岡大学教授・税理士 湖東京至さんが推算
―最新の輸出還付金の特徴を教えてください。

湖東 この夏の参院選で、消費税に対する国民の関心が高まり、全野党が消費税の減税もしくは廃止を公約に掲げました。しかし、輸出大企業は消費税を納めないばかりか、「輸出還付金」という名目で消費税をもらっていることは、あまり知られていません。国税庁・税務署は、守秘義務を盾に各企業の還付金額を公表しませんし、もらっている企業も「後ろめたい」のか、金額を発表しません。発表すれば、国民の怒りが爆発し、「不公平な消費税を廃止せよ」という声が大きくなるからでしょう。
2024年度も相変わらず、還付金の上位は自動車業界です(図1)。トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、マツダの上位4社の順位は変わりませんが、トヨタ、マツダの還付金は昨年度と比べ微増、本田、日産は微減。4社のほか、自動車業界はSUBARU(スバル)、三菱自動車、デンソー、いすゞ、スズキなども還付金をもらっています。さらに、大鵬薬品や武田薬品などの医薬品メーカー、アサヒやキリン、サントリーなどの食品メーカーも顔を出しています。これらは輸出が順調で還付金をもらっています。
富士フイルムグループ、大鵬薬品グループ、アサヒグループ、キリングループ、サントリーグループなどは、中心となる本社が持株会社で事業を行っていないため、グループ企業全体の連結決算で、還付金を計算しました。
税率0%を適用
―そもそも、なぜ輸出還付金をもらえるのか。その仕組みを教えてください。
湖東 消費税の税率は10%と8%だけではなく、実は0%という輸出売り上げだけに適用される税率があります。消費税では、輸出すると、単なる免税ではなく「ゼロ税率で課税する」ことになります。
輸出売上高にゼロ税率をかければ、税額はゼロ円になります。納付する消費税額は「売り上げにかかる消費税額」から「仕入れ・経費にかかる消費税額」を引いて計算(仕入税額控除)しますが、ゼロ税率で、売り上げにかかる消費税額がゼロ円なので、仕入れ・経費にかかる消費税額がそのままマイナスになります。マイナスの納税額が発生するので、輸出還付金をもらうことができるわけです。
1円も納めずに
―ということは、消費者がトヨタ車を買った時の消費税は、税務署に納められていないのですか。
湖東 そうです。税務署には納められていません。トヨタは輸出還付金が多いため、本来納めなくてはならない国内売り上げに係る消費税は還付金と相殺されて納める必要がないのです。その相殺された残りの額が図1に示したトヨタの還付金額6811億円なのです。図1に記載した他の企業も全て国内売り上げに係る消費税を1円も納めず、多額の還付金をもらっています。

トヨタなど輸出大企業は、「仕入れ・経費にかかる消費税額」として、仕入れ先や下請けが税務署に払った消費税を、その企業が払ったものとして還付してもらうのです。仕入れ先や下請けが払ったといっても、輸出大企業が負担した
消費税分と、仕入れ先が納めた消費税額とは全く関係がありません。法律的には、輸出大企業が仕入れ先に消費税を預けたことも、仕入れ先が預かったこともないのです。消費税は、一個一個の商品や一個一個の取引にかける税金ではなく、企業の年間付加価値額にかける税金です。税金の還付とは、年末調整で戻ってくる時や予定納税が多かった時に還付されるように、自分が納めた税金が多かった時に戻ってくることを言います。トヨタなど輸出大企業は、自身が税務署に1円も納めず、仕入れ先や下請けが納めた税金を頂くのです。これは、横取り以外の何ものでもありません。
全体で3割にも
―国全体で消費税の輸出還付金額は幾らですか。
湖東 事業者が納めた消費税収は、約27兆8700億円(2023年4月1日~24年3月31日まで)。そのうち9兆3100億円が還付金として払われています。差し引き18兆5600億円しか国に入りません。ただ、9兆3100億円のうち、予定納税の還付金や設備投資をした場合の還付金などが約1割あるとして、輸出還付金は9割の8兆3800億円になります。これは、消費税収の3割に上ります。
―還付金試算の根拠を教えてください。
湖東 図1に示した製造業の輸出大企業の還付金は私が推算したもので、税務署や当該企業は一切公表しません。そこで私は、図2の「還付金の多い税務署」の還付金額や、図3の「赤字税務署」の赤字額を参考(いずれも国税庁の統計書を基に作成)に、おおよその還付金額を把握しています。例えば、トヨタの場合、図2の愛知・豊田税務署の還付金額は2023年度で6564億円です。このほとんどはトヨタへの還付金だと思われますが、仮に、その95%がトヨタへの還付金だとすれば、6235億円になります。私は昨年、23年度のトヨタの還付金を6102億円と推定しました。少々少なめになっていますが、大きな違いはありません。図1にあるトヨタの還付金6811億円は、来年8月に国税庁が発表する統計書を待たなければなりませんが、推計に大きな誤差はないと確信しています。何よりも、トヨタから「うちは、そんなにもらっていないよ」という指摘は一度も受けていません。


―図2には登場するパナソニックやソニーなどが見当たりませんが…。
湖東 パナソニック、ソニーなどは部門ごとに事業を独立させたため、1社ごとの計算ができないのです。グループ全体では巨額の還付金があることは明白なのですが、それを連結決算書から計算すると、1千億円を超えるような還付金になってしまいます。しかも、あちこちの税務署から還付金をもらうため、他社とのバランスが取れなくなるので、今回は外しました。本紙7月14日号1面で輸出大企業16グループの還付金試算を掲載しましたが、あのように全企業を、連結決算書に基づいてグループ全体で把握するのも一つの方法かもしれません。
輸出売り上げは「非課税」に 還付金廃止で税収は10兆円増
―税務署や会社は、なぜ還付金を公表しないのですか。
湖東 税務署は守秘義務があるとして一切公表しません。輸出大企業は輸出補助金をもらっているのが”後ろめたい”のか発表しません。しかし、たまに決算書に「未収消費税等」として2カ月分の還付金額を載せている会社があります。今年は日亜化学の決算書に「未収消費税等33億円」と記載されていました。そうすると、2023年の年間還付金は6倍の198億円になります。私が試算した23年の日亜化学の還付金額と、そう大きな違いはありませんでした。また、税務署は各企業の還付金額は公表しませんが、各税務署の合計還付金額は図2に示したように公表しています。輸出還付金は事実上、補助金なのですから、政府は企業ごとの還付金額を公表すべきです。
たばこ税や酒税還付金制度ない
―「輸出還付金は必要だ」と主張する人もいます。
湖東 「輸出企業が還付金をもらうのは、払った税金を戻してもらうのだから問題ない」「『消費税などの間接税は、輸出先の国に、その国の間接税があるから、日本の間接税はかけられない』という国際的な慣習がある」という主張です。これは「仕向け地主義」と言われ、この慣習によって、消費税も間接税だから免税になるというわけです。
確かに、酒やたばこなどを輸出すると、日本の酒税やたばこ税はかけられないため、免税になります。しかし、免税にはなりますが、酒税やたばこ税は、輸出大企業のように税金が還付されることはありません。
―輸出還付金制度を無くすと8兆3千億円の税収が増えるのですね。
湖東 いいえ、それだけではありません。消費税を納めている大企業の中には輸出割合が少なく、還付金額こそ出ないものの、この制度のおかげで納税額が少なくなっている企業がたくさんあります。 例えば、ソフトバンクグループの場合、売上高7兆2437億円のうち輸出割合が12%と少ないため、消費税の納税額が出るのですが、12%の輸出売り上げによる減税額はおよそ400億円と推計されます。その分、納税額が少なくなっています。ソフトバンクのような企業の消費税減少額を全体として正確に計算することは不可能ですが、少なく見積もっても2兆円程度は見込まれます。そうすると、輸出還付金制度で、むしばまれている税収は10兆円以上になります。
トランプ関税の原因の一つにも
―トランプ関税の原因の一つに輸出還付金が指摘されています。
湖東 輸出企業への還付金が、トランプ政権による関税引き上げの原因になっています。米国の国税には消費税タイプの税金が無く、米国の企業が輸出しても還付金はもらえません。トランプ大統領は、消費税やヨーロッパ諸国の付加価値税を関税と同じだとし、これが米国の貿易赤字を招いていると主張しています。米国は一貫して、消費税を廃止すべきだと言い続けています。消費税を廃止し、輸出還付金制度を無くせば、関税を巡る貿易戦争は終結する可能性があります。
―中国が、一部の輸出品に対する還付金を企業に返さないことにしたとの報道がありました。輸出還付金だけを廃止する方法はありますか。
湖東 中国は2024年12月から、世界一の輸出を誇るアルミや銅製品などの輸出還付金を企業に戻すことをやめました。
中国の還付金停止の詳細な仕組みは分かりませんが、輸出還付金制度だけを無くす方法はあります。
皆さんは、病院の窓口で窓口負担を払いますが、消費税を請求されたことはないですね。それは社会保険診療報酬が「非課税」だからです。輸出売り上げも「ゼロ税率で課税」するのではなく「非課税」にすればよいのです。非課税だと、仕入税額控除ができませんから、還付金は出ないことになります。現に医療機関は、例えばレントゲンなど医療機器を買っても、そこに含まれている消費税分は控除できません。ただし、社会保険診療報酬の場合、”社会政策として消費税を課さない(非課税)”としているのに、課税されている現実があるので、非課税を実質化し、医療機関の消費税負担を解消すべきです。
それはさておいても、輸出売り上げを「非課税」にすれば、対応する仕入れや経費に含まれている消費税分を控除することができませんから、国内売り上げに対する消費税は納税することになります。これこそ公平です。
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