最高水準の収益稼ぐ大企業中小の賃上げ・転嫁支援を|全国商工新聞

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停滞招く「強欲インフレ」
下関市立大学教授 関野秀明さん

 2024年3月28日付の日本政策投資銀行「調査研究レポート」は、2023年以降、日本も「強欲インフレ」の状態にある旨、指摘しました。「強欲インフレ」とは、企業がコスト増加分以上に価格を引き上げ、一方で収益を増やし、他方で賃金に還元しない状況を指します。
 内閣府「国民経済計算」には、GDPデフレーターという指標があります。これは国内物価変動を示す物価指標で、輸入物価変動は含みません。図は、2023年以降、GDPデフレーターが急激に上昇し、国内で大企業が円安や輸入原材料価格の上昇以上に急激に価格を引き上げたことを示します。GDPデフレーターの変動要因は「企業収益要因」と「賃金要因」に分解することができます。図で分かるように、2023年の国内物価上昇はそのほとんどが「企業収益要因」であり、「賃金要因」を含まない、まさに「強欲インフレ」でした。この「強欲インフレ」の状況は、一方で実質賃金指数(決まって支給する給与)の28カ月連続マイナスを、他方で過去最高水準の大企業高収益を、反映しています。
 今後、持続的な賃上げを実現するための条件は、大企業・元請けが中小企業・下請けの賃金、原材料費上昇を正しく下請け単価・価格引き上げに織り込むことです。中小企業庁『中小企業白書2023』は、2019年から21年にかけて、一方で大企業製造業が実質労働生産性をプラス2.4%、価格転嫁力指標をプラス0.8%、合計3.2%の付加価値増加を実現し、他方で中小製造企業が実質労働生産性プラス2.3%なのに価格転嫁力指標がマイナス2.3%で、合計0%の付加価値増加に陥っていることを指摘しています。中小企業の生産性は決して低くないのに、大企業・元請けに製品を買いたたかれ、付加価値=新たに生まれた富が奪われているのです。強くて優秀な下請け中小企業あってこその大企業の、ものづくりです。大企業の「強欲インフレ」を許さず、下請け中小企業の賃上げ・価格転嫁を受け入れることが強い日本経済復活の大前提です。

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