税務相談停止の悪法糾弾 自主申告強め反撃を 納税者権利求め、署名16万人|全国商工新聞

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 税や不正還付の指南を取り締まるという口実で、納税者同士が行う税金相談にも国が介入できるようにする「税務相談停止命令制度(命令制度)」の創設を盛り込んだ税理士法「改正」を含む所得税法等の一部「改正」案が3月28日、自民、公明などの賛成多数で可決・成立しました。各界から「納税者の権利を脅かす悪法は許されない」「自主申告運動を強め反撃を」など、悪法を糾弾し、たたかう決意が表明されています。

自主申告運動への介入許すなと声を上げる長野・浅間民商会員ら=2月19日、東京・日比谷

 全国商工団体連合会(全商連)は直ちに、「税務相談停止命令制度創設に断固抗議し、納税者の権利擁護・発展への共同を呼び掛ける」との声明を発表。「税務相談停止命令制度の創設にもひるまず、ゆるがない自主申告運動」の推進を呼び掛けました。
 全商連など自主申告運動の擁護・発展をめざす8団体が1月に呼び掛けた「納税者の権利擁護を求める緊急署名」は、3カ月足らずで急速に広がり、16万人分以上を国会に提出しました。
 この間、国税庁との交渉では「納税者が申告・納税するために学び合う活動は自由なのか」「処分の対象なのか」と追及しましたが、「学び合う内容が漠然としてるので、回答はできない」などと拒否していました。日本共産党の衆参両院議員と連携した国会論戦では、命令処分を行うには①税務相談の内容が脱税や不正還付を指南するものかどうか②納税義務の適正な実現に重大な影響を及ぼすことを防止するために、緊急に措置を取る必要があるかどうか―を個別に判断するとの二重の制約が課されることを明らかにし、「申告納税制度は尊重する」との答弁を引き出し、処分の前に弁明の機会が与えられることなどを明確にさせました(図)。

 民主商工会(民商)会員や、この間一緒にたたかってきた各階層の人々は「自主申告運動を堂々と進め、納税者権利憲章の制定や納税者同士の自由な税金相談を規制する税理士法の改正など、納税者の権利擁護・発展へ共同を強めよう」と決意を新たにしています。


 >> 【声明】税務相談停止命令制度創設に断固抗議し、納税者の権利擁護・発展への共同を呼び掛ける


群馬・吾妻民商 「国の介入許さない」 中之条税務署の「税金相談控えて」発言に抗議

中之条税務署に申し入れに行った参加者。左端が金澤敏会長

 「民商の税金相談は、命令制度の対象に該当する可能性があるので控えてください」―。こんな発言を漏らしたのは、群馬・中之条税務署の総務課長。吾妻民商と3・13重税反対行動吾妻実行委員会が3月21日、消費税減税とインボイス制度の実施中止・延期、命令制度の撤回などを求めた交渉の中で「民商などの税金相談が、命令制度の対象に該当するか」と質問したことに対する回答です。
 参加者はすかさず「国税庁も、そんなことは言っていない」と厳しく抗議しました。
 交渉前半では、命令制度について意見交換しました。参加者は「仲間同士が税金や申告について教え合うのは、申告納税制度に見合うものだ」と強調し、「国税通則法16条に何と書いてあるか」と質問しましたが、総務課長は回答できず、参加者は「“納付すべき税額は納税者の申告によって確定すること”が原則の申告納税制度は、戦後の税制の基本だ。納税者の自主申告権を尊重せよ」と重ねて求めました。
 金澤敏会長=木工=は「税金について、民商の仲間同士で学び合う活動は、脱税指南など悪質な行為とは全く無縁だ。自主申告運動を胸を張って進め、国の介入を許さない取り組みを強める」と決意しています。

各界から怒り・決意表明

戦争準備の弾圧法規

農民運動全国連合会会長 長谷川 敏郎さん

 2023年度予算は軍事費を4.8兆円上積みし、農業予算の4倍もの10.2兆円の軍事大国になります。戦争する国づくり予算に抗議するとともに、農民の自主申告活動の弾圧を狙う税務相談停止命令制度導入の強行を厳しく糾弾します。
 ウクライナ戦争では農地が荒らされ、農民が動員され、穀物倉庫も農業機械も破壊されました。これが戦争の現実です。
 農民連は食料自給率38%の日本が戦争準備を進めることが、いかに国民を飢えさせる危険な道か、訴えてきました。戦争国家の財源づくりの強権的な徴税強化をねらう弾圧法規はまさに戦争準備と一体です。農民が集まり税金申告を学び合う活動は、同時に税金の使い道を学ぶ機会です。軍事費を削り、農業に回せという農民の世論づくりの貴重な場です。国家の狙いは明白です。さらに自主申告運動を強めてこそ最大の反撃です。

納税者の権利脅かす

TCフォーラム事務局長・税理士 平石 共子さん

 2023(令和5)年度税制改正大綱に盛り込まれた「税務相談停止命令制度」を読んだ時、ずいぶん荒っぽい文章なので、条文になれば少しは中身が明らかになると思っていた。
 ところが、一句違わず、そのまま条文になってしまった。
 とにかく対象となる者が広い。税務相談の中身が分からない。税理士や税務署の税務援助を受けられる人は一握り。分からなければ身近な人に相談したり聞いたりするのは当然のことで、私たちは申告納税制度を維持発展させるには、ひるまないことだ。
 財務大臣に停止命令権限を与え、従わなければ懲罰規定、国税庁・税務署に税務相談を行った者への報告聴取、質問・検査する権限を与え、拒否や虚偽答弁をすると30万円の罰金。こんな危険な法律は使わせないこと、形骸化させる運動を粘り強く続けることだ。納税者の権利を脅かす悪法は決して許されない。

明確性なく不利益大

自由法曹団東京支部幹事長・弁護士 西田 穣さん

 可決された「改正」税理士法には二つの大きな問題があります。
 一つは、法律にあるべき明確性の原則がありません。どんな行為が処罰され、どんな行為が許されるかが曖昧です。財務相が「必要があると認めれば」罰を課すことができるわけです。
 もう一つは、罰として課せられる不利益処分が、あまりにも大きいということです。その処分が間違いだったとしても、一度失った信用を取り戻すことは非常に難しいでしょう。「税務相談停止命令制度」は、納税者が相談し合い、教え合う善意の行為すら萎縮させることになります。
 そもそも申告納税制度は、税制という国家制度自体に、国民が主体的に関わるという国民主権の具現化です。警戒しながらも正々堂々と自主記帳、自主申告を貫きましょう。運動を大きくして、現代の税制・税法の原則を揺るがすこの悪法を形骸化させましょう。

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