憲法生かす「人間性復興」を 京都橘大学・岡田知弘さん|全国商工新聞

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地殻や気象変動「大災害の時代」

 本年2月13日に最大震度6強の福島県沖地震が起きました。気象庁の発表によると、東日本大震災を起こした「東北地方太平洋沖地震」の「余震」だそうです。震災10年を迎えるに当たって、改めて自然が私たちに警告しているように思います。
 この10年を振り返ると、熊本・大分地震をはじめ人の命と財産に関わる地震が断続的に起こり、火山活動も活発化しました。地震学者が指摘するように、日本列島は「活動期」に入っているといえます。今後「南海トラフ地震」が起こる可能性も高まっています。
 しかも、毎年のように風水害、土砂災害、雪害が、列島を襲っています。これらは、地球温暖化による災害であり、地殻および気象変動による災害が頻発する「大災害の時代」に生きていることを、私たちは肝に銘じる必要があります。
 そこに生物起源の自然災害の一つである新型コロナウイルス感染症が襲いました。これまでの災害と違うところは、日本および世界の誰もが感染症災害で生存や生活の危機に陥っていることにあります。

ハードは完了も地域再生は遠く
岩手県宮古市田老地区の高さ10メートルの防波堤

 この大災害の時代において、災害を抑制し、被災者の生活再建や被災地の復興を図るにはどうしたらいいのでしょうか。東日本大震災の被災地での10年にわたる取り組みは、コロナ禍からの復興も含め、多くの教訓を生み出しています。
 菅首相は、1月の施政方針演説で、今年度末で「第一期復興・創生期間」が終了することから、「東北復興の総仕上げ」を行うとともに、残るは「心のケア」と福島での「創造的復興の中核拠点」の設立に重点を置くとしました。併せて、「グリーン成長」政策の一環として原発推進をあえて強調しました。
 被災地では、確かに、ハード事業はほぼ完了しています。しかし、地域経済・社会の再生は遠く、持続可能性危機に瀕しています。依然4・2万人が避難生活を強いられ、うち3・6万人が福島県民です。
 また、津波被災地や原発被災地では、大幅な人口や事業所数の減少に見舞われており、「自助」だけでは解決できない厳しい状況が続いています。
 復興が遅れた原因の多くは、政府による「創造的復興」政策の失敗にあります。とりわけ第二次安倍政権誕生によって、「復興五輪」「国土強靭化」「開かれた復興」が推進され、首都圏での建設ラッシュが復興事業を遅滞させたり、巨大防潮堤や住宅の高台移転にこだわったために時間がかかり住宅再建や営業再建が遅滞したりしました。
 また、宮城県を中心に、外資系企業による植物工場の誘致、水産特区による漁業権の民間企業への開放がなされましたが、いずれも失敗しました。

粘り強い運動が政治を動かした

 他方で、被災者の生活再建を最優先する「人間の復興」理念に基づく復興政策が、岩手県などで進められました。
 民商・全商連の皆さんの粘り強い運動によって、国や自治体による中小業者、あるいは農林漁家向けの手厚い復興支援事業が展開しました。グループ補助金もその一つです。また、岩手県住田町が開始した地元材活用による木造仮設住宅の建設は、福島県、熊本地震被災地へと広がっていったのです。
 そこでは、被災者による主体的な復興運動が展開され、憲法の幸福追求権、生存権、そして財産権を具体化する「人間性の復興」というべきものです。これこそ、「人間の復興」の内発的な原動力だといえます。
 このような教訓は、「未被災地」の住民、さらにコロナ禍に襲われている全ての地域の住民においても共有できるものです。今や、人間の命と「ふつうの生活」が何よりも大切であることに誰もが納得する時代だといえます。
 少数の大企業の「儲け」を増やすことを優先した政治を根本的に見直し、憲法を暮らしの中に生かす新しい政治・経済のあり方を具体化する段階に来ているといえます。


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