2月末に米国とイスラエルが無法なイラン攻撃を開始し、ホルムズ海峡が封鎖されてから半年余り。「ホルムズ危機」「ナフサショック」が多くの中小業者を襲い「資材が入らず、現場の作業が進まない」「仕入れ値が急騰し、資金繰りが悪化」などの困難が広がりました。高市早苗政権は「ナフサ不足の原因は”流通の目詰まり”」と繰り返しましたが、実際には4月のナフサ販売量は前年同月比で35%減り、輸入も4割減、国内生産も2割減でした。資材流通は回復しつつあるものの「仕入れ値はホルムズ危機前の2~3倍に高止まりしている」との声もあります。ホルムズ危機から何を学ぶのか、識者2人が解説します。
支援と併せ危機抑止を
京都橘大学 教授 岡田知弘さん
世界はすでに「戦争の時代」

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻したたのに続き、今年2月、今度はアメリカ軍がイスラエル軍とともにイランに侵攻した。2023年10月からのイスラエル軍によるガザ侵攻が、今や中東戦争へと拡大している。二つの核大国による、突然の軍事侵攻とそれに続く戦争は、現在も続いている。いずれの戦争も、原子力発電所および核施設が攻撃対象となり、核戦争の危険が増している。残念ながら、世界は「戦争の時代」に入ったと言わざるを得ない。
軍事同盟を結んでいるアメリカが戦時体制に入る中で、日本も直接・間接に戦争に巻き込まれつつある。直接には、アメリカ政府の軍備拡大要求や戦争協力要請に応えるとともに、経済安全保障政策の名の下での自由な経営活動や市民活動への介入と統制が強まっている。防衛費の異常な伸びに対する、中小企業や社会福祉、防災予算の低い伸びと増税は、「アベノミクス」がつくり出した構造的な円安物価高に苦しむ中小企業経営や住民の生活をいっそう苦しめている。これが間接的な影響と言える。
中小業者襲うホルムズ危機
これに拍車をかけているのが、ホルムズ海峡危機の長期化による原油・ナフサ不足や、エネルギーおよび派生製品価格の高騰である。日本の原油およびナフサの中東依存度は極めて高く、世界で最も影響が大きい国の一つとなっている。だが、先の国会での政府答弁を見ていると、ナフサは全国総量としては足りており、一部の事業者による「流通の目詰まり」が原因である、と繰り返すだけで、生産や消費の現場での問題把握と解決に向けた積極的な取り組みがなされたようには見えない。
「帝国データバンク」が7月27日に発表した「エネルギー価格上昇による企業への影響調査」によると、調査企業の9割がエネルギー価格上昇などによる「マイナスの影響」を受けているという。全国商工団体連合会が実施した緊急調査でも、マイナスの影響が業種を超えて拡大していることが確認できる(図1、2)。価格上昇だけでなく、燃料・原材料・資材不足問題が、運送業、農林漁業、建設業、塗装業、各種製造業、飲食店、美容室から歯科医師まで広範に広がり、中小企業の経営だけでなく、住民の暮らしの基盤も崩しつつあることが分かる。自由記述欄には、原材料・資材や燃料などの高騰と価格転嫁の困難、原材料・資材の不足と調達困難、工事の中断(延期)や契約解除の実態がリアルに記入されているだけでなく、今後の取引先や顧客の減少に基づく事業継続への不安の声も、率直に書かれている。


憲法に基づく自立的な外交
この事業継続の危機を乗り越えるためには、短期的にはコロナ禍の際の緊急対策と同様、国と地方自治体による、つなぎ融資や助成措置が求められることは言うまでもない。だが「戦争の時代」において最大の課題は、戦争の危機の拡大を未然に摘み取ることである。自らの経営の持続性とともに、平和な日本の持続可能性を確保するために、戦争遂行に血道をあげるアメリカ政府に追従するのではなく、平和憲法に基づいて、自立的な多国間外交・通商政策に切り替えるべき時代であると言える。そうすることにより、今回の危機の根源にある、アメリカの軍事的衝動を共同で抑止する可能性も広がる。
エネルギーと食料の自給を
その際に重要なのは、エネルギー主権と食料主権を確立することである。国レベルで自律したエネルギー、基本食料政策をつくり、「安全保障」を「軍事・外交政策」の狭い枠組みに閉じ込めるのではなく、国民生活全体の安心・安全を確保するために農林漁業・食料政策、エネルギー、防災・国土保全政策を一体化した、本来の総合的な安全保障政策を策定、実施すべきである。代替技術も活用し、エネルギーと食料の海外依存度を徹底的に引き下げ、地域から国内自給率を高めることが何よりも重要である。
その場合、地域の中小企業や住民が主導・連携し、地方自治体が中小企業振興基本条例を活用して、生活圏単位で再生可能エネルギーや食料・食料品の生産・流通・分配の地域内循環を推進し住民福祉の向上を図ることが求められる。そのことが、中小企業経営と地域の持続的発展、平和を持続させる礎となるに違いない。
再エネ普及で安全保障
東北大学 特任教授・名誉教授 明日香壽川さん
輸入化石燃料脱却こそ根幹

ホルムズ危機をはじめとする中東発のエネルギー情勢の激変が浮き彫りにしたのは、輸入化石燃料に依存する日本のエネルギー供給構造の脆弱性である。日本は、化石燃料の輸入によって年間20兆円を超える国富流出を続けている。自国のエネルギーが遠い地域の戦争に直接左右され、時に、戦争の原因ともなり得る状態に置かれている。
この危機から読み取るべきことは二つある。
第一に、再生可能エネルギー(再エネ)と省エネによる化石燃料依存からの脱却こそが、エネルギー安全保障の根幹だという点である。化石燃料に依存しないことが最大の安全保障であるにもかかわらず、日本では実践が伴っていない。
第二に、大規模集中型のエネルギー施設は、軍事攻撃の対象となり得るという点である。有事や災害に強いのは、地域に分散した再エネと蓄電池による自立分散型の供給システムである。安全保障の重要性が説かれながら、国内では再エネに逆風が吹き、原発と化石燃料を補助金で維持するような政策が進む現状は、危機の教訓に逆行していると言わざるを得ない。
理想ではなく経済合理性に
持続可能で安定的な供給は「革新的技術」を待つまでもなく、省エネ、太陽光・風力を中心とする再エネ、蓄電池という成熟した既存技術の着実な導入によって実現できる。
太陽光の発電コストはこの10年で約10分の1、風力は3分の1から4分の1に低下し、再エネは、世界のほとんどの地域で最も安価な電源となった。2024年に世界で新設された電源の92.5%が再エネであることは、もはや理想論ではなく経済合理性による選択であることを示す(図3、4)。
天候による変動という課題も、蓄電池の低価格化とデジタル技術なども活用する需給制御(柔軟性)で克服されつつあり「2030年に再エネ比率80%超」を掲げるドイツ、スペイン、豪州の実例が示す通り、再エネ中心の電力システムは現実的な選択肢である。カーボンニュートラルに関しては、既存技術のみで2050年ごろまでに約9割の排出削減が可能で、追加的経済負担は大規模発電システムよりもむしろ小さいというのが、多くの研究者の示すところである。
導入への客観的条件は、第一に印象論を排した正確な数値に基づく議論、第二に、メガソーラーに頼らない適地の活用(屋根上太陽光、ソーラーシェアリング、風力で日本の電力需要は十分賄える)、第三に普及を後押しする制度整備である。逆に、経済合理性を欠くアンモニア混焼による発電やCCS(Carbondioxide Capture and Storage、二酸化炭素回収・貯留)への多額の補助金投入は、化石燃料依存の延命策になってしまい、電気代の上昇を招くことは必至である。


中小企業者が担い手として
エネルギー転換の実践の担い手として、中小企業者への期待は大きい。
第一に、自社の屋根への太陽光設置や蓄電池・省エネへの投資は、エネルギーコストの低減と燃料価格変動リスクの遮断を通じて経営基盤を強化する、経済合理性のある選択である。
第二に、太陽光パネルの販売・設置などは労働集約的であり、同一投資額当たりの雇用創出は火力・原子力を大きく上回る。急拡大するグリーン産業の市場を地域で担うのは、まさに中小企業にほかならない。
第三に、ガソリン車などから電気自動車(EV)に移行する「EVシフト」に象徴される産業構造の転換への対応である。歴史上、「石がまだたくさんあっても石器時代は終わった」のであり、産業構造の転換なくして経済発展を遂げた国はない。転換を脅威ではなく機会と捉え、事業再構築に先んじて取り組むことが求められる。
温暖化対策は、もはや我慢を強いる理想論ではなく、コスト削減と新市場をもたらす成長戦略であり、中小企業者こそが、その最前線に立つことが期待される。

03-3987-4391







