経済的理由で受診できずに 「手遅れ死亡」が年間45人に 民医連 「事例調査」を公表|全国商工新聞

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収入7割減で受診ためらい 現金無くてもまず受診を

調査のまとめを担当した民医連の久保田直生常駐理事

 「正規の国民健康保険(国保)証を持っていても受診が遅れ、手遅れで死亡した人は年間45人に」―。全日本民主医療機関連合会(民医連)は先ごろ、「2021年経済的事由による手遅れ死亡事例調査概要報告」(手遅れ死亡事例調査)を公表しました。加盟する706事業所の調査で、経済的事由で手遅れとなった45事例が報告され、うち23事例(51%)は、正規の保険証や短期保険証を持っていました(図)。調査のまとめを担当した久保田直生常駐理事は「保険証があっても、現金が無く医療にかかれない人が多いと感じる。近年は、コロナ禍で困窮に陥る人々が増えていることも影響している。多くの人は、お金が無いと医療機関にかかれないと思っているが、命が一番大事だ。『具合が悪くなったら、まずは受診を』と呼び掛けている」と話します。
 手遅れ死亡事例には、居酒屋を経営していた50代の男性も。正規の保険証を保持していましたが、コロナ禍で経営が悪化。月収が10~15万円となり、以前より7割も減ったため、治療をためらっているうちに、自覚症状が出現してから半年で命を落としました。
 男性が最初に受診したのは昨年5月。急性出血性胃潰瘍、労作性狭心症、両下肢閉塞性動脈硬化症に加え、心不全を発症していました。1カ月入院し、コロナ支援金申請をソーシャルワーカーに相談。退院後、通院を続けていましたが、10月の予約日に来院せず、電話も不通に。11月初め、自宅で亡くなっているのが発見されました。
 ソーシャルワーカーによると、男性は無料低額診療事業を申請し、生活保護の受給も検討。心不全のカテーテル治療が必要で、治療を勧めても、「金銭的問題が解決したら」と話していたと言います。
 前出の久保田さんは、「死因は特定できていないが、急性出血性胃潰瘍や労作性狭心症は、治療を中断しなければ、命を落とさずに済んだかもしれない病気。経済的な理由で受診できず、亡くなったのは無念でならない。病気は医療で治せるが、経済的な受診控えは政治が解決する問題だ」と述べ、「『すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』と明記した憲法25条の責任を国が果たすべき」と強調しました。「このような事例は、医療費の支払いが困難な場合、一部負担金の減免を定めた国保法44条がきちんと機能していれば、ある程度防げる」と指摘します。しかし、今回の調査で同条が適用されたのは2事例だけでした。
 久保田さんは「お金が心配で医療にかかれず困っている人は、我慢しないで病院のソーシャルワーカーや民商などに相談を」と話します。「全日本民医連などが実施する無料低額診療事業の活用も検討してほしい。しかし、全国で732施設(21年、厚労省調べ)の実施にとどまるため、全員を救えない」と述べ、「困窮者への医療が公的に保障されるように、国保法44条による一部負担金の減免が活用できるよう自治体への要請を強めよう」と訴えます。

無料低額診療事業

 社会福祉法に基づき、生計困難者が経済的な理由によって必要な医療を受ける機会を制限されることのないよう、無料または低額な料金で診療を行う事業。民医連は全国の450施設で実施しており、ホームページで紹介しています。

国保法44条

 災害や失業など「特別な理由」により「一部負担金を支払うことが困難であると認められるものに対し」、申請により一部負担金の減免や徴収猶予などを行えると定めた条項。民商は自治体での適用を求めて運動を進めています。

国保制度改善めざし 埼玉・本庄民商 自治体キャラバンへ学習会

民医連の事例調査で国保加入者の厳しい実態も学んだ本庄民商の学習会

 埼玉・本庄民主商工会(民商)は7月13日、同19日から8月1日にかけて実施される埼玉県社会保障推進協議会(社保協)主催の「2022年自治体要請キャラバン」に向けて、事前学習会を開催。役員ら6人が参加し、本庄市の柿沼綾子市議、上里町の沓沢幸子町議、美里町の堀越賢司町議(いずれも共産)と一緒に、埼玉県社保協の資料集で各自治体の動向を確認。全日本民医連の「手遅れ死亡事例調査」で国保加入者の厳しい実態を学びました。
 上里町の国民健康保険(国保)税の資産割が今年度から廃止され、均等割が引き上がったことに対し、「法定外繰り入れなどをして、国保税が上がらないようにできないか?」との意見に、沓沢町議は「法定外繰り入れをすると、県からペナルティーがくるので困っている」と説明。国保の都道府県単位化で導入されたインセンティブの弊害が明らかになりました。
 手遅れ死亡事例調査について、金澤利行会長=接骨院=は「国保税を何とか払って、医療にかかるお金が手元に残らない状態だ。19年度の全国業者婦人の実態調査でも、具合が悪いとき『我慢する』と13 ・1%が答えた。仕事を休めば収入に直結する中小業者ならではの課題が見える。私も39度の熱があっても仕事をした経験がある」と述べ、「国保法77条で払える国保税を、同44条で医療にかかれる窓口負担をめざし、傷病手当の拡充で安心して休めるよう求めたい」と決意を語りました。
 マイナンバーカードの取得率によって地方交付税交付金に格差をつける方針を総務相が明らかにしたことも話題になり、「自治体と共に、方針の撤回を国に求めよう」と話し合いました。

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