2021年度政府予算案の特徴(下)【解説】|全国商工新聞

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再エネ普及には後ろ向き

 菅政権は、気候変動対策を求める世界的な世論に押され、2050年までに温室効果ガス実質ゼロを政策の目玉としました。しかし、予算案では、石炭火力発電の技術開発に161・5億円を盛り込み、「原子力の再稼働とイノベーションを推進」として高速炉や小型炉の開発などに1314億円も充てています。
 20年度第3次補正予算案では、国家プロジェクトとして、電気自動車の蓄電池などによる電化、水素を燃料とする水素社会、二酸化炭素の回収などの研究開発を10年にわたり支援するために開発基金に2兆円を計上しました。
 水素燃料も電力でつくりだされます。電化、水素化などが進んでも、発電で炭素排出量が増えるようでは意味がありません。二酸化炭素の回収技術についても、高コストである上、技術的には未確立です。
 EUはじめ先進諸国ではグリーンリカバリーとして、再エネ・省エネ・クリーン水素の利活用が急ピッチで進んでいます。コストが急激に低下している再生可能エネルギーの大幅な拡充がされており、その中心は地域資源である再エネの利活用です。日本でも小規模・分散の施設と地域電力系統の確立が求められます。ところが、地域分散や真の地産地消に資する「小規模で自立可能な地域電力系統網」へは実証実験に35億円を計上するにすぎません。

減収補填拒み自然増圧縮

 社会保障関係費は、20年度比1507億円増の35兆8421億円です。感染拡大「第3波」の下、15日に閣議決定した20年度第3次補正予算案での病床確保支援などは計上しますが、受診控えや利用控えによる収入減少を補填する直接支援策は拒み続けたままです。
 削減し続けてきた保健所の「体制強化」は、有資格者の「人材バンク」整備を示すにとどまりました。自治体がPCR検査費用を半額負担する問題も未解決です。
 「骨太方針」に基づく歳出改革を継続し、高齢化などに伴う社会保障費の「自然増」分を計1兆8300億円も削減した路線を継承し、21年度の自然増は4800億円から3500億円へと1300億円も圧縮しました。
 病床削減を進める「地域医療構想」の達成にも固執しています。財政支援で病院の統廃合や病床削減へと誘導する「病床機能再編支援制度」も進められます。公的年金額は「据え置き」としていますが、低すぎる基礎年金の給付水準を約30年間かけて3割削減する方針は変えていません。
 保育所の「待機児童ゼロ」は24年度末までに先送り、75歳以上の高齢者が支払う医療費窓口2割負担の導入も「着実に実行」するとしています。

民意を無視し軍事費増額

 21年度の軍事費予算案は5兆3235億円と9年連続の増額で、過去最大を7年連続で更新しました。
 陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に替わる「イージス・システム搭載艦」導入に向け、調査費として17億円を計上。巡航ミサイルに対応できる迎撃ミサイル「SM6」も新たに搭載する方針です。
 「軍事費を削ってコロナ対策や医療に回せ」と切実に求める国民の声を無視し、沖縄県名護市辺野古の米軍新基地の建設費に846億円を計上。県民の圧倒的反対の民意を踏みにじる菅政権の問答無用の姿勢を象徴するものです。
 21年度予算と一体とされる第3次補正(19兆1761億円)は「コロナ収束が前提」です。「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現」12兆6766億円、「国土強靭化」など3兆1414億円など「ポストコロナ」の名目で巨大開発にお金をつける一方、肝心の感染防止対策は4兆3581億円にすぎません。持続化給付金、家賃支援給付金などの直接支援の継続はありません。ところが、感染拡大を招いたのではないかとの指摘もある「Go To トラベル」には、追加1兆円超が盛られています。緊急事態宣言が再び発令された現下の情勢には対応していません。3次補正は抜本的組み替えが必要です。


 >> 2021年度政府予算案の特徴(上) コロナ名目に大企業優遇 国民生活優先に転換を

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