2021年度政府予算案の特徴(上) コロナ名目に大企業優遇 国民生活優先に転換を|全国商工新聞

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 菅義偉内閣が国会に提出した2021年度政府予算案(一般会計総額106兆6097億円)は、「感染拡大に万全を期しつつ、中長期的な課題にも対応する予算」との触れこみです。しかし、相変わらず新型コロナウイルス対策は渋り、苦境に立たされる業者には冷淡な一方、コロナ経済対策として大企業には巨額の支援を盛り込み、軍拡ももくろみます。緊急事態宣言が再び発令された現下の情勢には対応しない予算案は抜本的組み替えが必要です。

危うい「デジタル化」促進

 菅政権が掲げる「改革」の柱の一つが「デジタル化」です。菅政権は新型コロナウイルス危機によって行政サービスのデジタル化の遅れが露呈したと主張。これを機に社会のデジタル化を強力に進めるという方針を示しています。
 21年度政府予算案にはデジタル庁創設関連経費のほか、「政府全体の情報システムを一元的に管理。この他、市町村の体制整備への支援を通じてマイナンバーカードの取得促進、運転免許証とマイナンバーカードの一体化を促進する」とし、情報システム予算3千億円を計上しました。
 「GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)の時価総額は20年4月、日本の東証1部上場企業全体の時価総額を上回り、圧倒的な存在感」(新型コロナウイルスの影響を踏まえた経済産業政策の在り方について、6月17日)と、政府はデジタル化やハイテク産業の競争力の低下に危機感を募らせており、「Society5・0を実現する技術への投資の呼び水となる政策の強化が必要」と強調します。
 政府が唱える「Society5・0」とは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く新たな社会で、「IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出す社会で、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服される」とバラ色の未来が描かれています。

個人情報の管理強化狙う

 アマゾンはコロナ禍で国民生活のプラットフォームとなり、売り上げは25%増など支配力を強めていますが、同時に個人情報の収集やプライバシー侵害への批判も高まり、EUなどでは規制強化へと動き始めています。
 デジタル庁は民間からの人材登用も進められ、情報システムの運用は米国の巨大IT(情報技術)企業アマゾンの関連会社が担うことになっているともいわれています。強引にマイナンバーカードの普及を図りつつ、医療、教育、各種免許など、行政が持つあらゆる個人情報を、ひも付けようとしています。
 国民の個人情報を行政と大企業が丸ごと活用できるようにするデジタル化は、AIを駆使できる一部の「勝ち組」企業を一層利する一方、国民の権利や利益が損なわれ、深刻な人権侵害を招きかねません。
 大企業のデジタル化の遅れなど競争力の低下は、リーマンショック後、目先の利益に目を奪われ、研究開発投資を怠ってきたためです。これら企業はリストラを競い、2012年から6年間だけでも50兆円もの内部留保を積み上げています。
 また、中小企業の低収益は、重層的下請け構造や不公正取引の強要など大企業の優越的地位の乱用などに主な要因があります。この根本問題には手をつけず、大企業のデジタル化や大企業に役立つ中小企業の新分野展開や事業転換などをコロナ禍に便乗して支援するのは許されません。
 持続可能な社会と経済・SDGsを担うのは、地域の中小企業者です。コロナ禍で存続の危機に立つ事業者の支援にこそ力を強めるべきです。


 >> 2021年度政府予算案の特徴(下)【解説】

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