生きる権利を保障する基礎控除に 220万円ほどに引き上げよ|全国商工新聞

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年額消費支出に基づき拡充を
立正大学法制研究所 特別研究員・税理士 浦野広明さん

消費税実施は憲法25条違反

 民主的な租税原則は、各人が税金を払うことができる力に応じて負担するという考え、すなわち応能負担原則(応能原則)である。この原則は、憲法13条(個人の尊重・幸福追求権)、14条(法の下の平等)、25条(生存権)、29条(財産権)を生かすことによって「つかみとる権利」である。
 所得税は、所得から所得控除の額の合計額を差し引いた課税所得金額に所得税率を掛けて計算する。所得控除は、応能原則を実現するための一つの手段で、納税者本人や扶養家族の状況に応じて控除される「人的控除」(扶養控除、配偶者控除など)と、支払金額に基づき控除される「物的控除」(医療費控除、寄附金控除など)に大別される。
 とりわけ基礎控除は、歴史的に納税者の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障するものとして設けられた。しかしこの建前は、1989年に消費するごとに人権を損なう消費税が実施されたことによって機能不全になった。少額な所得や消費への課税は、健康で文化的な最低限度の生活を営む人権を侵害し、憲法25条に違反する。
 人権は人間が人間らしく生きる権利であり、人間の生存や生活要求に根差す人間生存の基本的な条件を支える権利なので基本的人権という。もともと人は多方面にわたって活動し生活している。従って、それを支える人権も本来、決まりきったものでなく、多面的な保障が必要となる。

複雑な仕組みで煙に巻くな

 自民党新総裁の高市早苗氏は、トランプ米政権が国内総生産(GDP)比3.5%を要求する軍事費について「最新鋭の兵器も備え、スタンドオフ能力(敵基地攻撃能力)も持つ。ここにかかる費用をしっかりと積み上げて、3・5%より高くなるかもしれないが対応していく」と強調している。これは国を守るための歳出であるという。
 突出する軍事費の捻出は人権をないがしろにして、国民を増税地獄に陥れることで生まれる。国の安全とは、国民生活の安全以外のなにものでもありえない。戦争になれば、すべての人権は吹き飛んでしまう。
 25年度税制改定は、所得税の基礎控除、給与所得控除の見直し、特定親族特別控除の創設という複雑な控除の仕組みにして、国民を煙に巻こうとしている。つまり、所得税の基礎控除を25年分から原則58万円に引き上げ、さらに25年・26年は所得に応じた特例加算をするという。しかし、こんな中途半端な控除では話にならない。
 国民の平和に生きる権利の拡充には、少なくとも基礎控除を220万円程度にし(総務省「家計調査年報」による24年の1カ月平均の単身世帯消費支出約18・40万円×12カ月)、他の人的控除も年額消費支出に基づき引き上げる必要がある。そうすれば、複雑な計算から解放される。

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