「車体整備」の工賃が上昇  団体協約の締結が突破口に|全国商工新聞

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 「1983年の創業以来ほとんど上がらなかった、自動車の事故車の板金塗装などの保険修理を行う『車体整備』の工賃が、昨年7月ごろから大幅に上昇。1時間当たり6500円が8500円へ、約2千円もアップした」―。こう喜ぶのは、岐阜・各務原民主商工会(民商)婦人部で、全商連婦人部協議会会長の塚田豊子さん。各務原市内で、夫の義美さんら4人と「(有)ツカダ」を営んでいます。事故車の修理はもちろん、新車・中古車販売、車検や各種保険の取り扱いなど、自動車のことなら何でも対応しています。

公取委の協力で大手4社と交渉
(右から)塚田豊子さん、義美さんら、「(有)ツカダ」の皆さん

 車体整備の工賃単価の大幅上昇の背景には、事故車を修理する車体整備に携わる事業者約4千社が加盟する「日本自動車車体整備協同組合連合会(日車協連)」と損害保険大手4社との約30年ぶりの団体協約の締結があります。
 日車協連の小倉龍一会長は、昨年の本紙新年号「わが業界わが地域」に登場。事故車の約7割が自動車保険を使って修理するが、1カ所当たりの工賃は保険会社が決めており、30年余り据え置かれてきたと告発。「私たちは現状を打開するため、公正取引委員会の力も借りて、2024年5月から大手損害保険会社4社との団体交渉に取り組んでいます。業界としては初の試みで、成功すれば画期的」と述べていました。
 昨年4月、業界トップの東京海上日動火災保険が、工賃の基準となる「指数対応単価」(1時間当たりの技術料)を、平均18.8%引き上げることで合意したのをはじめ、損保各社とも2024年度比で10%前後の引き上げを決定。同7月以降の入庫分から適用され「業界全体の底上げ」(日車協連)と言われました。業界誌「月刊ボデーショップレポート」の推測によると、10年前に全国平均6262円だった指数対応単価は段階的に上昇し、2025年度で「優に全国平均7500円は上回った」と予想しています(図)。

 指数対応単価は、損害保険会社と各車体整備業者が協議して決定されます。整備工場に支払われる事故車両の修理費用は、損保各社が出資して設立した「㈱自研センター」が定める「指数」(作業にかかる時間)に指数対応単価を乗じて、算出されます。
 日車協連は、指数対応単価の上昇について「30年間、ほとんど工賃が上がらなかったことを考えると、画期的」としています。前出の「ボデーショップレポート」は「長期にわたる価格の停滞は1994年10月に公正取引委員会から団体間での価格決定が独占禁止法違反の恐れがある」と、損保協会が「警告」を、日車協連が「注意」を受けたことに端を発すると指摘していました。日車協連が今回、公取委の協力も得て独占禁止法の適用が除外される団体協約を締結したことが、工賃単価の大幅上昇の突破口となりました。

労働条件改善へ単価上昇が必要
「指数対応単価の引き上げを価格交渉に生かすことが大切」と語る「(有)平和自動車」の隅信一さん

 一方、福岡県大野城市で自動車整備「(有)平和自動車」を営む、筑紫民商会長の隅信一さんは「車体整備の工賃は常々、交渉を行い、徐々に値上げしてきたので『7月を契機に大幅上昇』という実感は無く、団体協約の効果のほどは、よく分からない。車体整備の工賃は、自動車修理工場と『アジャスター』(保険金支払金額を確定するために事故を調査する、損害保険会社の査定担当)との交渉で決まるので、事業所や地域によって差があると思う。扱う車種によっても違う」と話します。
 とは言いつつも「指数対応単価の引き上げが合意されたこと自体は、前向きな変化だ」と評価。「この結果を多くの事業者が認識し、アジャスターとの価格交渉に生かすことが大切」と述べます。
 自動車整備業は近年、賃金の伸び悩みと厳しい就労環境などを背景に、若者離れや整備士不足が目立ちます。国土交通省は「全職種と比較して、労働時間が長く、所得額が約1割低い」「平均年齢は、一貫して上昇傾向」とし、公取委は「労務費の転嫁率が低い受注者の割合が高い業種『ワースト1位』」と指摘します。自動車整備士不足は、国民の安心・安全な移動や円滑な物流を脅かしかねない重大問題です。
 隅さんは「業界の労働条件改善や若返りのためには、エンドユーザー(消費者)相手の工賃単価の上昇が必要」と言います。
 「一般には混同されがちだが、『車体整備』と『自動車整備』は全く違う。この間、事故車を保険で修理する板金塗装などの『車体整備士』の工賃単価は上がったが、車のエンジンや電気系統を修理する『自動車整備士』の仕事や、車検などエンドユーザー相手の工賃単価が上がっていない。ここも収益を改善していかなければ、整備業者不足に歯止めがかからないのではないか」

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