税務行政デジタル化に拍車かけ 課税と徴収をさらに強化|全国商工新聞

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納税者の権利擁護を

東京税財政研究センター専務理事 税理士 八代司さん
税務調査の件数コロナ前に回帰

 税務調査は、新型コロナが「5類感染症」に移行したことに伴い、コロナ前の状況に戻りつつあります。国税庁が昨年11月に公表した「令和4事務年度調査等の状況」を見ると、所得税等の調査等の状況は、実地調査の件数、非違件数、申告漏れ所得金額の総額および追徴税額の総額は増加し、1件当たりの申告漏れ所得金額および追徴税額についても高水準となっています。文書等による接触方法を組み合わせた「簡易な接触」による調査も、非違件数など全て増加しています(図1)。特に無申告者や消費税還付申告者に対する調査は強化されています。

次世代システムKSK2の導入

 政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に基づき、ガバメントソリューションサービス(GSS)の整備をします。国税庁も2025年7月よりGSS環境へ移行し、26年6月からは全ての局署でGSS環境への移行が計画されています。これにより、会議資料は紙出力することなくパソコン画面上での閲覧になり、ペーパーレス化が図られるとしています。調査事務・徴収事務では、職員が利用しているパソコンを庁舎外へ持ち出して利用することを想定しています。さらに現行のKSKシステム、e―Taxシステムの後継システムを開発しており、26年度に次世代のシステム(KSK2)を本格導入しようとしています(図2)。

内部事務一元化サービスが後退

 内部事務のセンター化は26年度に全国の税務署を対象に実施される予定で、事務処理が紙からデータを中心とした国税事務のデジタル化に一層の拍車がかかることが予想されます。国税庁はデジタル化の推進を図るために、職員に対しe―Taxの利用率に「ノルマ」を課し、その目標達成に躍起です。他方、コスト抑制策もあり、24年6月送付分から特定の者に対する申告書類の送付の廃止、税務署窓口や郵送での申告書控えの収受押印廃止策など納税者サービスの後退が見られます。

税務署競わせる「増差件数主義」

 税務署の調査部門、調査担当者は日々、「増差件数主義」に追われながら調査事務を行っています。調査事務の状況について毎月、調査件数、追徴税額、追徴税額の中央値、重加算税適用割合等が還元資料として税務署ごとの一覧表が国税局から各署に示され、尻たたきが行われています。また、事務年度開始から一定程度経過すると、国税局主務課による事務指導が行われ、数値が低い署(部門)や重点的な取り組みが遅れている署(部門)へは個別指導が行われます。その結果として、納税者を脅迫するような言動や質問応答記録書の強要など任意調査で許容される限界を超えた調査が散見されます。

権利憲章制定し税務労働改善へ

 国税庁の組織理念が21年4月に見直しが行われました。財務省における「森友学園」への国有地売却を巡る決裁文書の改ざん問題、事務次官のセクハラ問題が起こり、財務省の上意下達の組織風土そのものを変えなければ、不祥事は無くならないと考えたことに端を発します。国税庁の組織としてめざす姿は、「信頼で
 国の財政支える組織」とし、行動規範は、「使命感を胸に挑戦する税のプロフェッショナル」などというものです。
 11年度税制改正大綱に「納税者権利憲章」の制定が明記されましたが、その後の参院選で民主党が大敗し、納税者権利憲章の制定は実現せず、調査手続きのみの制定にとどまりました。税務行政の行き過ぎた合理化・効率化に歯止めをかけ、納税者の人権を無視した税務調査にストップをかけるために、納税者権利憲章の制定は急務です。税務職員に対するノルマ主義脱却にもつながり、労働条件改善に資するものです。

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