不当な税務調査、はね返す! 仲間の立ち会いで「記録書」拒む|全国商工新聞

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 「引き出しを開けて見せろ」「(「脱税しました。申し訳ありませんでした」と記入した)質問応答記録書」への押印を迫る―。こんな無法な税務調査を仲間と共にはね返したのは、岩手・一関民主商工会(民商)のUさん。昨年8月からの税務調査を3月8日、納得の修正申告で終わらせ、「自分独りだったら、言われるままになっていた」と仲間に感謝しています。

一関税務署が入居する一関合同庁舎

 一関市内で電気・通信設備の設計・施工会社を経営するUさん。1988年に個人事業として開業。2008年に法人化しました。順調に業績を伸ばしていた11年3月11日、東日本大震災で被災し、市内東部にあった仕事場は使用不能に。2年後に、民商の援助も得てグループ補助金を獲得し、西に10キロメートルほど離れた場所に新築・移転。ハードルが高い「高度化スキーム貸付」や中小企業再生ファンドによる債権買取など、あらゆる支援策を活用して事業を再建してきました。
 こうした努力が実を結びつつあったところにコロナ禍が襲い掛かり、予定されていた工事がストップ。19年には売り上げが激減し、20年にその反動で一定の回復を見せたことで税務調査を受けることになりました。

任意調査を逸脱

 昨年8月、一関税務署の法人課税部門から電話で税務調査(法人税と消費税)の連絡がありました。Uさんの妻・Mさんは、かつて民商婦人部長も務め、仲間の税務調査の立ち会いを何度も経験していたこともあり、「事前通知の11項目」を署員にしっかり確認。
 9月16日の初回臨場でも改めて11項目を確認し、山口伸事務局長の立ち会いも要求。同席は認めなかったものの、事務所内の離れたところで待機しました。
 調査官は帳簿を確認する前に、「引き出しを開けて見せて」「現金を数えて」「金庫の場所を確認させて」と、任意調査を逸脱する「現況調査」を始めたため、山口事務局長が抗議し、やめさせました。
 2回目の調査(9月20日)でも、遠藤ユカ事務局員が立ち会う下で、調査官は帳簿のコピーを要求し、Uさんが断ると、「終了まで2年くらいかかるかもしれませんよ」と脅すなど、強権的な姿勢を改めませんでした。

事前通知の11項目

 税務調査では左記の11項目を納税者に事前に通知することが税務署員に義務付けられています(国税通則法第74条の9)。
①実地の調査を行う旨
②実地の調査を行う日時
③調査を行う場所
④調査の目的
⑤調査の対象となる税目
⑥調査の対象となる期間
⑦調査の対象となる帳簿書類その他の物件
⑧調査の相手(納税者)の氏名および住所
⑨調査担当署員の氏名および所属
⑩②と③は変更可能であること
⑪④~⑦で通知されなかった事項についても、非違が疑われる場合には、質問検査などを行うことができること

違法行為を指摘

 民商は10月4日、一関税務署に「任意調査における『現況調査』にかかる意見書」を提出。
 帳簿確認もせずに行った「現況調査」は違法・不当と抗議しました。総務課長もその不当性を認め、担当調査官への指導を約束しました。
 ところが、12月9日の調査で売り上げの計上漏れを発見した同調査官は、調査の早期終了をにおわせた上で、Uさんが言ってもいない「脱税しました。申し訳ありませんでした」との文言をあらかじめ記載した「質問応答記録書」への押印を迫りました。認めれば調査期間7年で、重加算税の対象となることの説明も一切ありませんでした。「当時は弱気になっていた」Uさんが応じようとしたため、立ち会っていた藤野秋男支部長=建設=が「ちょっと待って、内容を読み上げて、本人に確認しなさい」とストップをかけました。
 同19日の調査の際にも再び「記録書」への署名・押印を迫ったため、山口事務局長が「納税者が言ってもいないことを書いて、署名させるのは違法行為だ」と警告しました。調査官は執拗に脱税を認めさせる方向に誘導しようとしたため、調査を中断させました。

質問応答記録書

 国税庁は調査の際、訴訟などに備えて、署員と納税者のやり取りを記録する書式を定め、作成するよう指示しています。しかし、「質問応答記録書」はあくまでも任意であり、署名・押印に応じる必要はありません。各地では、「脱税した」などと納税者が回答したように記述される不正が多数発生しています。

意見書を再提出

 こうした異常事態は看過できないと、民商は年が明けた1月26日に、税務署に再度「意見書」を提出。Uさんと菊地善孝副会長・税金対策部長=畜産、山口事務局長が同席し、総務課長に調査官の行為をただしました。
 総務課長も「民商が指摘していることは、その通り。言ってもいないことを記録書に書いて、納税者に押印させるようなことは、あり得ない。再発なきよう指導を徹底する」と約束しました。
 その結果、2月10日の調査では、調査官に加えて上席の統括官が臨場し、「調査期間は3年のみ、一部の申告漏れについて追徴する」ことに。当初300万円ほどと言われた法人税の追徴額は、納得のいく金額に収まりました。
 Uさんは「仲間の調査の経験などを聞いていたことが生きた。民商だからこそ、たたかえた。藤野さんの一言が無ければ『記録書』にサインして終わっていた」。Mさんも「民商の法人決算学習会にずっと参加し、数字が分かっていたので、税務署員にも堂々と説明できた。自主計算・自主記帳の大事さを改めて感じた」と民商と仲間に感謝しました。

主権は納税者に

 菊地税対部長は「納税の義務がことさら強調されるが、主権者は国民だ。自主申告は当然の権利で、税務署員が侵害する行為は許されない」と指摘。「税務相談停止命令制度が創設され、納税者同士の自主的な学び合いに権力が介入しようとしている今こそ、自信を持って自主申告の活動を進めていかなければ」と決意を新たにしています。

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