相次ぐ持続化給付金詐取 税理士 角谷啓一さん|全国商工新聞

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起きるべくして起きた 面談など織り交ぜ改善へ

 持続化給付金の詐取事件が多発している。いずれも、バックに黒幕が存在し、現役の税務職員や元証券会社の社員など実務ができる人材を抱き込み、その下に何十人、何百人という虚偽申請人(学生や無職の若者ら)を駆り集め、彼らを事業者に見立て大量の不正申請を行う、というやり方である。
 その手口は、給付金申請に必要な2019年分の確定申告書などを虚偽申請人の名前で偽造し、偽造した申告書等を税務署に提出(電子送信)させ、税務署の受け付け印が押された申告書控え(副本)等を、給付金申請書に添付するというやり方だ。もちろん、その申告書や元帳等は、19年と対比して収入が大幅に減収したように偽造し、給付金の適用要件に合致させるように作成する。現役の税務職員等であれば、難しいことではない。ちなみに、19年分確定申告の申告期限は、当時は20年4月15日であり、持続化給付金の申請開始は同5月1日だから、彼らが偽造した確定申告書は、おそらく期限後申告分だったと思われる。彼らの手口は、早晩バレる。しかし、バレた時には黒幕は、「億」という大金をつかんで「高飛び」である。そんな時間的余裕はたっぷりあっただろう。

前年の所得証明求めれば防げた
「持続化給付金の支給を急げ」と要求した経産省前の抗議行動=2020年6月10日

 以上のような手口を防ぐ手段を検討してみた。19年分の確定申告書が、持続化給付金の申請開始日(同5月1日)以降に提出されている場合には、その前年(18年)の所得証明(納税証明その2)の添付を要件とする。その結果、前年に所得が存在しないことが判明した場合には、申請人と面談の上、事情の説明を求める。これによって、おそらく同類の事件は大幅に圧縮されるだろう。この方式は、今後の参考にもなる。また、担当者の審査があまりにも形式に流れ、実態を直視しようとしない。これでは犯罪者グループを喜ばせる結果にしかならない。
 このような事件は、起きるべくして起きた。原則として、申請手続きの全てがインターネットを通じて行われ、犯行グループはただの一度も、当局側と顔を突き合わせる必要が無かった。犯人にとって、これほどありがたいことはない。どうぞ給付金を詐取してください、と言わんばかりである。
 その一方で、お年寄りの事業主など、パソコンは使えない、相談する人がいないからと、給付金の申請を見合わせた人も多数いたはずだ。コロナで困った事業者を救済するという理念からすれば、いくら「給付金のスピード化」が求められているとしても、こんな冷たいやり方が、あってよいはずがない。パソコンを使えない人には相対で指導をする、その際はやはり、親族・税理士等の同席をも認めるといった配慮もなされるべきだ。
 今後のために言っておきたいのは、詐取事件が多発したといって、必要以上に審査を強め、不支給とか支給の遅滞が増えるようなことがあっては、それは「お門違い」というものだ。

税務署の労組の弱まりも遠因か

 蛇足であるが、一連の事件に現職の税務職員が関わっていたことに心を痛めている。権力的な職場である税務署においてモラルハザードが起きている。最近の税務職員は「質」が低下しているといった声も聞かれる。しかし、そういう問題だろうか。
 20年くらい前までは、曲がりなりにも各税務署に「たたかう労働組合」(全国税)が職場にそれなりの影響を与えていた。全国税は、仕事のやらせ方、税務行政の在り方などで国税庁当局に真正面からものを言ってきた。当局も、全国税の要求にそれなりに耳を傾けてきた。そうした空気が、職場に良い緊張感を作り出していた。当時、管理職を含め、仲間の支持も根強くあり、仲間からカンパもかなり集まった。
 いま、全国税組合員は極めて少数ながら頑張っているが、余りにも少な過ぎる。当局の長い分裂攻撃の結末が、税務署という職場を良くない方向に変質させつつあるのではないだろうか。

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