所得税法一部改正 隠蔽仮装で必要経費否認 立正大学教授・長島弘さんが解説(上)|全国商工新聞

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家事関連費が経費と認められない可能性

 「家事関連費等の必要経費不算入等」の条文を盛り込んだ「所得税法等の一部を改正する法律案」が衆院を通過し、参院で審議されています。家事関連費とは、一つの支出が仕事(業務)とプライベート(家事)の両方に係る経費のこと。今回の改正案では、隠蔽仮装行為に基づいた申告または無申告の場合、必要経費を否認するという内容が含まれています。国税庁は「記帳を適切にしている、または適切にしようとしている納税者を罰する意図はなく、刑事告発するような大きな事案が対象」と説明しています(2月7日号既報)。改正条文をどう見るか、立正大学の長島弘教授が2回にわたって解説します。

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 この改正は、個人に適用される所得税法と、会社等に適用される法人税法の両方にある。

行政の都合で政令の改悪も

 法人税法では、隠蔽仮装および無申告の場合には、損金にならない旨規定している。ただし括弧書きで既に提出した確定申告書や修正申告書の申告の基礎となっていた金額は除く旨規定していることから、正しく申告している分までが否認される訳ではない。また、「次に掲げる場合…この限りでない」として、帳簿等から取引が行われたことおよびその金額が明らかな場合には対象外、すなわち否認されないことが規定されている。また、原価(ただし外注費のような役務提供のみの原価ではなく、引き渡した資産の取得原価である)についても括弧書きで「…直接に要した額として政令で定める額を除く」とあることから、基本的には適用の対象外、すなわち否認されないことになると思われる。ただし政令(施行令)に内容の全てを委任していることから、国会の審議を経ずに改正が可能であり、当初は問題がないとしても、今後、行政に都合の良い政令改正・改悪が行われないという保証はない。
 一方、所得税法は45条の「家事関連費等の必要経費不算入等」として規定されている。こちらは、無申告といっても不動産、事業、山林所得のある者または前々年に雑所得としての収入金額が300万円以上ある場合に限っている。こちらの方も、原価および既に提出した確定申告書や修正申告書の申告の基礎となっていた金額は除く旨を規定している。この点は法人と個人とで大差がないが、問題は家事関連費である。
 家事関連費については、所得税法施行令96条で一定の金額の必要経費算入を認めているところ、隠蔽仮装および無申告の場合にそれが認められるのかという問題がある。というのも家事関連費は、家事上に関連する経費の中で、必要である部分を明らかにできる場合等に限定されている。とすると解釈として「売上原価の額または費用の額の基因となる取引」ではないという見解も生じよう(規定の置かれた位置からもそう解釈されかねない)。このように解釈されれば、家事関連費は必要経費に入れられないことになる。

原価も経費にできぬことも

 経費が多くて所得がないから申告不要と思い込んで帳簿も付けていなかったという者が調査になり、その段階で帳簿を付けても、家事関連費を全て否認されれば、所得があることにされかねない。また帳簿を付けられなければ、原価すら経費にできないことになる。さらには消費税のように、調査時点で帳簿を提示しなければ認められないという解釈がなされれば、全ての経費が否認されることになる。
 なお、前々年に収入金額が300万円以上ある者なので、無申告の中でも悪質のように見えるが、仮想通貨での乗り換えや、馬券事件のように、全体では損しているにもかかわらず所得があると解される場合があり、税法を知らず、申告不要と思い込んでいるケースもある。このような無申告者が狙い撃ちにされる危険性がある。


 >> 所得税法一部改正 隠蔽仮装で必要経費否認 立正大学教授・長島弘さんが解説(下)

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