全国商工新聞

「個人情報保護」の理念なく

 「マイナンバー(個人番号)カードを全国民に持たせ、資産や健康など膨大な個人情報を国が一元管理し、監視社会を実現する」―。こんな恐ろしい法案が国会で審議されています。菅義偉政権が、9月のデジタル庁発足をめざし、今国会で成立を狙うデジタル改革関連法案です。そのことをニュースで知ったショウ君は、民主商工会(民商)役員で、物知りのミンさんに質問。法案の概要や業者に与える影響、廃案に向けた展望などを問答しました。

設置の狙いは?
膨大な個人情報を国が把握

 ショウ ニュースで「菅首相がデジタル庁を設置する」と言ってたけど、デジタル庁って何だい?
 ミン 日本全体のデジタル化を進めるための「司令塔」になる官庁をつくろうとしているんだよ。
 ショウ 司令塔って?
 ミン 国と自治体の情報システムを統一して、マイナンバーカードで給付金などを受け取れるようにする。それから、スマホで住民票の写しや印鑑証明、戸籍謄本が取り寄せられるようにする。学校教育にも、子どもたち一人一人にパソコンを持たせてデジタル教材を普及させようとしているんだ。
 ショウ 便利になりそうだが…?
 ミン もちろん、暮らしに役立つ行政サービスのデジタル化は必要だ。
 ショウ 何が問題?
 ミン デジタル庁創設の大きな狙いは、マイナンバーカードを全国民に持たせて、膨大な個人情報を個人番号でひも付けし、政府が全部握ることにある。
 ショウ 面倒だからマイナンバーカードを持ってないけど、確か利用分野は限られていると聞いたよ。
 ミン よく知ってるね。個人番号の利用は、社会保障と税、災害対策の3分野に限定され、個人番号の提示・提供を受けた自治体や銀行、病院は目的以外には使えない。しかし、マイナンバーカード自体は、いろんなことに利用可能だ。カードに搭載されたICチップに個人情報を蓄積できる(図表1)。政府は、カードを使って「マイナポータル」の活用を進めようとしている。

 ショウ また、カタカナか。マイナポータル…?
 ミン インターネット上の自分専用サイトのことだ。マイナンバーカードのICチップでログインすると、カードに蓄積した個人情報、税や所得、世帯などの情報、予防接種の履歴などがスマホやパソコンで確認できる。国は、役所に行かなくても、いろんな手続きが電子申請できて便利というが、裏を返せば、行政がつかんでいる膨大な個人情報を閲覧できるということだ。カードとパスワードを一緒に紛失したら、他人が成りすまして、閲覧・利用される恐れもある。
 ショウ もし悪用されたら、大変じゃないか!?
 ミン そうなんだ。マイナンバーカードは、3月からは健康保険証として使えるようになった。しかも、国は当初、一人10万円の特別定額給付金の支給が遅れたことを理由に、個人番号と預金口座をひも付けにしようとした。義務化は見送られたが、任意で一人一口座登録すると明記された。
 ショウ でも、マイナンバーカードを持っている人は少ないと聞いたよ。
 ミン カードの普及率は24%程度。「2022年度までに、ほとんどの国民に普及させる」という目標にはほど遠い。だから、9月からデジタル庁をつくって、マイナンバーカードを全ての国民に持たせ、個人情報を全て管理しようとしているんだよ。

中小業者への影響は?
申告納税制度の形骸化

 ショウ 9月からって、半年先じゃないか!? 業者への影響は?
 ミン 一つは、行政手続きなどにおいて、個人番号の利用が徹底され、番号未記載の場合は書類が収受されなくなる恐れがある。
 ショウ それは困るよ。
 ミン 今は、確定申告書や雇用保険手続きなどで、本人が番号を提示・提供を拒む場合は、書かなくても不利益がないが、利用を強制され、家族や従業員まで番号を提出させられたら、事務負担が大変だ。新たなシステムやソフトの導入で負担もかさむ。国が取引内容や資産状況を容易に把握でき、税務調査に悪用される危険性も高まる。今でさえ、取引先や金融機関への勝手な反面調査が横行しているのに、さらに拡大する恐れがある。
 ショウ 怖いな…。
 ミン 個人番号の利用が進んでいる韓国では、税額などを記入した確定申告書を税務署が納税者に送付している。これを国税庁がまねしたら、憲法にのっとった申告納税制度が実質的に破壊されてしまう。デジタル化推進で、国税庁推奨の電子申告や電子帳簿しか認めなくなる可能性もあるんだ。
 ショウ e-Taxか…。そのうち、自分で税務署への申告も認められなくなるの?
 ミン 国の持続化給付金などは、ウェブ申請しか認めなかっただろ?
 ショウ デジタルに不慣れな人は苦労してたね。そんなことで差別されるのはおかしいよ。
 ミン それを「デジタルディバイド(デジタル格差)」と呼ぶが、そんな格差は許されない。さらに、デジタル庁設置で、現在は各自治体が独自に採用している情報システムを全国で統一する狙いもある。先行実施した自治体では、システムの仕様変更ができないことを口実に、地方税や国民健康保険(国保)料・税の減免を拒否する事例などが各地で起きている(図表2)。デジタル化を理由に、納税者の権利が侵害される恐れがある。
 ショウ そりゃ、納得できないな。

設置は決まっちゃったの?
世論次第で断念させられる

 ミン 国会で審議されている「デジタル関連5法案」(図表3)は何十本もの法律を一括で審議し、内容や問題点が分かりづらいが、今でも弱い日本の個人情報保護の規制をさらに弱め、全ての国民を監視する社会がつくられる危険性が指摘されている。法律家ネットワークは「デジタル監視法」と呼んで反対している。

 ショウ 国から監視されるのは勘弁だな…。
 ミン 法律家の懸念は、国や自治体など行政機関が保有する個人データの利用は、今はある程度制限されているが、「相当もしくは特別の理由」があれば、他の行政機関に個人情報が提供できる規定(行政機関個人情報保護法の規定)が、デジタル関連法案にあるからだ。本人の同意なく、捜査を理由に、個人データが警察に無制限に流れる危険性もある。
 ショウ 危ない要素がいっぱいってことだ。
 ミン 国会で指摘されているのは、デジタル関連法の「基本法案」の理念に「個人情報保護」が一言も入ってないことだ。塩川鉄也衆院議員(共産)は「個人情報は『個人の人格尊重の理念のもとに、慎重に扱われるべき』で、プライバシー権は憲法が保障する基本的人権だ。個人データの利活用を優先して人権保障を軽んじ、国家による個人情報の集積が『監視社会』につながる」と指摘した。
 ショウ 個人情報は、勝手に使わないでほしい。
 ミン デジタル庁は発足時の職員規模を500人程度とし、うち100人以上は大手IT企業などから登用する予定だ。デジタル利権を民間に誘導する狙いも透けて見える。
 ショウ 総務省の違法接待が大問題になっているのに、うさんくさいな。問題だらけだと思うけど、通っちゃうんだろ?
 ミン そうとは限らない。国会内の力関係だけを見ると不利なことは確かだが、国民の世論次第で逆転は可能だ。思い出して、ご覧。持続化給付金や家賃支援給付金など中小業者への直接支援も、国は当初かたくなに拒否していたが、民商・全商連などが「自粛と一体に補償を」の声を粘り強く上げて実現させた。昨年5月には「#検察庁法改正案に抗議します」のツイッターデモが500万件近くに広がり、廃案に追い込んだ。まずは、身近な人に法案の問題点を知らせよう。確定申告書に個人番号を記入しないなど、番号制度を形骸化させる運動も引き続き重要だ。
 ショウ 分かった。家で話してみるよ。

運動広げて廃案に 滋賀県連など革新の会しが学習会で決起

「革新の会しが」が行った「デジタル庁&マイナンバーカード」の学習会

 滋賀県商工団体連合会(県連)も加盟する「革新の会しが」は2月7日、「デジタル庁&マイナンバーカード」の学習会を滋賀弁護士会館で開催し39人が参加。日本共産党の大門実紀史参院議員がオンラインで講演し、デジタル庁の狙いや危険性を学びました。
 大門氏は、菅政権が進めるデジタル戦略の司令塔が「デジタル庁」であり、その狙いは「国民監視社会」と「監視資本主義」にあると解説。マイナンバー(個人番号)カードを2022年度中に一気に普及させ、3月から実施された健康保険証をはじめ銀行カードや国家資格、運転免許証とのひも付けが狙われ、究極にはスマートフォンへの一体化を狙っていると指摘。特に、運転免許証は警察に情報が集中するため、警戒・注意が必要と述べました。
 いま必要なのは、個人情報の「一元管理」ではなく、プライバシー権を守る個人情報保護法制の整備と「分散管理」を行う体制の整備だと強調しました。
 「デジタル化でキャッシュレスや電子書籍、ネット通販など便利になったが、引き換えに、個人情報を企業や行政に渡している意識が弱かった」「権力による情報一元管理につながるマイナンバーカード強制に反対し、個人情報が守られる法整備を求める運動を広げることが大事」などの感想が寄せられました。

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