「国保に傷病手当を」の要求実る|全国商工新聞

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国保にコロナ対応・傷病手当金創設 個人事業主も対象に

 岐阜県飛騨市と鳥取県岩美町はこのほど、新型コロナ感染症で療養のため働けなくなった場合の「傷病手当金」を創設。国が支援する被用者だけでなく、自治体独自の財政措置も行い、個人事業主も対象に含めることになりました。
 両自治体とも前年度の事業所得を365日で割った1日分の3分の2の額を支給。支給要件は被用者向けの傷病手当金と同じです。
 飛騨市では、飛騨民商が申し入れを行い、平等を図るために個人事業主も対象にした制度創設を求めてきました。
 岩美町では、国からの臨時交付金なども活用し、一般会計から繰り入れ。4月の補正予算で、ほかの新型コロナ感染症対策とともに専決処分で決められ、約185万円を計上しました。

自治体が条例をつくれば被用者分を国が財政支援

新型コロナでの国保の傷病手当

 政府は、新型コロナウイルス感染症への緊急対策として、コロナウイルス感染や疑いのある国保の被用者に、自治体が傷病手当金を支給する場合、その全額について特例的な財政支援を行います。市町村は条例をつくることで、国の財政支援を受けて、傷病手当金を支給します。東京を除く県庁所在地・政令指定都市のうち37市が条例を改正(11日現在)。
【国の定める対象者】
 被用者のうち、新型コロナウイルス感染症に感染した者、または発熱等の症状があり感染が疑われる者
【支給対象日数】
 働けなくなって3日が過ぎた以降で、就労できなかった勤労予定期間
【支給額】
 1日当たりの支給額=〔(直近の継続した3カ月間の給与収入の合計額÷就労日数)×(3分の2)〕×支給対象となる日数
 ただし、1日当たりの支給額が、標準報酬月額等級の最高等級の標準報酬月額の30分の1に相当する金額の3分の2に相当する金額(2020年3月現在、日額3万887円)を超えるときは、その金額とする
【適用期間】
 2020年1月1日~9月30日の間で療養のため仕事ができない期間(入院が継続する場合などは最長1年6カ月まで)

条例制定求め自治体要請

 政府は、国民健康保険(国保)に加入する被用者(給料をもらっている人)が新型コロナウイルスに感染した場合、傷病手当として全額支給することを決定しました。各地の民主商工会(民商)婦人部は、自治体要請の中で「今回の緊急対策では、家族従業者も対象となる」ことを確認し、条例づくりを後押し。「国保に傷病手当を」と長年運動を重ねてきた要求が実ったもので、「自営業者を含め、全加入者を対象に」と、引き続き声を上げています。

県「家族従業者は対象」 市町村への指導求める

県に国保制度の拡充で訴える神奈川県婦協の目黒千恵美会長(右)

 神奈川県連婦人部協議会(県婦協)は4月16日、県の健康福祉局を訪問し、国民健康保険の被用者が新型コロナウイルスに感染した際の傷病手当制度の拡充を求めました。答弁で、全ての家族従業者も対象にすることが明らかになりました。
 県婦協は「対象を事業主と白色専従者まで拡大すること。財政支援を国に要望すること」を要請。県は、「今回の緊急対策では、家族従業者は傷病手当の対象となることを、県内の市町村に通知しています」と答え、青色申告か白色申告かの区別なく、家族従業者は被用者とすることを明言しました。
 個人事業主を対象とした財政支援はなく、自治体首長の専決事項になっていることについて、目黒千惠美会長は「国の責任できちんとお金も出してほしい。県も私たちと一緒に国に対し声を上げてください」と強く要望。県は「要望は国へ伝える。業者婦人の皆さんも、ぜひ国に要望してください」と答えました。
 白色申告の家族専従者については、川崎市でも臨時議会(4月21日)で、健康福祉局が「事業専従者控除の対象になる専従者の給与なども算定対象」と答え、すべての家族従業者が対象になることを明確にしています。
 県婦協では、「コロナ対策として、事業主と家族従業者全員を対象にすべき」と訴え、全県に早急に条例を作るよう3月下旬から県に指導を求めてきました。「国保に傷病手当を求める長年の婦人部の運動からも、今回はとりわけ声を上げたい」と「事業主・フリーランスも対象に」の政府要請はがき運動も行っています。

県の国保年金課に訴え 保険料軽減も要請

国保の傷病手当を中小業者、家族従業者にも」と訴える愛知県婦協の役員

 愛知県婦協は4月2日、新型コロナウイルスによる危機から、中小業者・家族従業者のいのち・くらし・営業を守る緊急対策を求め、愛知県の国保年金課に要請を行い、5人が参加しました。
 地域の中小業者がコロナウイルス拡大で多大な影響を受けていることを訴え、①国保料・税、介護保険料等について、当面免除など大幅な負担軽減を②国保の傷病手当支給について、中小業者・家族従業者にも適用を-の2項目を要請しました。
 対応した課長補佐は、①については、「国からも連絡が来ているので、とにかく窓口に相談を」と回答。②については、「国からの連絡は、被用者となっているので中小業者は対象になっていない。給与となっている青色専従者は対象になると思う」と話しました。
 参加者は「市町村の判断で対象を広げることができると、厚労省が国会答弁した。財源はどうなっているのか」と質問。「事務連絡を見る限り、市町村独自でやることには、国の財政支援はないと思う。国保財政が赤字の市町村が多いので、一般会計などを使って対象を広げることは難しいのでは」と回答。参加者は、「各民商婦人部で自治体に要請して、対象を広げさせないといけない。独自でできなければ、県や国へ意見を上げてもらうことが必要」と話し合いました。

事業主まで適用させよう 日本共産党 倉林明子参院議員に聞く

 国会質問で「国保の傷病手当」について取り上げ、中小業者の立場から改善を求めている日本共産党の倉林明子参院議員に、制度の課題や、拡充を迫る運動のポイントを聞きました。

-国が傷病手当を出すという今回の施策について、評価できる点と課題を教えてください。

 国が全額負担して国保に傷病手当金を盛り込んだのは初めてのことで、民商婦人部の皆さんが長年進めてきた「国保に傷病手当を」の運動が、限定的であっても実ったといえるものです。日本共産党の宮本徹衆院議員が質問で取り上げ(3月6日)、3月10日には厚労省から全国へ傷病手当の支給について、事務連絡が出されました。5月14日の厚生労働委員会で、白色申告の専従者も国の財政支援の対象であり、「被用者」とは青色・白色の申告形態を問わず、すべての家族従業者が対象となるという答弁も得ています。
 問題は、「対象が新型コロナ感染症に感染した被用者に限る」として、自営業者は対象外とされている点です。厚労省は、その理由について傷病手当は給与に対する所得補償という考え方に基づいていること、自営業者の所得を正確に把握することが難しいことを挙げています。
 だからと言って、自営業者の所得補償はしなくてよいはずがありません。自営業者の所得は確定申告で明らかであり、休業期間で割り戻せば補償は可能です。実際、新型コロナによる学校一斉休業要請に伴い、新設された特別休暇の助成制度では、休業補償の対象にフリーランスも含めました。金額は所得補償には程遠いものの、「自粛と補償は一体で」の声が政府を動かしています。「自営業者にも傷病手当を」の声をさらに広げて、国の責任で全ての加入者に傷病手当を実現させましょう。

自治体の判断で対象拡大できる

-倉林議員は、参議院厚労委員会(3月26日)でこの問題を取り上げ、「自治体の上乗せは可能」との答弁を引き出しています。事業主も対象にできるということですが、手順や財源について教えてください。

 傷病手当を実施するには、市町村の国保条例の改正が必要となります。財源は国の補正予算の成立が必要です。1月から9月までの財政保障を行うことや、さかのぼっての適用も可能としているので、急いで条例改正するよう、地方自治体や議会へ働き掛けることが大事になっています。
 参議院厚労委員会で引き出した答弁の通り、自営業者への対象拡大は、自治体が判断すればできるということです。国の直接の財源支援はありませんが、補正予算で提案されている地方創生臨時特別交付金(約1兆円)は、地方が新型コロナ対応に使える財源です。自治体の上乗せ、対象拡大は可能です。

世論が高まれば政治の転換可能

-全国の民商婦人部では、拡充を求めて自治体との交渉を続けています。

 全国で民商婦人部の皆さんは、各自治体に財源試算させるなど「国保に傷病手当を」の運動を草の根で取り組んできました。私も京都市会議員時代から、婦人部の皆さんに鍛えられ、論戦に生かしてきました。何よりも、「暮らしと営業の見直し運動」で分析された要求には説得力があります。これまで積み上げてきた国保改善の取り組みが、いよいよ生かされるチャンスでもあります。
 新型コロナへの対応では、「自粛と補償は一体で」との圧倒的な世論が、野党がまとまる大きな力になり、政府を動かしています。対象を限定した一世帯30万円の給付は与党からも批判が上がる中、野党が一致して求めてきた1人一律10万円に修正。いったんは、閣議決定した予算を出し直さざる得なくなりました。声を上げれば、政治は変えられる。これまでかたくなに拒んできた傷病手当で一歩前進させました。さらに、誰ひとり取り残さずに救済を、一刻も早い補償を、現場のリアルな実態を要求にして突き付けていきましょう。私も、全国の皆さんと心ひとつに頑張ります。

業者を排除するな

鳥取・米子 民商婦人部長 西田 美津子さん

 「国保に傷病手当ができた」と民商で知ったとき、「スゴイ!」と喜びました。しかし、中身を見ると、対象は被用者だけ。自営業者が対象となっていないことを知り「そんなのおかしい」と、すぐ市役所に交渉に行きました。
 新型コロナウイルス感染症に対する一連の政策で、つくづく自営業者は疎外されていると感じています。学校休校に伴ってできた休業補償も、自営業者は対象外。
 私たちは一生懸命働き、大変な思いをして、税金や社会保険料を納めています。それなのに、これだけ大規模な感染症対策のときも助けてもらえないなんて。休めない業種や感染のリスクをもって働いている事業者もいるのにと、本当に頭にきます。絶対に自営業者も傷病手当の対象にするべきです。
 鳥取県岩美町では、事業主も傷病手当の対象とされることになり、大きな前進です。これを突破口に運動を広げて、コロナウイルスに感染したときはもちろん、その他の病気やけがについても、傷病手当が受給ができるようにしたいです。

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