“社会のインフラ”新たな広がり 大学教授×経営者「スナック」の新展開で鼎談 【みる・きく・あるく業界探検隊】|全国商工新聞

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 「街のオアシス」として地域住民に親しまれるスナック。この10年ほどで、コロナ禍や物価高騰、人材不足などの影響を受けて全国で約3万軒減り、約4万4千軒になったと推計されます。ホルムズ海峡封鎖による諸物価高騰で、さらなる逆風にさらされる中、本紙3面下の連載「スナック千夜一夜」でおなじみの谷口功一東京都立大学教授は「これまでのスナックの良いところを凝縮した、新しい形のスナックが生まれている」と言います。谷口さんを聞き手に、「新しい形のスナック」の若き経営者のお二人、坂根千里さん(「スナック水中」)と田中類さん(「街中スナック」)を招き、その魅力と可能性を探りました。

全面ガラスの「スナック水中」の入り口(同インスタグラムより)
宮城県・JR岩沼駅に誕生した駅中スナック

明るい社交場多店舗展開へ 出会いに人生の面白さが
「スナック水中」経営 坂根 千里さん

 さかね・ちさと 1998年、東京都八王子市出身。一橋大学社会学部を卒業後、アルバイト先だった国立市の「すなっく・せつこ」を第三者承継し、22年4月に「スナック水中」をオープン。多様な文化と人々が交わる「明るい社公場」を志向し、「まちづくり系」を自認しつつも「あくまでもエンタメ」としての店づくりを追求する。
 ▽東京都国立市富士見台1の17の12 エスアンドエスビル1F 042・505・7307 正月除く毎日営業、午後7時~午前0時。

みんな欲しい地域の居場所 多世代交流で街を元気に
「街中スナック」経営 田中 類さん

 たなか・るい 1986年、東京都町田市出身。アパレル、印刷、不動産、人材、ウェブメディアなど、さまざまな業界を経験後、2017年に株式会社を設立し、雑貨店を開業。前田裕二著『人生の勝算』(2017年)を読んで「世の中にはスナックが必要」と痛感し、22年5月、経験ゼロでスナックをオープン。めざす未来は「会話が増える街をつくる」こと。
 ▽東京都荒川区西尾久2の37の6 03・6807・8820 水~土曜日営業、午後6時~10時。

「共同体的なつながり」を求める青年層の増加に合致
東京都立大学教授 谷口 功一さん

誰もが楽しめる場

谷口 私は最近、スナックの新たな二つの展開に注目しています。一つは、「介護スナック」のような高齢化社会に対応する取り組みです。今、スナックを”内製化”する高齢者施設が静かに広がっています。もう一つは、私が仮に「まちづくり系」と呼んでいるスナック―まさに、お二人が実践されている方向です。「水商売っぽさ」が薄く、「コミュニティー・オーガナイジング(共同体づくり)」の色彩が濃い、年齢・性別を問わずに楽しめるスナックを、そう呼んでいます。まず坂根さん、店の紹介をお願いします。
坂根 東京都国立市で「スナック水中」を開業して4年になります。2022 年4 月、大学を卒業するタイミングで、アルバイト先だったスナックの事業を継ぎました。スナックに、なじみのない方のファーストステップになるような店をめざしています。店の中が見えるように入り口を全面ガラスの扉と窓に改装。お酒が得意でない方にも飲みやすいカクテルも用意しています。店内はカラオケ有り、禁煙です(喫煙スペース有り)。
谷口 オープン後は「一橋大生がスナックを継いだ」と話題になり、新聞やテレビでも取り上げられました。私がお店に行った時は、20代から60代まで和気あいあいと交流していたのが印象的でした。では、田中さん、どうぞ。
田中 東京都荒川区で「街中スナック」を手掛けて4年半です。10年ほど前に雑貨店を始め、区の地域振興事業にも携わってきました。「いろんな世代がつながってこそ、街は元気になる」と考え、たどり着いたのがスナックです。”若者、現役、シニアの3世代交流”が店のテーマで、お客さん同士のコミュニケーションを重視しているので、カラオケは置いていません。
谷口 「街中スナック」は、近隣の清掃活動やお客さんとのバス旅行など、地域コミュニティーづくりに一役、買っています。店の運営は、地元の高齢者サポート企業が行い、田中さんは「街中スナック」を広めるべく、各地を飛び回っていますね。
 今、人を雇えずに店を閉めるスナックが多い中、坂根さんは「100店舗をめざす」という目標は変わっていませんか?

打ち解ける”魔法”

坂根 開業当時からチェーン展開したいと考えています。この秋、JR国立駅近くで、もう一店舗オープンする予定です。人材をどれだけ確保できるかが課題で、現在、大手設計会社「(株)日建設計」と2年間の実証実験プログラム「FUTURELENS」に取り組んでいます。スナックは人と人の関係が深まる魔法があります。その魔法の「法則」をひもとき、今後の店舗デザインやサービス設計に落とし込んでいく予定です。
谷口 営業のノウハウを”口伝”ではなく、客観的なものとして伝えられるようにする試みですね。以前は「スナックと豆腐屋にチェーン店は無い」と言ったものですが、最近、スナックのチェーン展開は可能だと、私自身の認識を発展させました。
 田中さんは、JR東日本と協業して、宮城県の岩沼駅(岩沼市)で「駅中スナック」も手掛けていますね。

地域社会へのドア

田中 移住者など、地域で居場所を探している方の利用が多いですね。地元の高校の先生にカウンターに立ってもらったり、ラジオ局のパーソナリティーとコラボするなど、店を起点にしたイベントを始めています。
谷口 移住者のコミュニティーづくりは重要ですよね。スナックって”地域に入っていくためのドア”のようなものです。私自身が今、住んでいる地域に根付いたのも、スナックに行って地域の人たちを知ったからです。
坂根 本当ですね。でもまだまだ「スナックは自分には関係ない」と思っている人がほとんどです。人付き合いの「タイパ(タイムパフォーマンス)」が重視され、心の摩擦を避ける傾向が強まっていますが、人生のスパイス、面白さは実は「他者との偶発的な何か」だと思う。スナックには、それがギュッと詰まっています。
田中 僕がスナックを始めて驚いたのが「スナックって、こんなに社会的信用が無いの?」ということです。最初は求人誌に掲載することもできなかったのが、JR東日本と協業したことで信用が高まりました。今度、初めて自治体の仕事を手掛けることになりました。山口県下関市がウチの店を貸し切り、下関の面白い人たちを呼んで、名産品を振る舞い、スナック形式で交流してファンを獲得し、関係人口創出につなげようという試みです。
谷口 素晴らしい!大抵の社会問題は、スナックに行けば解決しますね。
田中 スナックに行ったら人に会えます。人に会えると、解決できることは多い。「社会のインフラとしてスナックが必要」ということに、みんな気付き始めているように思います。
谷口 若い世代の意識も変化しています。今の大学生たちを見ていると「共同体的なつながり」を自然と求めている。多少なりとも公益を意識する=「みんなで楽しくするには、どうしたらよいか」を考える若者が増えてきていると感じます。「まちづくり系」スナックは、そういう流れとも合致します。お二人の活躍に今後も注目しています。

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