【湖東京至税理士に聞く】総選挙 消費税の食料品ゼロ%は大問題|全国商工新聞

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 ほぼ全ての政党が、衆院選(2月8日投開票)の公約として消費税減税・廃止を掲げています。与党の自民・維新両党と中道改革連合は、「食料品を消費税の対象としない」(自民・維新)、「食料品消費税ゼロ」(中道)と打ち出しています。食料品の消費税ゼロ%の何が問題か―。湖東京至税理士に聞きました。

物価は下がらない

 まず第一に、食料品の消費税ゼロを公約に掲げている政党は、これを物価高対策として打ち出しています。しかし、食料品の消費税を0%にしても食料品の物価は下がりません。多くの人々は、今8%の税率が0%になったら、商品の価格も8%下がると思っていますが、そうはなりません。
 なぜなら、消費税という税金は消費税分を本体価格に上乗せして消費者から取らなくてはならないという義務も保証もないからです。たしかに8%から10%に税率が引き上げられたとき、ほとんどの店や企業がその分、価格を2%上げました。しかし、上げたのは法律上の規定ではありません。法的には単なる「便乗値上げ」なのです。
 では税率が下がったら、どうなるでしょうか。店や企業は値段を下げる義務はありません。もし下げるところがあったら、「便乗値下げ」です。つまり「下げる、下げないは店や企業の判断次第」なのです。
 図1を見てください。よくマスコミで、今のレシート(図1左側のレシート)を示して、「消費税が8%で308円、本体価格は書いてありませんが、3857円、合計4165円と書いてありますね。この8%が0%になって308円払わなくてよいのですから、家計は大いに助かりますね」と解説しています。でも、これは誤った解説です。
 食料品販売店は物価高騰の影響を受けて、ぎりぎりの経営が続いています。レシートの記載を、本体価格3857円とし、消費税0%とするでしょうか。
 食料品だけ0%になっても、食品本体以外の容器や運送費、生産コストの消費税は10%のままです。多くの店は恐らく、本体価格を4165円とし、消費税は0%と書くに違いありません(図1右側のレシート) 。
 「なんだ、払うのは今までと同じじゃないか!」。と感じるでしょう。もちろん、これは法律違反ではありません。食料品の値段が下がると期待した消費者は裏切られてしまうでしょう。

消費税は預かり金ではない

 消費税はアメリカの小売り売上税とは違い、商品一個一個にかかる間接税ではありません。消費税は店や企業が、1年間の売上高に10%(一部8%)かけた金額から、1年間に支払った仕入れや経費に含まれている消費税分を差し引いて税務署に納める仕組みです。
 ですから、消費者が店で払ったと思わされている消費税分は、そのまま税務署に行きません。消費者が店で払った消費税分は税金ではなく、物価の一部なのです。レシートに書いてある8%や10%は税金ではなく、店の預かり金でもありません。いわば「値引き販売」の反対の「値増し販売分」に過ぎないのです。
 税務署・財務省は「消費税は間接税」と言います。ですが、本当は企業の付加価値(ざっくり言えば粗利)に課税する外形標準に対する直接税です。粗利に課税するので、赤字でもかかる第2法人税と言ってもいいでしょう。

飲食店は大変なことに

 食料品がゼロ税率になったとしたら、飲食店は消費税分の納税額が増えて経営が成り立たなくなります。
 飲食店は、1年間の売上高に10%の消費税がかかります。今は、そこから食材仕入れにかかる消費税が引けますが、ゼロ税率では、それがゼロになり、引けなくなります。消費税の納税額が途端に多くなります。
 簡易課税を選択しているそば屋さんやラーメン屋さんはどうなるでしょうか。みなし仕入れ率が現在の60%のまま据え置かれれば、納税額は変わりませんが、政府は益税が出るとして、みなし仕入れ率を20%程度に引き下げるかもしれません。もしそうなったら、消費税の納税額は今の2倍(課税売上高にかかる消費税は40%から80%に)になり、倒産・廃業の引き金になりかねません。

得をするのは誰か

 消費者は裏切られ、飲食店も大変な状況になります。でも、食品消費税ゼロで得をする者がいます。それは大手食料品メーカーです。
 私が試算したサントリーなどの大手食料品会社は、図2に示したように、消費税を払わなくなるばかりか還付金がもらえるのです。
 消費税には輸出ゼロ税率制度があり、トヨタなどが巨額の還付金をもらっているのはよく知られています。食料品ゼロ税率も、この仕組みと同じように、還付金をもらえることになるのです。もっとも、図に示したようにサントリー、アサヒ、キリンは輸出が多いため、今でも還付金をもらってます。食料品ゼロ税率で、さらに還付金が増えるわけです。
 この還付金は税金が戻る仕組みですが、実態は政府からの補助金といってもいい性質のものです。端的に言えば、食品消費税ゼロは食品会社に補助金を与えるための制度と言ってもいいでしょう。

われ先に政治家に陳情

 食品消費税ゼロになれば、他の業界も黙ってはいません。外食産業はもとより、鉄道・バス・タクシー・運輸・物流、新聞・書籍、医療・医薬品、電気・ガス・水道・太陽光発電、映画・演劇、住宅建設などなど、他の業界も、われ先にと政界工作をするでしょう。 
 食品消費税ゼロは、消費者の要求運動というより、業界団体の運動と言えます。政治献金の多寡が業界の盛衰を左右するため、業界と政治家との癒着が起き、献金問題はさらに悪化するでしょう。
 一方、ゼロ税率で税収が減った分、10%の標準税率がどんどん引き上げられていく可能性があります。それはヨーロッパ諸国の例を見れば一目瞭然です。

インボイス廃止運動に水を差す

 インボイス制度導入の際、政府は盛んに「複数税率になったから、インボイスが必要だ」と主張しました。食品消費税ゼロが導入されれば、「正確な仕入税額控除のためにインボイスが、ますます必要だ」と言うでしょう。
 食品消費税ゼロは、インボイス制度の固定化に手を貸します。税率が増えれば増えるだけ、経理の事務作業は大変になります。複数税率をやめ、インボイス制度を廃止すべきです。

食料品ゼロではなく、消費税は廃止を

 しかし、複数税率をやめ、インボイス制度を廃止しても、消費税が良い税金になるというわけではありません。
 消費税は景気後退を招く上、典型的な不公平税制です。税率引き上げのたびに公共料金・生活必需品をはじめ、全ての物価の上昇を招きます。これは前にも述べたように、税率引き上げに伴って、転嫁できる企業は「便乗値上げ」をするからです。転嫁できる企業と転嫁できない中小業者の間に格差をもたらします。
 消費税は輸出販売にゼロ税率を適用しますので、輸出企業は消費税の還付を得る一方、国内販売が中心の企業は赤字でも納税しなくてはなりません。そのため、企業間に大きな不公平を招きます。
 消費税は「付加価値を課税標準」とするため、人件費率の高い中小企業と、外注や派遣が多く、これらの仕入税額控除が可能な大企業の間に負担率の不公平が生じます。
 つまるところ、消費税は、人件費に課税する税金ですから、消費税がある限り、企業は極力、人件費を減らそうとします。そのため賃金アップが抑えられてしまいます。
 こうした性質を持つ消費税は、典型的な不公平税制であるため、滞納第1位の税金となっています。
 消費税がなくなれば、中小企業やフリーランスが、赤字でも納税しなければならない恐怖から解放され、経営環境は好転します。従業員の賃金も上がり、消費税導入以来、低迷を続けてきたわが国の景気を好転させることも可能になります。
 財源も心配することはありません。税期の公平原則である応能負担原則に基づき、大企業や富裕層に応分の負担を求めれば、消費税廃止財源は十分確保できます。

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