能登地震豪雨2024 石川・能登民商の会員たち 地域と商売の再建へ奮闘|全国商工新聞

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 2024年元日に最大震度7を記録した能登半島地震から2年、同年9月の豪雨災害から1年3カ月余りがたちました。被災地・奥能登地域は、復興の遅れから人口流出に歯止めが、かかっていません。石川・能登民主商工会(民商)は、会員の事業再開に向け、粘り強い支援を続けてきました。地域と商売の再建に向けて奮闘する会員に現状を聞きました。

“1日1人でも”と店を開き
珠洲市・茨幸代さん=美容室

被災直後の営業再開の苦労と喜びを語る茨さん

 能登半島の先端、珠洲市三崎町小泊で美容室を営む茨幸代さんは「お客さんが地域から出て行って戻らない」と嘆きます。美容師になるために、地元の中学を卒業後、名古屋市で住み込みの弟子として修業を始め、その後は大阪の店に移り、23歳で独立。家族の都合で珠洲に戻ってから40年近く、地元の女性客に愛されてきました。
 「小さい時からの友人もいて”1日1人でもお客さんが来てくれれば…”と思って、店を開け続けています」
 地震後、近所の小学校に避難。自宅や店舗の被害は、壁にヒビが少し入ったくらいで、建物は無事でしたが断水が長引き、満足に営業できませんでした。避難所生活を続ける友人たちから「髪染めだけでも、お願いできないか」と要望され、給水車の水や、自宅近くの湧水をバケツにくんで、被災直後の1月半ばに営業を再開しました。「みんな髪が伸びて、ぼさぼさになってたし、自分ができることをしたい」と、ストーブ2台でお湯を沸かし、水で薄めて、髪染めを洗い流しました。
 「薬品を使うので、流すのにお湯をたくさん使うから、1日2人までしかできなかったけど、喜んでもらえて良かった」
 同市蛸島町の高倉彦神社の秋祭りで、その年の新成人が上演する県指定の無形民俗文化財「早船狂言」。衣装の着付けと白粉などのメーク担当を長年担ってきました。震災の年の10月にも若者たちのお世話に奔走。「周りの美容室でも、できる人がいなくて、ずっと私がやってるの。『茨さん、やめないでね』って言われている」と白い歯を見せました。「若い子たちから、『おばちゃん、ありがとう』って言われるのは、うれしいもんやわ」
 茨さんの店からは、海越しに立山(富山県)や佐渡島(新潟県)などが一望できます。「この前は、鳥海山(山形県)まで見えた。珠洲から出て行って戻らない人もいるけど、私は、ここで育って、この土地で生きていく。1日1人でも、お客さんが来てくれて、たわいもない話で笑い合える。そんな美容師の仕事が大好きなのよ」

輪島塗再建へ行政の支援を 
輪島市・若島英孝さん=塗師

「産地としての情報発信を続けていかないと」と語る若島さん
「塗りの仕事を再開できたのは全国の皆さんの支えのおかげ」と感謝しています
輪島市の「朝市通り」の様子

 輪島市鳳至町稲荷町で伝統工芸・輪島塗の塗師を営む若島英孝さんは「塗りの仕事を細々とでも再開できたのは、全国の皆さんの支えのおかげ」と感謝します。
 輪島で600年続く、地場産業の輪島塗。木地、下地、上塗など多くの工程を分業で担ってきましたが、今、職人が域外に移住したため存続の危機を迎えています。
 「特に、木地と下塗が足りない。機械が駄目になって、工場が稼働していないので、材料が圧倒的に不足している」と言います。「建物が再建できず、機械も買えないから、いつまでも再開できない状況が続いている。仕事は震災後、間もなく再開したが、以前の1割ほどしかできていない。他の業者は在庫を売り切ってしまって、新たな仕事にかかれていないのでは。30代や40代の若手が必死に動いて、何とか再建しようとしているけど、行政などのバックアップが求められている」と指摘します。
 若島さんは「輪島塗自体が斜陽産業なのに、地震がとどめを刺しに来たようなもの。『漆器は高級』というイメージか、生活の中に入り込んでいない。改めて、日々使えるものとして、箸や椀などを知ってもらうことから始めている」と話します。「伝統工芸は今や芸術品扱いで、2万円のお椀は『高い』と言われるが、飾っておくだけのスニーカーに2万円も、3万円も出す人もいる。価値観の問題で、日常的に使え、補修すれば、一生使い続けられる物が2万円なら、決して高いものではないはずなんです」
 輪島塗の再建には「産地からの情報発信が不可欠」と強調します。「販路を確保して、輪島塗を好きになってもらえれば、現在1割の仕事を2割、3割へと増やしていける。そのためにも、産地としての情報発信を続けていかないとね」
 被災事業者として、政治や行政に「重荷を軽く」と求めます。
 「行政は補助金など数多くの支援策を打ち出しましたが、申請のハードルが高過ぎて、活用を諦めている人も多い。時間がたてばたつほど、被災地の発言権は落ちていきます。地元選出の国会議員は何をしているのか。全く姿が見えません。税の免除や補助金申請手続きの簡素化など、復活をめざす人たちの重荷を軽くするような、長期的視野に立った政策を実行してほしい」。語気を強めて、問題提起しました。

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