参院選での消費税をめぐる論点 還付金温存し減税拒む自公 消費税5%こそ国民に利益|全国商工新聞

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立正大学法制研究所特別研究員・税理士 浦野 広明

 消費税が導入されて36年、日本国憲法に基づく応能負担原則を、冷酷に否定する消費税を減税する気運が出てきた。この局面は、消費税に反対する粘り強い運動が生み出したことに確信を持ちたい。本稿は7月20日の参院選と、それに続く、今後の税制の在り方についての論点を整理するものである。
 参院選に向けて、各党は消費税について、次の政策を掲げている。
 ▽自民党と公明党=減税無し。1人2万円の現金給付
 ▽立憲民主党=食料品の税率を2026年4月から原則1年間ゼロ
 ▽日本維新の会=2年間の税率ゼロ
 ▽日本共産党=税率を一律5%の後、廃止
 ▽国民民主党=実質賃金がプラスになるまで税率を一律5%
 ▽れいわ新選組=廃止
 ▽社民党=食品の税率ゼロ
 ▽参政党=段階的廃止
 ▽日本保守党=恒久的に税率0%

デタラメな首相発言

6月29日に東京・新宿で開かれた「インボイス&消費税さようなら」デモ

 応能負担原則(応能原則)に反する租税の代表格は消費税である。仮に1万円の商品を購入し、千円の消費税を支払ったとしよう。分子に千円、分母に収入・所得を置いて割り算をする。低所得者ほど負担が重いことが、すぐに分かる。
 石破首相は、自民党議員の集会で「消費税は医療、年金、介護という社会保障の財源だ。社会保障の財源はどうする。食料品の減税をした時に、お金持ちほど、たくさん消費するから、そういう方ほど減税額が大きい、それでいいのだろうか」と疑問視した(6月28日)。
 金持ちの減税が多いというが、先の割り算をすれば、低所得者ほど減税割合が多いことは、すぐに分かる。また、首相は社会保障の財源だというが、デタラメである。消費税は、使途を特定する税ではなく、経費全般に使う普通税であり、全額が社会保障に充てられるということはない。

現金給付と期間限定

 自公は物価対策として現金給付をするというが、実は、輸出製造業の保護の実態を隠す煙幕でしかない。
 消費税は輸出産業に巨額の利益をもたらす(消費税法第7条:消費税の輸出免税)。例えば、トヨタ自動車は消費税を1円も払わず、輸出免税制度により、1兆547億円もの還付を受けている(25年3月期)。消費税を5%にすると還付は5千億円も減少する。だから首相は真実をゆがめて、消費税の減税に反対するのである。
 トヨタ自動車は、自民党の政治資金団体である国民政治協会(国政協)への大企業献金額上位10社の中で、一番多い5千万円を献金している(2021年分)。政治献金の裏には利益誘導がある。
 期間限定の政策も、おかしな話だ。国民生活の苦境は期間限定で収まるものではない。

財源に国債の無分別

 消費税減税の財源は国債発行で、という無分別な発言もある。戦時中の1943年の債務残高は対GDP比133%だったが、インフレによって帳消しにした。現在の債務残高は、それを突出する257・2%である(24年の債務残高=財務省)。
 25年度当初予算の税収は、歳入合計の67・88%しかなく、その税収の35・97%は国債費(国債の元利支払い)に消えてしまう。これでは社会保障は削減するしかないのである。
 財源は十分にある。応能原則の中心に位置する所得の総合超過累進課税制度で実現する。そうすれば、58兆1497億円の増収が見込める(不公平な税制をただす会編「福祉と税金」24年10月1日)。

物価高で所得も減少

 名目所得から物価上昇分を除いたものが実質所得、つまり、モノやサービスを買える購買力である。
 物価上昇率が名目所得の上昇率を超えると、実質所得は減少し、生活は苦しくなる。物価上昇は、実質所得の減少である。物価が20%上がれば、千円の価値は2割下がる。つまりカネの価値が下がる。物価上昇の下で、名目的な売上高、賃金、年金、預金は、日々刻々と減っているのである。半面、売り上げに課される消費税収は、増える一方である。

食料品ゼロ%の限界

 食料品ゼロ%という主張もある。しかし、消費税が課される生活費は食料品だけではない。住居、水道光熱、備品消耗品、衣服履物、保険医療、交通、通信、自動車関連、教養娯楽、新聞図書等、さまざまである。
 エコノミストの永濱利廣氏は、平均的4人家族で食料品ゼロだと、おおむね、年に6万4千円、消費税5%だと年14万1千円の減税となると述べている(「第一生命経済研レポート」25年5月20日)。
 食料品ゼロだけではなく、全ての生活費にかかる消費税を5%に引き下げることが求められる。

真の野党の奮闘期待

 自民・公明両党が衆院で過半数を割って、本来なら野党の気勢が上がるはずが、野党、特に“野党もどき”の半端野党の中には、その成果を取り入れることなく、25年度の大軍拡予算を通す有りさまである。これでは与党支配の添え物である。
 政党の日常の活動の受け皿となり、政治活動の根底を支えるのは、主体的な市民運動の政治的力である。参院選で、各野党が消費税5%を掲げて団結するかどうかが、問われている。
 共産党の小池晃書記局長は6月30日、国会内で記者会見し、参院選での立憲民主党などとの選挙協力について、17の1人区で候補者の一本化を決定したと発表した(「しんぶん赤旗」25年7月1日付)。1人区の一本化無しで、当選は難しい。この協力は英断である。
 日本の民主化の運動は、多面的である。大企業は、政官を手玉に取り、経済社会における支配力を行使している。彼らは安保体制下で、飽くなき利潤の追求と現体制の維持を狙っている。
 政府は安保3文書の一つ「防衛力整備計画」に基づき、5年間で総額43兆円を投じる。消費税は軍事財源に欠かせない。
 今は、安保擁護・憲法改悪勢力と、安保廃棄・改憲阻止勢力との対抗関係が、依然として続いている状況である。
 消費税縮減のたたかいは、多面的な民主的変革の運動の中で、重要な位置付けである戦争を阻止する道でもある。

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