税務行政のデジタル化 納税者の権利を侵害|全国商工新聞

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収受印に続き「確定申告書控え」廃止も

 「確定申告書が送られてこないので、税務署に取りに行ったら『枚数が少ないので、高齢者に優先して渡している。コンビニで印刷を』と言われた」―。国税庁は、税務行政のデジタル化を口実に、紙で申告する納税者の権利を次々と侵害し、納税者サービスを後退させています。昨年1月から始めた確定申告書などの控えへの収受日付印の押印廃止に続き、今年は確定申告関係用紙の印刷を前年から4割削減。来年からは、控えそのものの廃止を決めています。同庁が描く”デジタル化の青写真”を告発します。

狙いは「記入済み申告書」 申告納税制度を骨抜きに

確定申告書の控えに収受日付印の押なつを行わないことを知らせる静岡・浜松西税務署入り口の立て看板

 「確定申告書など控えへの収受日付印の押印が廃止されたら、さまざまな場面で紙で申告する納税者の不利益が生じる」―。国税庁は昨年1月、多くの中小業者の不安の声を踏みにじって、押印廃止を強行。その暴挙に続き、国税庁が来年の確定申告(2026年分)から狙うのが「確定申告書控え」用紙の廃止です。
 収受日付印の押印廃止では「借入先の銀行から、税務署で配られたリーフレットが認められず、納税証明書の提出を求められた」「奨学金の申し込みで『収受印のある申告書控え』を求められ、納税証明書を提出して申請」などの不利益が続出しました(昨年11月17日号3面既報)。納税者に余計な手続きや金銭的負担が押し付けられています。
 国税庁の「令和7年分所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」には「確定申告書の様式変更」として「令和8(2026)年分から控用(複写式)が廃止になる」と明記しています。
 「納税者サービスの後退につながる確定申告書控えの廃止をやめよ」との全国商工団体連合会(全商連)の要請に、国税庁は「新システム(KSK2)の導入によるものだ」と強弁。控えの廃止を正当化しました。

紙の申告書削減 ネット申告強要
大阪国税局に要請する近畿6府県連の役員ら=1月16日、大阪国税局

 国税庁は、事務処理の高度化・効率化を図る基幹システム(KSKシステム)を導入しており、9月から新システム(KSK2)の導入を予定しています。新システムの開発コンセプトは「データ中心の事務処理を実現するシステム(紙からデータ)」です。
 「紙からデータ」への流れの下、国税庁は2023(令和5)年分から、確定申告書を一部を除いて送らない方針を打ち出しました。各地の中小業者らに「申告書や納付書が届かない」との困惑が広がりました。
 「送付しない」だけでなく、国税庁は、申告書そのものの印刷を2025年分から「大幅に削減(対前年比で約4割減)」する方針(東京国税局の資料)です。これを受け、各地で混乱が広がっています。
 四国地方のある税務署では、確定申告書をもらいに行った中小業者に対して、税務署員が「枚数が少ないので高齢者には渡しているが、それ以外にはコンビニでプリントしてもらっている」と述べ、申告書を渡しませんでした。さらに「コンビニ印刷は有料なので、ネット申告(e―Tax)をお願いしている」と言い放ちました。
 別の税務署では、昨年までは入り口付近に備え付けてあった確定申告書が無く、窓口に「申告書が欲しい」と申し出ると、必要書類チェック用紙への記入を求められました。「その用紙を受付に提出し、申告書を受け取るまで待たされるのは、おかしい」との声が上がっています。

不利益押し付けるな 全商連が国税庁要請 納税者本位の税務行政を

国税庁に要請書を手渡す全商連の岩瀬晃司副会長(左)=1月14日

 全国商工団体連合会(全商連)は1月14日、国税庁に対し「確定申告書の交付など税務行政の改善を求める要請」を行い、岩瀬晃司副会長が要請書を手渡しました。国税庁は、来年の確定申告書(2026年分)から、控え(複写式)を廃止する方針です。すでに今年の確定申告関係用紙の印刷を対前年比で4割削減し、コンビニ印刷を強要したり、受付で必要書類をチェックさせた上、配布まで待たせるなど、紙で申告する納税者への差別的取り扱いが報告されています。
 要請では、収受日付印廃止に伴う納税者の不利益事例や、確定申告書の印刷部数削減に伴う税務署のサービス後退などを告発。「不利益の押し付けは、納税者の権利を侵害し、納税意欲を奪うもので、容認できない」と強調しました。岩瀬副会長は、同庁に対し「納税の義務は憲法上の規定であり、その義務を全ての国民が果たせるようにすることこそ、国の責務だ」と厳しく追及しました。
 庁側は、紙で申告する納税者の不便や懸念を顧みることなく、デジタル化の推進を口実に、収受日付印の押印廃止を正当化。確定申告書控えの廃止についても、2026年9月の新システム(KSK2)導入に伴う申告書などの様式変更に伴い「申告書の控用を廃止し、第1表と第2表が両面刷りの1枚ものとなる」と、庁内での決定事項を述べるにとどまりました。
 要請書は①収受日付印の押印再開②確定申告書控えの廃止をやめる③確定申告書の入手を希望する納税者に対し、懇切丁寧に対応する④ダイレクト納付の押し付けをやめ、納付書による納付や、納税緩和の相談に最寄りの税務署で対応する⑤3・13重税反対全国統一行動の集団申告に必要な体制を取り、受け付ける―ことを求めました。

オンライン化で商取引を監視し
「日本版記入済み申告書」(書かない申告書)の実現をうたう「国税庁レポート2025」(下線は本紙)
税務行政のデジタル化推進を掲げる「国税庁レポート2025」の表紙

 国税庁は「国税庁レポート2025」で「日々進化を続けるデジタル技術の積極的な活用を図る『税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)』を推進」と高らかに掲げます。同「レポート」では、韓国などで実施されているような、あらかじめ収入金額や控除額が記されている「日本版記入済み申告書」(書かない確定申告)の実現を図るとしています。そのために「連携の対象となる情報の順次拡大」「マイナポータル連携が可能な発行主体の拡大」などを打ち出しています。
 「納税者の利便性の向上」をテコに、政府や国税庁が狙うのは、税務調査を実地調査からデジタル・オンライン調査に切り替えることです。そのために、紙の請求書類を電子インボイス化し、データ上で事業者間取引を常時オンライン化して、商取引の国家監視を進めています。取引情報を税務当局のデータベースにひも付けることで、税務当局が税額を決める事実上の賦課課税が可能となり、申告納税制度を骨抜きにする恐れがあります。

青色控除改悪しデジタルへ誘導

 自民・維新両党の「2026年度税制改正大綱」は、青色申告特別控除の55万円の適用要件にe―Tax利用を加えようとしています。新しくe―Taxを利用するためには、マイナンバーカードの利用が必須になります。
 複式簿記でも、紙で申告する納税者には控除額を10万円に減額。同じ水準で記帳していても、申告の仕方によって控除額=納税額に差を付け、デジタル化に誘導する狙いです。

狙われる税務行政のデジタル化
サービス後退・監視強化許さず
税理士 佐伯和雅さん

 税務行政における納税者サービス(国民サービス)が、ここ数年で大きく損なわれています。
 憲法は「すべて公務員は、全体の奉仕者」(15条2項)とし、国家公務員が全体の奉仕者として国民サービスを低下させ、不便にさせることを禁じています。
 ところが、最近の税務行政は、電子化・IT化の名の下に「納税者の利便性の向上」などと望んでいない利便性、言い換えれば”国税庁の利便性”を求めるあまり、納税者サービスを著しく低下させています。税務署から申告書や納付書などを受け取ることが困難となっています。
 昨年1月以降は、申告書や届出書に収受日付印の押なつを行わなくなり、社会全体を混乱させ、行政機関や金融機関から、紙で申告する納税者が不利益を受けている事例が多発しています。
 2027年1月以降は、申告書の控えを廃止し、送付される申告書はOCR様式(機械で自動に読み取りできるよう設計された専用の申告用紙)に切り替えます。控えが欲しいなら自己負担でコピーするよう仕向ける方針です。
 所得税については、基礎控除「見直し」などで、税制をより複雑化させています。これに伴い、マイナポータルやe―Taxの利用を増やして、納税者の情報の多くを課税庁が把握し“納税者監視”の一里塚である「記入済みの申告書」の導入に近づける狙いです。
 サラリーマンの申告納税権についての議論は、今後も寝かせておき、事業者との分断を加速させようとしていますし、申告納税制度の破壊に大きく舵を切ろうとしていると言えます。
 2026年度税制「改正」大綱には、紙提出の青色申告特別控除55万円は10万円に縮小するとあります。
 そもそも、青色申告制度の趣旨は、適正な帳簿を作成し、正しい納税額を導くことにありますから、電子申告と、従来通りの紙提出に差をつけるべきではありません。
 課税庁は、どうしても納税者をデジタルの型にはめ込みたいようですが、むしろ納税者権利意識のある納税者は、白色申告での紙提出を選択するのではないでしょうか。
 電子化・AI化は、あくまで手段であり、目的となってはなりません。いまこそ、納税者が申告納税制度や、納税者の権利の原理・原則について学び、その原理・原則を政府や税務当局に突き付ける時だと言えるでしょう。

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