政府税制調査会が「中期答申」 サラリーマン増税を提言 税理士・大矢良典さんが解説|全国商工新聞

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軍拡のため「税収確保」

 2023年6月30日に政府税制調査会(政府税調)より岸田文雄首相へ「中期答申」が手渡された。政府税調が答申を出すのは、実に4年ぶりのことであり、岸田首相が、政権発足直後に「成長と分配の好循環を実現し、新しい資本主義を目指すために」と諮問したことで、まとめられた答申である。
 今回の答申では、租税原則(公平・中立・簡素)について、支出を賄うに「十分な税収確保(十分性の原則)」を加えるべきであると強調している。岸田政権は、軍拡・少子化対策への財源の多くを当面、税外収入に頼ることを、その方針としている。財政赤字の転換と、将来への負担押し付け解消のためには、国債発行への依存をやめることは当然であり、支出の多くを税収で賄う必要がある。そのための提言として「十分性の原則」を持ち出して強調しているものとうかがえるが、「十分な税収確保」に重きを置く前に、まずはその支出の必要性や妥当性の検証が優先されるべきである。
 8月31日に防衛省は2024年度予算案の概算要求で過去最高の7・7兆円を盛り込んだ。物価高騰で困窮する市民生活を後回しにした対米公約優先の予算要求であり、憲法第9条の平和主義に真っ向から反する日本の軍拡化そのものである。優先順位を誤った支出を賄うために「十分な税収確保」を実現するとすれば、現在の財政状況では即増税が必要となることは自明である。

憲法に基づく税制こそ

 この場合、従来の租税原則に基づけば、公平・中立・簡素の代名詞ともいわれている消費税(実際には不公平で複雑、難解極まりない税制である)での増税が画策されることとなろう。
 しかし、こちらも故安倍晋三元首相が10%へ増税の際に今後10年は増税しない旨を宣言している以上、その意思を引き継ぐ岸田政権としては触れることができそうもない。そうなると個人所得税・法人税が対象とされる。
 所得税では、以前から政府税調でも検討されていた退職所得控除額の引き下げ、給与所得控除額の引き下げ、配偶者控除・生命保険料控除などの見直しについての検討が提言されており、インターネット上でも酷評されるように「サラリーマン増税」との印象が大きく、まずは「取りやすいところから取っていく」べきであるという提言と捉えることができる。
 一方、法人税においては租税特別措置の「必要性や有効性を検証の上、廃止を含めてゼロベースで見直す必要」があると提言しており、当然の指摘ではあるが評価に値する。租税特別措置は隠れた補助金であり、その恩恵を受けるのは大企業が中心である。
 税制改正は「十分な税収確保」のための増税ありきであってはならない。まずは、憲法の要請である応能負担原則に基づき、「取るべきところ(=大企業・富裕層)」から税は徴収する必要があり、それが「あるべき税制の姿」となる。政府税調の答申は時の政権に忖度するような内容であってはならず、肥大化した予算概算要求に待ったをかけるような内容であるべきである。

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