マイナンバー制度の見直しを 趣旨に反した利用拡大で リスクが相乗的に高まる|全国商工新聞

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元内閣府情報公開・個人情報保護審査会委員 弁護士 森田明さん

トラブルが多発し 自治体の負担増大

 マイナンバー制度(個人番号制度)を巡っては、マイナンバーカード(以下「マイナカード」)に保険証の機能を持たせて従来の保険証を廃止するという政府の方針に批判が集中し、マスコミはこぞって反対を表明、内閣の支持率が低下する事態を招いています。他方で、マイナンバーやマイナカードを巡りトラブルが多発し、国は自治体に「総点検」を求め、自治体の負担が増大するといった悪循環に陥っています。
 番号制度を導入している国は少なくありませんが、日本のマイナンバー制度は次の点で極めて特異なものです。
 第1に、1億2千万人を超える国民がいる国で、国民全員に新規に共通番号を付番するものであること。
 第2に、その共通番号(マイナンバー)を、広範囲な目的で用いることが想定されていること。
 いずれも漏えいや、なりすましなどのリスクを増大させる要因となりますが、両方の要因が重なることでリスクは相乗的に拡大します。
 第2の点について言えば、もともとマイナンバーは将来的には広範な目的に利用することが想定されていたものの、番号法制定時以来、「税・社会保障・災害対策」という三つの目的のために、番号法に制限的に列挙した目的の範囲でのみ利用するものとされてきました。本年3月9日のマイナンバー違憲訴訟最高裁判決でも、目的が制限されていることを理由に挙げて番号法を合憲としています。ところが本年6月の番号法改正により、一気に利用範囲が拡大されてしまいました。

本来「任意」が前提 強制で矛盾が拡大

 また、マイナカードは、番号法を根拠とするものの、マイナンバー制度本体とは異なる任意の制度とされ、リスクを自ら引き受けてよいという人が利用者になるという前提で、マイナンバーのような制限なしにさまざまな目的に利用されるものです。しかし今年の法改正を契機に導入された「マイナカードによる保険証への代替、保険証の廃止」は実際上マイナカード取得を強制するものであり、本来の制度趣旨に反します。
 大きなリスクを抱えた制度ですから、監督機関である個人情報保護委員会がしっかり監督し、問題が起これば再発防止策を取らせる必要があります。しかし、最近、ようやくデジタル庁に立ち入り検査をするとのことですが、これまでその役割を十分に果たしてきたとはいえません。
 まず、保険証廃止・マイナ保険証の強制に反対し、改めてマイナンバー制度、マイナカードの在り方を基本から考え直す必要があります。

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