2023年版 中小企業・小規模企業白書を読み解く(中)転嫁できぬ構造を軽視し 「生産性向上」努力強いる|全国商工新聞

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駒澤大学名誉教授 吉田 敬一さん

 今年の白書の特徴は分析視角と支援方向が岸田政権の下での成長戦略が土台となっていることです。第3章・構造分析の第2節「賃金の現況」の2「賃上げの動向」で、「④賃上げのための価格転嫁と生産性の向上」の項目では、価格転嫁の構造問題には触れず、設備投資の増大による生産性向上が労働生産性の向上につながり、賃上げが実現すると結論付け、デジタル化や技術革新への挑戦を白書は求めています。しかし、売り上げがコロナ禍前の水準に戻っても価格転嫁が不十分な中で、コロナ関連特別融資の返済問題に直面している多くの中小企業にとっては対応困難な課題です。
 さらに、第3節「生産性の現況」では、四つの生産性の変化要因(下の図)として、第1に生産性の高い中小企業の市場参入による効果が、第2に資源の再分配による効果という表現で生産性の高い企業のシェア拡大が示され、第3に技術革新・設備投資による生産性向上努力が指摘されていますが、これは政策支援の対象が成長能力のある少数の中小企業に特化することに他なりません。そして、第4に倒産・廃業による低生産性企業の市場退出による効果が挙げられており、生産性基準原理に基づく中小企業の選別による大規模な中小企業の整理・淘汰政策が予測されます。

不公正な取引慣行 改善する視点なく

 中小企業の価格転嫁率の低さや賃上げの立ち遅れの原因は生産性の低さにあるのではなく、日本独特の不公正な取引慣行や大企業本位の金融政策による異常な円安の悪影響にあります。この点の改善を抜きにした中小企業の生産性向上への取り組みは、大企業の経営効率向上と中小企業間の過当競争の激化に帰するだけでしょう。
 特に、第2部のタイトルは「変革の好機を捉えて成長を遂げる中小企業」となっており、問題を抱える中小企業は今年の白書の守備範囲には入っていないことは問題です。
 第1章ではアメリカ管理論を基礎にした中小企業の成長戦略の課題が述べられ、第2章では経営者年齢が若いほど新たな取り組みに挑戦する企業が多いので経営者の世代交代を進めることが休廃業数を少なくする効果があると述べられていますが、後継者不在に悩む多くの中小企業でのニーズに見合った多様な事業継続の支援策についての考察はなされていません。

成長型支援特化はQOL向上させず

 中小企業の存立形態は多様であるので、さまざまなニーズに対応し、ユーザーのQOL(生活の質)の向上に寄与します。成長型中小企業支援に特化した分析では中小企業固有の存在価値が見失われ、ドイツのマイスター経営やイタリアの職人企業のような熟成型の持続可能な経営は日本では育たないでしょう。


 >> 2023年版 中小企業・小規模企業白書を読み解く(上)中小・小規模支援示さず 淘汰路線への転換を示唆

 >> 2023年版 中小企業・小規模企業白書を読み解く(下)持続可能な地域づくり 業者の役割が注目され

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