『オンライン経営対策交流会』 飲食店の可能性広がった 「地域に支えられ今がある」|全国商工新聞

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 「飲食店の可能性が広がった」「AIでは代われない接客の大事さを実感」―。全国商工団体連合会(全商連)が、「心のオアシス、料飲業を盛り上げよう」をテーマに開いた第5回オンライン経営対策交流会には、こんな声が相次ぎました(6月21日・全国216ヵ所から接続)。3人の民主商工会(民商)会員の実践報告と、東京都立大学の谷口功一教授の学習講演で、地域に根差す料飲業が、商売を通じ、コミュニティーの維持など役割を発揮している姿が浮き彫りになりました。「地域のつながりの場で飲食業は役立っていると感じた」「同業種の交流会をやってみたい」など前向きな感想が寄せられています。

【実践報告】商売の熱意や工夫が伝わる

顔合わせることを大切に

東京・北区民商 難波妙子さん
スナック「唄声ラウンジあけぼの」
難波さんの美声にお客さんも盛り上がります

 店を立ち上げて7年目。「あけぼの」は曽祖母が神戸市で開いた京風の小料理屋が初代。2代目の祖母がカラオケ居酒屋に業態変更し、祖母が亡くなると閉店。私が31歳の時、スナックとして、赤羽で復活オープンしました。開店当初は毎日満席で、キャパを超えた仕事量で体を壊し、入院・手術することに。復帰後、間もなく、もらい火による火災で引っ越し、直後に父親と死別。次々と起こる悲しい出来事に情緒不安定になって夫婦仲も悪くなり、離婚も経験しました。
 コロナ禍では、休むのは精神衛生上、良くないと1時間でも店を開け、やれるものは全てやってみようと「オンラインスナック」にも挑戦。痛感したのは「人とのコミュニケーションは、生きていくために必要不可欠」だということ。コロナ禍で人生を見つめ直し、元夫とも仲直りし再婚、女児を授かることもできました。
 民商の夜オリでは、新たな出会いがあり、参加者に店を知ってもらうことができた。昔のように大繁盛で、活気が戻りました。
 人と顔を合わせ、エネルギーを感じながら会話できることを大切にしたい。コミュニティーの場として、みんなが集える場所であり続けたい。スナック文化を絶やすことなく、コミュニケーションの必要性をもっと理解し、今の時代のスナックがどうあるべきか、日々学び、実践したい。

職場でも家庭でもない場

新潟民商 河原真吾さん
ヤキトン酒場「あんたが太陽!」
月1回、日曜に演奏を楽しむライブを企画しています

 2011年に新潟駅前で、カウンター席のみ、焼き鳥メインの炭火焼き鳥「真っ赤な太陽!」1号店をオープン。6年前に2号店としてヤキトン酒場「あんたが太陽!」を開き、アメリカ西海岸風の内装で、幅広い年代が楽しめる店に。コロナ禍のあおりを受け、1号店を閉店し、「あんたが太陽!」のみに。
 厳しい状況の中、高校の同級生が来店し、仕事の先行き不安や、家族とのコミュニケーションなどの悩みを泣きながら訴えた。彼の訴えから40代、50代は、似たような悩みを持っているのでは?と気付いた。
 店のターゲットを40~50代の男性に絞り、職場でも家庭でもない「サードプレイス」をコンセプトに据え直した。BGMを80年代のJポップなどにして、青春時代を思い出してもらい、バンドブーム時代にバンドをやっていた人たちが月1回、日曜に演奏を楽しむライブを企画。この出演者が飲みに来たり、お客同士でコミュニティーができている。
 飲食店は、おいしいものを出していれば、お客が来た時代は終わり、おいしさに加えて、自店の強みをどう伸ばしていくのかが課題になっている。民商の新潟駅前支部では集まってSWOT(スウォット)分析など経営対策を学んでいる。勉強しつつ、飲食店ができる最大限を提供し、より良い地域にするため、これからも力を合わせて頑張りたい。

思い詰めた時もあったが

福岡・宗像福津古賀民商 賀川乙女さん
食堂「かどや」
夫の洋之さん(左)と
魚を回してくれる船主や漁師もいて、鮮度は抜群です

 店の前に広がる玄界灘の新鮮な魚と、近所の農家の朝採れ野菜で作る家庭料理を提供しています。
 福津市には夫(洋之さん)の母が先に移住し、その後、家族5人で埼玉から引っ越し。しばらくして、近所で公共工事が始まり、現場の作業員から、食事作りを頼まれたことが開業のきっかけ。店の名前は、角に建っていたので「かどや」に。夫婦とも飲食店の経験は無かったものの、ご飯とみそ汁、煮物だけでも喜ばれた。
 開店して15年ほどは商売に波があり、売り上げが5千円に届かない日が3日続いたら、やめようと思い詰める日々。そのうち、地元の漁師が来てくれるようになり、魚のさばき方、料理の仕方を教えてもらえた。魚を回してくれる船主や漁師もいて、取りたての魚を店で出すように。近くの病院の看護師や水産高校の先生の出前リクエストにも四苦八苦して作り方を勉強。リゾート客も来店するようになり、土、日、祝祭日の売り上げで平日分をカバーできるほどに。
 最近では、まちおこしで若者が古民家を改装した店を始めたことで、外国からのお客も増えた。若い人たちが食べに来てSNSで紹介してくれることで遠方からの来客も増加した。コロナ禍も大変だったが、昔、店をやめようと思い詰めていたことを考えれば、コロナもいつかは終わるものと、頭を切り替えることができた。

【学習講演】サードプレイスの役割ますます重要

東京都立大学教授 谷口功一さん

 飲食店は、自宅でも職場でもない第3の場所「サードプレイス」として機能しています。サードプレイスでは、スナックで隣に座った男性と社会的経済的な差があるけれども、ママの前ではみんな平等という「水平化効果」があります。生活情報を共有する「地域のハブ機能」や、職場や自宅では言えない愚痴を話して楽になる「カウンセリング機能」も果たしています。

包摂機能を果たす

 イギリスのパブは約4万9千軒ありましたが、新型コロナでつぶれ、約23万人の雇用を失いました。パブが閉店して地域コミュニティーで社会的孤立が起き、労働者階級の生活環境が悪化するなどし、最終的に極右のイギリス独立党への支持が増大する現象が起きました。日本でも最近の国政選挙では、極端な「改革」を唱える政党が伸びたりしました。独りで居ると、考えが極端に行きがちだけれど、飲み屋でみんなで話せば、丸くなっていくことがあると思うんです。そういう社会的包摂機能が失われるという英国の研究結果です。日本でも、ほとんどの地域で、スナックなどを中心とした夜の街がPTAとか農協、商工会、消防団などの人たちが集まる場として存在しています。
 夜の街の店舗数を2015年と21年で比較すると激減しており、スナックはコロナ前の7万軒が約4万軒に。日本で飲食店数が一番多かったのは91年の84万軒で、12年には半減して40万軒です。今後は、超高齢化と人口減少の2大課題に向き合わねばなりません。
 超高齢化社会では、日本人の相当多くの人が、セカンドプレイスとしての職場が無くなります。神奈川県横須賀市に「介護スナック竜宮城」があって、市内でリハビリ・デイサービスを提供する事業者が運営しています。店内のソファは全部、車いすの高さに合わせ、扉も力が無くても開けられるようにし、認知症の人が勝手に出ないようキーロック式です。床も石のように見えるウレタン材で、転んでも骨折しない。テーブルも、立ち上がる際に倒れないようボルトで固定しています。トイレも介助者が入って、おむつ替えなどができます。「家族や友人と、もう二度と飲みに行けない」と思っていた人たちが泣いて喜んでくれるという大変意義ある事業です。この仕組み自体を商標登録し、「介護スナック」の名称はフランチャイズにならないと使えません。高齢者を食い物にする悪徳業者を排除する意味もありますが、フランチャイズでのもうけも追求しており、「事業者の鑑」だと思います。
 同様のことを、普通のスナックがやるのは難しいと思います。でも、体の具合が少し悪かったり、歩くのに問題がある常連さんに対応して、入り口を広くしたり、段差を無くして、車いすが入れるようにするなど部分的に取り入れるのも、超高齢化と人口減少の時代の夜のお店の一つの方向と思います。

タクシー不足深刻

 人口減少の問題では、夜の街に出掛ける足=タクシー不足が深刻です。ここ数カ月出張に行って痛感するのは、タクシーが全く居ないことです。地元の方に「最近、スナックに行ってますか」と聞くと、大体「行かない」。金曜日に飲みに出ると代行待ちが3時間超えもあると言います。コロナ禍で高齢ドライバーが引退した影響ですが、全商連も、こうした夜の交通問題を取り組んだ方がいいと思います。

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