都道府県単位化から5年が経過 国保改善をどう進めるか 国保法は市町村が賦課決定|全国商工新聞

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神奈川自治労連 執行委員長 神田 敏史さん

 2018年度に、国民健康保険(国保)制度の「都道府県単位化」が行われて、5年がたちました。都道府県単位化で、それまでは市町村が担っていた国保の運営に都道府県が加わり、保険料算定の仕組みが大きく変わりました。その下で、各地で民主商工会(民商)が取り組んでいる国保改善の運動にも影響が出ています。今後、どのように運動を進めたらいいのか。国保制度に詳しい神奈川自治労連の神田敏史執行委員長にQ&A方式で解説していただきました。

Q1 都道府県単位化で保険料算定の仕組みはどのように変わったのでしょうか

A1 都道府県が給付金の総額と市町村への割り振りを決める

 国保会計の「支出」に当たる保険給付費等(医療費など)は、同じく「収入」に当たる公費(国保会計に繰り入れる国や地方自治体のお金)と被保険者が納める保険料で賄われています。
 都道府県単位化が行われるまでは、この計算を市町村が行い、保険料率を計算していました(図1)。
 都道府県単位化後では、「都道府県が国保の財政運営に責任を持つ」とされたことで、仕組みが大きく変わりました(図2)。

 まず都道府県が、その都道府県全体の保険給付費等に必要な額(各市町村への交付金の総額)を賄うための金額から公費を差し引いた額を、市町村に求める納付金の総額として決めます。次に、各市町村の医療費などを勘案し、納付金総額を、各市町村に割り振ります。市町村は、割り振られた納付金額から、繰り入れる公費(法定外繰り入れなど)分を差し引き、残りの額を保険料の賦課総額(加入者に求める保険料の総額)として決め、加入者に割り振る保険料率を決めるようになりました。

Q2 政府は、国保制度をどう変えようとしているのですか

A2 保険料を決める際の市町村の裁量を全く無くす

 いわゆる都道府県での「準統一・完全統一」という方向がめざされています。
 まず、納付金レベルの統一です。従来は市町村の医療費水準の差を考慮して、各市町村の納付金を割り振っていました。準統一では、どの市町村も医療費水準を同じとみなして、納付金を算定します。次に、市町村レベルの統一として、市町村の裁量だった応能応益割の算定方式(2方式、3方式、4方式)の統一と、市町村の一般会計から国保特別会計への繰り入れである法定外繰り入れを、全て解消していくことになります。
 ここまでが「準統一」です。この段階で、納付金の金額で大まかな保険料水準が決まるようになります。
 これに加えて、「準統一」の段階までは市町村が保険料を決める際に考慮している「収納率」を無くすのが「完全統一」です。ここまで来ると、保険料を決める際の市町村の裁量は全く無くなります。
 ただ、国が行おうとしている保険料水準の統一は、まだまだ先の話です。医療費水準の差による考慮を無くすのも、「2029年度まで」にという話です。
 今、しっかり押さえておくべきは、国保法は“市町村が保険料の賦課決定を行う”と定めていることです。
 従って、保険料水準の統一は、国が脱法的なことをやろうとしていることになります。法律上、保険料を決める権限は市町村にあるのですから、市町村が抵抗すれば、幾らでも抵抗できるわけです。
 一部の府県で、国に先駆けて準統一や統一を行うところもありますが、多くの問題が噴出していることも見ておく必要があります。

Q3 では、「高過ぎる国保料・税」を引き下げるために、どのように働き掛けていけばいいですか

A3-1 市町村には、国保法に基づき、保険料引き下げを求める

 まず市町村に対しては、大事なことは、前述のように、保険料を最終的に決めるのは国保法では市町村だと明記されていることです。そこは都道府県単位化前と変わりありません。
 ですから、市町村に対し「高過ぎる保険料・税」の引き下げを求めていくことに変わりはありません。
 国は、市町村が保険料減免のために行っている法定外繰り入れの削減・解消をしつこく迫っていますが、国の求めに応じるのではなく、継続するように市町村に求めます。
 現在は、削減や解消の対象とならない法定外繰り入れ(決算補填目的以外の法定外繰り入れ)があります(図3)。これを活用しての保険料減免(77条減免)なども、どんどん求めます(国保法77条)。

 統一化の流れの中で、これらの法定外繰り入れも、解消されていく方向になるのですが、まだ先の話です。
 被保険者一人当たりに課せられる「均等割」や世帯当たりの「平等割」を減らし、応能負担の「所得割」中心に移行するよう求めていくことも必要でしょう。何よりも、市町村に、「高過ぎる国保料・税を引き下げよ」「独自減免を拡充せよ」という要求を、どんどん突きつけていくことが必要です。

A3-2 都道府県には給付金引き下げを求める

 次に都道府県に対してですが、市町村に保険料・税を決める最終的な権限があるとはいえ、市町村に対する納付金額を決めるのは都道府県です。納付金額が増えると、保険料の基となる額が増えるわけですから、保険料を引き下げるためには、都道府県に対し納付金を下げろ、そのために繰越金など県の持っている原資をもっと活用せよと求める必要があります。

A3-3 国には「社会保障」を取り戻させる

 国に対しては、国保制度が本来あるべき「社会保障」としての姿を取り戻していくよう求めていく必要があります(国保法第1条)。
 都道府県単位化や、その先の保険料水準の統一など、国がめざす国保改革の狙いは、一貫して医療を抑制し、国庫負担を削減する方向です。地方自治体も厳しい財政状況の中、補助金の誘導策を使い国から脅され、「国保は助け合い」と強調し、加入者に過酷な負担を強いています。
 国保は「助け合い」ではなく、国や都道府県、市町村からの負担を原則に成り立つ「社会保障」の制度です。国に対して、国保料・税を引き下げるために、国庫負担を削減ではなく引き上げよと求めることが非常に大事です。

国民健康保険法条文(抜粋)

▽1条(目的)
 この法律は、国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もつて社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする

▽77条(保険料の減免等)
 市町村及び組合は、条例又は規約の定めるところにより、特別の理由がある者に対し、保険料を減免し、又はその徴収を猶予することができる


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