平和の願いを念珠に込め 伝統守るだけでなく 「温故創新」で発展を|全国商工新聞

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珠を貫いてまとめた絹糸を組み上げて作られる京都の珠数
仏具が並ぶ店内で珠数の房を選ぶ伴さん

 京都・東本願寺の目の前にある小路「下珠数屋町通」には、仏具を扱う店が軒を連ねます。創業150年を数える「伴仙太郎商店」もその一つ。店内にある珠数(数珠・念珠とも)の多くは、4代目の伴正子さんが手掛けています。
 珠数、掛け軸、仏壇などの仏具が所狭しと並ぶ、こぢんまりとした店内。お香の香りが漂う中、伴さんは店の真ん中に正座し、修理の依頼を受けた珠数の房をじっくりと選んでいます。房が決まったら、絹糸で珠を輪っか状に貫きまとめ、その糸を組み上げて、房と合わせます。
 珠数は「主珠」「親珠」「四天珠」など異なる大きさの珠を使うのが基本ですが、宗派や用途によって材料や形、仕上げは多岐に渡り、およそ70種あるともいわれます。材料は、お釈迦さまが最初に作らせたという無患子の実を使ったものから、屋久スギやケヤキ、水晶などの天然石、サンゴなど多彩で、色とりどり。各宗派の本山が数多くあり、絹糸の生産地で、千年の都としての歴史を持つ京都で産業として発展し、珠数の9割がこの地で作られています。
 お葬式などでの印象が強い珠数ですが、「決して悲しいものではない。平和や心の安寧のために身に着けるもの」と伴さん。「珠数の珠は地球であり、宇宙。そして私たち一人一人。中を貫く絹糸で固く結び合わされた珠数は、手をつなぐ人間社会と平和な世界を表しているんです」。一珠一珠、煩悩を昇華する気持ちを込めて作っています。
 「母親のネックレスから珠数を作ってほしい」「パワーストーンで自分だけの珠数がほしい」などのリクエストも。腕輪やネックレスの形にアレンジされたものは、外国人にも人気があります。伴さんは「喜んでもらえると本当にうれしい」とほほ笑みます。
 小学校教師だった伴さんが、夫の父親の仙太郎さんが営んでいた店を継いだのは50年前。仙太郎さんが倒れた時、育休中で家にいて、「来た人をがっかりさせたくない」と接客したのがきっかけでした。珠数作りは未経験でしたが、古い珠数をほどいて糸の組み方を研究し、難しい加工や分からないことは問屋に聞いて、技術を習得。始めは教師に復職しようと思っていましたが、多くの人に出会い、珠数を手渡していくうちに、「とても意味のある仕事。片手間ではできない」と感じるようになりました。
 東本願寺に上山する門徒さんが主だった頃から時代は変わり、通りの仏具店も半減しました。「京都らしさが損われている。街並みを守りたい」と言います。「伝統を守るだけでは駄目。『温故創新』でオリジナルなものを作らなければ、発展はない」と、干支の仏と誕生石を組み合わせた珠数を作るなど、工夫を続けます。

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