全国商工新聞

立正大学客員研究員 税理士 浦野 広明さんが解説

 確定申告で、年金受給者が天引きされる介護保険料(特別徴収)の社会保険料控除に疑問の声が上がっています。国税庁は妻を扶養する夫の場合、妻の年金から天引きされた介護保険料は、妻が支払ったものとみなされ、夫の社会保険料控除が適用されないとの見解を示しています。同様の問題で、鑑定書を作成し、5年分の国税と地方税の還付を勝ち取った、立正大学法制研究所客員研究員(税理士)の浦野広明さんが、この問題について解説します。

国税庁の決め付けは誤り

 国税庁が運営する税務相談である「タックスアンサー」に次の質疑応答が載っている(ナンバー1130、社会保険料控除)。
 Q5「扶養している私の妻の公的年金から介護保険料が特別徴収されている場合、私の社会保険料に加えて妻の介護保険料についても私が社会保険料控除の適用を受けることができますか」
 A5「介護保険料などの社会保険料が、あなたの妻の公的年金から特別徴収されている場合、その社会保険料を支払ったのは妻になります。したがって、あなたが支払った社会保険料ではありませんから、あなたの社会保険料控除の対象にはなりません」
 介護保険料の特別徴収は、公的年金の支払者が公的年金を支払う際に、介護保険料を差し引く源泉徴収である。源泉徴収は、激増する戦費調達のための大増税手段として、1940年に勤労所得や退職所得から税金を天引きしたという負の歴史がある。上記の回答は、勝手に天引きしておいて“夫の社会保険料控除の適用にならない”と誤った決め付けをしている。

夫が負担なら当然対象に

 所得税法は「居住者が、各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料を支払つた場合又は給与から控除される場合には、その支払つた金額又はその控除される金額を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する」と規定している(74条)。
 妻の年金から介護保険料が差し引かれていても、その介護保険料を夫が負担したのなら当然、夫の社会保険料控除の対象となる。
 夫婦間の財産関係は、結婚生活の効果として、また男女平等の問題としても重要である。
 国連総会で66年に採択された「市民的及び政治的権利に関する国際規約」はB規約とも呼ばれ、日本は79年に批准した。B規約23条1項は「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する」と規定している。憲法は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」としているのである(98条2項)。
 社会や国家は、婚姻や家族を基本単位として成立している。だから、世界人権宣言、国際人権規約、憲法は、家族の権利や家族の保護について規定を置いているのである。
 憲法は、家族生活における個人の尊厳と両性の本質的平等について、「①婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない ②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と規定している。

「自己決定権」に基づいて

 民法は、家庭生活を営む上で必要となる費用(婚姻費用)の分担について、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する」と規定している(760条)。
 しかし、分担の程度や内容は具体的に規定せず、「資産、収入その他一切の事情を考慮して」決めると、一般的に書いてあるにとどまってる。であるから、介護保険料の負担をどちらがするかは、夫婦が話し合って具体的に決めればよいのである。
 石川県能美市の女性議員から昨年、「配偶者の口座から引き落としされた国保税は、自分の社会保険料控除として適用されないのか」という相談があった。私は鑑定書を作成し、女性議員は5年間さかのぼって社会保険料控除が認められ、国税と地方税の還付金を受け取った。
 納税者の権利の基本的観点は「自己決定権」である。自分のことは自分で決める権利が自己決定権(憲法13条)である。申告納税制度の下では、納税者自らが税法に基づいて、所得や税金の計算をして、税務署に申告する権利を持つ。たとえ、一方の配偶者の介護保険料でも、年金から天引きされていても、他方の配偶者が負担したものであれば、堂々と社会保険料控除の適用をすればよい。

差別をなくすたたかいを

税制における差別をなくすためにも、自主申告のたたかいが重要です(写真は3・13重税反対全国統一行動の札幌北部集会)

 基本的人権はまた、全ての人間が人間として平等であることを、当然の前提としている。
 第2次大戦前の日本では、基本的人権の考え方がなかったのと同様に「人間みな平等」という考え方もなかった。憲法は、戦前にあった、もろもろの差別を否定し、全ての国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地によって差別されてはならないという一般原則をうたい、また、華族制度を否定している(14条)。さらに、婚姻・家族政策における平等(24条)、参政権における平等(15条③、44条)も規定している。
 しかし、憲法の下では平等でも、社会生活の上では、先の国税庁の回答のような差別は残っているので、それらの差別をなくす努力が、自主申告のたたかいなのである。

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