全国商工新聞

 大阪市を廃止・分割する「大阪都」構想の是非を問う住民投票が11月1日に迫っています。10月11日には、学者・研究者130人が多彩な観点から「都」構想の危険性を指摘する所見を発表し、注目を集めました。所見発表の呼び掛け人の一人、立命館大学の森裕之教授に話を聞きました。

立命館大学政策科学部教授 森 裕之さんに聞く

 5年前に否決された案と比べても、今回の「都」構想案は二重の意味で一層ひどくなっています。新型コロナによる経済・財政状況の悪化の中での強行という点でも、制度としても、全く論外な中身です。

コロナ禍で誤算

 新型コロナの影響で、「都」構想の“見込み”が大きく外れ始めました。8月11日に発表された「都」構想協定書の財政シミュレーションは、「コロナ禍でも収支不足なし」としていますが、インバウンド(訪日外国人)需要などで景気が良かった2016年度の決算額に基づいた試算にすぎません。
 大阪市財政局によると、コロナ禍の影響で来年度(21年度)、市の税収は500億円も減る見込みです。財政赤字は637億円に上る。これを市の“貯金”ともいえる財政調整基金1200億円で埋めれば半分になってしまう。経済・財政のダメージは想像がつかないくらい大きい。
 税収が激減する一方、コロナ関連で住民や企業への支援など財政支出は増えます。「新たに試算すべきだ」との批判に対し、「国が全部面倒を見てくれるから大丈夫だ」と、維新は根拠のない言い訳に終始しています。
 こんな状況の中で、“不要不急”の権化である大阪市の廃止をやるなんて、政治による暴力ですよ。

ゆがむ庁舎体制

 制度の中身も、めちゃくちゃです。公明党を懐柔するため、今回は「4条件」を示したといいますが、本質は変わりません。
 維新は「住民生活を低下させない」といいますが、確実に低下します。財政が大阪府に握られ、特別区はおこぼれで生きていくしかなくなる。権限と金を手に入れる府は、カジノや臨海開発など巨大プロジェクトに予算を流すだけ。特別区に金が回るはずがありません。
 特別区への「移行コスト」を600億円から241億円に下げたといいますが、その代償として、いびつな庁舎体制が押し付けられます(図)。


 例えば、北区本庁舎になる今の大阪市役所の人員配置は、北区より淀川区の職員の方が多く、天王寺区の職員も同居します。一方、中央区の職員のほとんどは本庁舎でなく、都心から離れた埋め立て地に位置し、地震・津波が起こったら水没する可能性があるATC(アジア太平洋トレードセンター)に配置。防災を無視し、住民の生命や暮らしを危機に追いやる愚策です。
 「現在の24行政区も生かす」と言い始めています。しかし、特別区から諮問されることしか話し合わない「地域協議会」が設置されても、何の意味もありません。こんな複雑怪奇な統治機構を持つ自治体は、日本にも世界にもありません。

「何か変」にも訴え

 中小企業政策や産業政策を市から移管される府の関心の中心は、ベイエリア開発を中心とした巨大プロジェクトです。じゃあ、特別区が中小企業対策をやってくれるのか。金がないのに、やれるはずがありません。
 大阪市は、日本で最も「磁力」のある「母都市」です。昼間人口の流入割合は、東京23区以上で日本最大。行政機構が改変され、大阪市の経済活動が劣化したら、周辺市町村や関西全体も駄目になります。
 9月の世論調査で「都」構想に「賛成5割」という数字がありました。賛成理由は「二重行政がなくなる」が圧倒的に多い一方、「説明が不十分」という意見も7割を超えています。自分が手術を受ける時、「よく分からへんけど手術してくれ」なんてことはあり得ませんよね。
 大阪府・市の公式資料を使い、「二重行政の廃止」で浮くお金を計算すると、年間でたった4千万円です。逆に移行コストだけで241億円かかり、回収するのに600年かかる計算です。
 5年前の住民投票と比べ、実感としては、反対の声が大きくなる条件が広がっていると思います。もちろん、「大阪市がなくなる」ことさえ分かっていない人もいます。それをどう伝えるか。
 「百害あって一利なし」を理屈で分かってもらうことも大切ですが、「おかしい」「なんか変だ」という感情に訴えていくことも重要だと思います。

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