全国商工新聞

税理士 角谷啓一さんが解説

 国税庁はこのほど、「預金口座に振り込まれた差し押さえ禁止財産の差し押さえを行わない」と指示する通達を発出しました。「取り立てまで10日間程度の間隔を置く」ことも指示しています。角谷啓一税理士が、通達が出された背景について解説します。

10年最高裁判決 結論が独り歩き

 最高裁において1998(平成10)年2月10日、「差押禁止債権が預金口座に振り込まれた場合、一般財産である預金債権に転化し、その禁止債権としての属性は承継されない」との判決が示されました。この判決自体、事件の事実関係から見れば、うなずける面もありました。
 ところが、事件の事実関係等を抜きにその結論部分だけが、地方税徴収行政などで独り歩きし、差押禁止債権が入金された預金口座の差し押さえ処分が乱発されてきました。
 その間、2013(平成25)年11月27日、「鳥取県児童手当差押え事件」にかかる広島高裁松江支部判決はじめ、数々の事件が争われ、納税者の勝訴判決も多く出されてきました。
 こうした中で、「決定打」となったのは、2019(令和元)年9月26日の大阪高裁判決といえます。このような流れを受けて、国税庁は最近、連続して内部指示文書(通達)を発出しました。
 まず、「差押禁止債権等に関する留意事項(連絡)」(平成31年4月23日付国税庁徴収課長補佐)は、2013(平成25)年の広島高裁松江支部の判決要旨を例示しながら、差し押さえ時の問題として「実質的に(差押禁止の)給付金の支給を受ける権利を差押えたと認められるような処分をしない」よう留意を促し、加えて、(当該給付金が振り込まれた)預貯金が生活の維持に充てられている場合、「生活の維持が困難となるような処分をしない」としている点が特筆されます。
 また、差し押さえ債権の取り立て時の問題として、当該事例が、換価の猶予・滞納処分の停止に該当することが明確になった場合には、差し押さえ解除(返金)の必要性が生じます(国税徴収法152②、同153③)。そこで、差し押さえた預貯金を即日取り立ててしまうと、滞納者を救済する余地がなくなるので、取り立てまで「10日間程度の間隔を置く」としました。納税者の権利にとって、重要な意味を持つ通達です。

預貯金取り立て 10日程度間隔を

 次に、2020(令和2)年1月31日付通達「差押禁止債権が振り込まれた預貯金口座に係る預貯金債権の差押えについて(指示)」(国税庁徴収部長)は、令和元年の大阪高裁判決を受け、「実質的に差押禁止債権等を差し押さえたものと同視できると認められる場合には、差押可能部分以外の部分については、差押さえを行わない」と、正式に指示しました。その上で、差し押さえに当たっては、①預貯金債権の入出金状況を調査・把握すること、緊急の場合には事後に調査を行い、差し押さえが適切と認められない場合には差し押さえ解除する(同152②)②入金が差押禁止債権等の振り込みのみである場合および、前記以外の振込入金である場合であっても、実質的に差押禁止債権等を差し押さえるものと同視され得るときには、差し押さえ可能部分以外の部分については差し押さえを行わない③実質的に給料等を差し押さえるものと同視され得る場合における当該預貯金債権の差押可能金額は、徴収法76条1項各号の合計である差し押さえ禁止額を控除して算出する④差し押さえた預貯金の取立ては、原則として差し押さえた日から10日間程度の間隔を置いた上で行う―など詳細な事項を指示しています。
 この当たり前の結論に至るまで、なんと、20年かかりました。この背景には、納税者や弁護士、税理士、関係団体および国会議員・地方議員などの粘り強いたたかいがあったことを忘れてはなりません。

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