インボイス導入で1兆円増税 事業者も消費者もプラスはない|全国商工新聞

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元静岡大学教授・税理士 湖東 京至さん

政府の計算は2480億円

 インボイス制度が実施されたら、事業者に対する増税は、どのくらいになるのでしょうか。政府は国会答弁で「免税事業者が全て課税事業者になるという前提で2480億円の増収になると申し上げましたが、これは機械的な計算で、確たることを申し上げるのは困難」と逃げています。
 政府は機械的にせよ、2480億円(平年度)の増税と試算していますが、私はもっと大きいのではないかと考え、ランサーズ(株)が発表した「新・フリーランス実態調査、2021―2022年版」などに基づき試算してみました。その結果、少なく見積もっても、約1兆円(平年度)の増税になることが分かりました。
 ランサーズの調査によると、フリーランスと呼ばれる人は全体で1577万人おり、この数は、コロナ禍により急増したといいます。タイプ別の内訳は表1の通りです。
 この表の合計人数のうち、会社(課税事業者)から仕事を受けている人の割合、つまり、今は免税ですが課税事業者にならなければならない人の割合を、副業系すきまワーカーと複業系パラレルワーカーと自由業系フリーワーカーは100%、自営業系独立オーナーは60%と推定しました。その課税事業者選択者数と平均年収を基に、全員が簡易課税(みなし仕入率50%)を選択したとして増税額を計算すると、表2のフリーランス小計額8936億円となります。
 表2で、フリーランス以外の自販機設置者や太陽光発電、シルバー人材センターなどの小計は1030億円で、合計すると9966億円。つまり、インボイス制度導入による平年度の増税額は約1兆円になります。

物価高を招く一因にもなる

 仮に、免税事業者が課税を選択せず、消費税の納税をしなかった場合、その増税分は取引先・親会社が負担することになります。この場合、簡易課税によるみなし仕入率は考慮されませんから、10%まるまる負担することになり、増税額は1兆円を優に超えることになります。親会社が増税に耐えられなければ、消費者等へ転嫁せざるを得ませんから、インボイス制度は物価高騰を招く一因にもなります。
 インボイス導入は、事業者と消費者に全くプラスにならず、政府に入る税収がプラスになるだけです。

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