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  トップページ > 経営のページ > 経営 > 全国商工新聞 第3161号3月23日付
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業界サイレン 介護報酬2.27%引き下げ 事業者減収に直結

 4月から、3年に1度見直される介護報酬(別項)の改定が実施されます。平均2.27%の引き下げで、厚生労働省は約2234億円の削減を見込みます。介護報酬引き下げは、介護サービス事業者にどんな影響を及ぼすのでしょうか。小規模の通所介護(デイサービス)や訪問介護(ホームヘルプサービス)の現場から探りました。

小規模業者に最も打撃 サービス基盤壊す
NPO法人峠茶屋理事長 江森元春さん

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 「デイサービスの基本報酬は約10%減額され大まかな計算で年間250万円近い減収。介護職員ほぼ1人分の人件費に匹敵します」
 こう話すのは、長野県松本市四賀地区にあるNPO法人峠茶屋の理事長を務める江森元春さん=松本民主商工会会員。峠茶屋は、デイサービス(定員15人)とケアプランを作成するケアマネジメント、住宅型有料老人ホーム「にしきの丘」(7部屋)と主にその入居者に訪問看護や介護を提供する訪問看護・介護ステーションなどを手掛けます。職員は、看護職3人、ケアマネジャー2人、介護福祉士5人、介護職員4人の14人(うちパート8人)。デイサービス利用者(約40人)は要介護3クラスの人が中心で、自力での歩行や入浴が困難な人が少なくありません。
 2003年9月、江森さんと看護師の妻・けさ子さんが峠茶屋を設立して10年余。08年にはグループホームを開設しましたが、こちらも減額6%。約200万円の減収は避けられません。「今でも報酬は低いまま。これ以上引き下げられたら、どうすればいいのか」と憤ります。

人手不足に拍車
 峠茶屋も慢性的な人手不足で、常に募集を掛けていますが、「応募はなかなか来ない」と江森さん。「今回の引き下げが、人手不足に一層拍車をかける恐れがある」と懸念します。
 今回の改定では、介護職員の「処遇改善」加算がプラス1・65%となり、1人当たり月1万2000円が支払われることに。しかし、「加算は介護職員だけに限られているし、事業者は介護報酬の範囲内でしか運営できません。基本報酬がカットされ事業者の収入が減れば、処遇改善もできなくなる。待遇悪化や人員削減につながりかねません」と江森さん。

自助努力も限界
 峠茶屋では、介護報酬引き下げへの手立ても打ってきました。その一つが新事業の展開。昨年11月、「夫婦の貯蓄をはたいて」現在の場所へ新築移転。その際、有料老人ホームと訪問看護・介護業務をそろえてきました。
 もう一つが、厚労省が重視する分野の加算を取る努力です。新設された認知症加算や中重度ケア体制加算を取るには、厚労省が定めた研修を受けた職員を一定数配置する必要があります。「職員を研修に通わせ、2人が認知症加算の資格を取りました。加算を取ったとして現状に近い収入を確保できるか…」と自助努力だけの対応に不安を感じています。
 けさ子さんが管理者を務める認知症対応のグループホーム「すみか」では、食事の時にエプロンは使わない、おむつ外しに取り組む、最期まで口から食べることを目標にするなど、入居定員の倍近いスタッフを配し、人間としての尊厳を最期まで支えるケアで高い評価を得ています。
 「いったん始めたからには地域への責任がある。事業を続けられるよう創意工夫をこらしたい」と話す江森さん。その行く手に介護報酬引き下げがいよいよ迫っています。

マイナス影響過去最大 基本報酬の底上げ図れ
全日本民主医療機関連合会 事務局次長 林 泰則さん

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 今回の2・27%マイナス改定は、過去3番目の引き下げですが、地域と事業者に与える影響は過去最大だろうと認識しています。基本報酬の引き下げは、サラリーマンでいえば、基本給が下げられるようなもの。さまざまな手当て(加算)を付けてもマイナスの影響は避けられません。
 新たな加算を取るには、職員の体制強化やスキルアップが必要で、小規模の事業者は容易に取れないでしょう。結局、地域で家族の介護負担を軽減するために頑張ってきた小規模事業者が最も打撃を受け、地域の介護サービス基盤を弱体化させる改定だと思います。
 利用者にとっても、4月から現在全国平均で月約5000円の65歳以上の介護保険料が550円ほど値上げされ、8月から一定以上の所得者の介護サービス利用料が1割から2割に引き上げられます。その一方で、軍事費は14年度比2%増で過去最高の5兆円を確保し、2年連続で過去最高益の更新を見込む大企業には1兆6000億円の減税をする。8%への消費増税が「社会保障のため」でなかったことは明らかです。
 政府は、医療と介護の「改革」を一体に進め、病院のベッド数を減らし、入院日数を短縮して、本来、医療を必要とする人を地域に帰そうとしています。重症者の受け皿に対応できる介護事業者は残ってもらうが、そうでない事業者は撤退して構わない―― 。そんなメッセージを込めた改定ではないでしょうか。
 介護報酬は、介護という仕事や事業者への社会的な評価の面もあります。それを下げることは、国として、この程度の評価しかしていないという意味になる。高齢化が加速し、介護の人手不足が叫ばれる中、本来なら今回の改定で1%でも2%でも介護報酬を引き上げ、国として重視しているとのメッセージを発するべきでした。
 今回の引き下げで、ますます介護職へのマイナスイメージが広がり、若い人が入って来なくなるのではないか。事業所にとって、現在はもとより将来にも悪影響を及ぼす改定だと思います。
 今までは介護報酬の改定率が発表されると、引き下げ反対の声も沈静化していましたが、今回は中身が明らかになるにつれ、怒りの声が広がっています。報酬引き下げ分を元に戻し、基本報酬を底上げさせるよう頑張っていきましょう。

2015年度介護報酬改定・主なサービスの基本報酬と増減率

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 介護報酬とは…介護報酬は、介護保険から毎月、介護サービス事業者に支払われます。例えば「要介護3の人が、小規模型の通所介護を7時間以上9時間未満利用した場合、1006単位(1単位=10円、基本報酬)」など、個々のサービスの「公定価格」を示します。介護サービス事業者のほぼ唯一の収入源で、事業者はこの報酬の中から職員の給与などの経費を支払います。土台となる基本報酬と各種の加算からなります。

全国商工新聞(2015年3月23日付)
 
   

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