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  トップページ > 業種のページ > 建設土木 > 全国商工新聞 第3088号9月23日付
 
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業種 建設土木
 

建設業者の社会保険 単価引き上げ、保険料引き下げを

 社会保険に加入していない建設業者への指導が強まっています。現場に入るときに提出する作業員名簿で社会保険の加入状況をチェックし、未加入の場合は親会社が加入を促すというもの。新潟民主商工会(民商)の建設・下請け業者から「単価が上がらず、加入したくても加入できない」との声が上がっています。国土交通省は下請け業者が加入促進を建設業界に働きかけていますが、問題は山積しています。

 新潟市内で建設業を営むYさんは親会社から「社会保険に加入する準備をしてほしい。これから社会保険に加入していない作業員は使いづらくなるから」と言われています。30年前に独立し、同時に新潟民商に入会。7人の従業員を雇用しています。「従業員のことを考えれば加入した方がいいし、条件が整えれば社会保険に加入したい。でも、いまの単価じゃとても保険料は負担できない」と話します。
 7人が社会保険に加入するためには毎月20万円ほどの事業主負担が必要です。年間にすると約240万円。負担する余裕はありません。「職人が毎月働く日数は20日ほどで、雨が降れば仕事はできず親会社からの日給は減らされる。しかも仕事量全体が減っているし、単価も上げてくれない。どうしたらいいのか」とYさんはため息をつきます。
 国土交通省が実施した公共事業労務費調査(2012年10月)によると社会保険(健康保険、厚生年金、雇用保険)への加入が義務付けられている企業のうち3保険ともに加入しているのは全体で58%。下請け業者ほど未加入の割合が大きくなっていることが明らかになりました(図1)。

図1

 下請け業者がなぜ社会保険に加入できないのか、その最大の問題は下請け単価の中に「法定福利費」(社会保険料の事業主負担)が含まれていないことにあります。国土交通省は下請け業者が法定福利費を確保できるようにするための仕組みをつくろうとしています(図2)。建設関連の専門工事業団体が法定福利費の内訳を書いた標準見積書を作成し、それを活用して法定福利費が発注者から元請け業者、下請け業者、さらには労働者まで流れるようにしようというものです。9月から活用を始めようとしています。

図2

単価を引き上げ保険料軽減せよ

 Hさんは新潟民商が開いた建設業者の社会保険問題交流会(7月11日)で、国土交通省が標準見積書の作成を進めていることを知りました。「少しでも安い単価を求められている中で、末端の下請け業者まで法定福利費が簡単に流れるはずがない。仕組みづくりだけでは不十分。法定福利費を上乗せしない企業は罰則を与える、入札に参加させないなどチェック機能を厳しくする必要がある」と指摘します。
 Hさんは独立して20年。正規の従業員は5人います。「けがと弁当は自分持ち」といわれ続けてきましたが、建設現場で働く人たちの安全性を確保し、若い世代が働きやすい環境をつくるために社会保険や労働保険への加入が必要と感じています。「現場は社会保険に加入できない業者を含めた多くの下請けで支えられている。国は未加入者を切り捨てようとしているが、それでは現場は成り立たない。だからこそ、国はすべての建設業者が社会保険に加入できるように力を尽くすべき」と強調します。
 国土交通省は法定福利費確保に向けた対応の一つとして4月1日の入札から適用される公共工事設計労務単価を引き上げました。全国単純平均で前年比約15%増の1万8194円と97年度以降、初めて2桁の大幅引き上げとなり(図3)、社会保険料の本人負担相当額を設計労務単価に加算したと同省は説明しています。新潟県では13・5%引き上げられました。しかし、新潟民商の会員からは「単価が上がった」という声はほとんど聞かれず、上がったとしても「社会保険料を負担できる額ではない」という状況。設計労務単価の引き上げが下請け業者に反映されていない実態が浮き彫りになっています。公共事業従事者の賃金の最低基準額を元請け企業に守らせることを義務付ける公契約条例制定などが急がれます。

図3

 一方、社会保険料が払えないという問題も深刻です。Fさんは機械の修理や燃料代の値上がりなどで半年前から保険料の納付が滞りがちになっています。「年間300万円を負担するのは本当に大変。社会保険は大企業ほど負担が軽い。制度を見直して労働者や中小業者の負担を軽くしてほしい」と強調します。
 厚生年金でみれば、年間約10億円の報酬を得ている日産社長のカルロス・ゴーンと中小企業の保険料が同じというのは大きな矛盾です。社会保険料にも応能負担の原則を求める声が広がっています。

解説 法定福利費確保へ 元請け指導強化を

 国土交通省は2017年までに100%の建設業許可業者の社会保険加入を達成しようとしています。
 対策の一環として(1)未加入企業に対する経営事項審査の評価を厳しくする(12年7月)(2)建設業許可申請書に加入状況を記載した書面を提出させる(3)施工体制台帳への加入状況記載(いずれも12年11月)を実施しています。同時にガイドラインを発表して未加入の下請け業者への指導を元請け企業に求め、2017年度以降は未加入業者が現場に入ることを認めないとしています。
 同省は下請け業者が社会保険に加入するためには法定福利費の確保が必要で、法定福利費は発注者が負担する工事価格に含まれる経費との見解を示し、標準見積書の作成を業界団体に求めています。
 建設業界の中で法定福利費を積算に含めることを明確にした点では前進ですが、法定福利費の支払い義務はなく、下請け業者が法定福利費を確保できる保証はありません。
 何よりも問題なのは、国土交通省が発注者や元請け企業が法定福利費を払っていないことが未加入問題の原因と認めながら、未加入業者を「不良不適格業者」と決めつけ、現場から排除する姿勢を改めていないことです。都道府県が加入者に送る「指導書」には、「通報後も保険加入が認められない場合は行政処分を行うことがあり得る」と書かれています。
 しかし、従業員5人未満の個人事業主には加入義務はありません。
 国土交通省は法人への強制加入を前提にした指導を元請けに丸投げしていることや社会保険未加入を口実にした取り締まりをやめ、末端の下請け業者まで法定福利費が行き渡るよう発注者や元請けへの指導を強めるべきです。

全国商工新聞(2013年9月23日付)
 
   

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