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「納税者の権利宣言」(第5次案)
2017年11月26日 全国商工団体連合会

納税者の権利宣言(第5次案)の発表にあたって

 民商・全商連は16年ぶりに「納税者の権利宣言」の第5次案を検討してきました。自民党政権による「戦争する国づくり」と「立憲主義の破壊」を許さない世論と運動を強めるためにも、国家の根幹をなす「税の在り方と使い道」を根本から正す必要性が高まっているからです。
 安保法制(戦争法)はもとより、「北朝鮮問題」を口実にした大軍拡と消費税大増税、格差と貧困の拡大、民意も安全性も無視した原発再稼働、アメリカいいなりの沖縄・辺野古新基地建設などが新たなたたかいの焦点となっています。また、税理士法の悪用に加え、共謀罪の創設、国税犯則取締法・扇動罪の国税通則法への編入、消費税のインボイス制度や「軽減税率」(複数税率)など、国民への弾圧法規や分断策が整備されてきていることも見逃せません。
 改憲策動が強まる今日、日本国憲法の先駆的な価値を、税制・税務行政の「あるべき姿」に具現し、「国民主権・戦争放棄・基本的人権の尊重」という理念が生きる政治経済を実現していくことが強く求められています。国民の「平和的生存権」を拡充し、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうに」するべきです。
 最低生活費への非課税と消費税の減税・廃止に接近する不断の税制改革を進め、すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障し、自ら生きる糧を生み出す小企業・家族経営や生業の活力が発揮できるようにするべきです。
 能力に応じて公平に負担する原則を、国税・地方税・社会保険料のあらゆる分野に徹底するとともに、多国籍大企業・富裕層の犯罪的な税逃れを防止する措置への国際協調を推し進めるべきです。
 申告納税制度を擁護・発展させる立場から、国民の「自主申告権」を尊重するとともに、税理士が「課税庁の下請け」としてではなく、独立した立場から納税者の権利を擁護し、公正な納税の実現に力を発揮できるよう法改正を行うべきです。
 税務行政において、調査・徴収・不服審査・訴訟のあらゆる場面で課税権の限界を明示し、適正手続きにのっとって国民の「財産権」と「幸福追求権」が守られるようにするべきです。
 税金の使途について発言し、監視し、是正する権利を納税者に広げることで、政界・財界・官僚らによる不正利得を防止し、国家主義的な暴走を許さない力を高めるべきです。
 たたかってこそ権利は守られます。民商・全商連は、広範な中小業者・国民が納税者として、自由と民主主義を発揚させるたたかいへと共に立ち上がることを願い、ここに「納税者の権利宣言」(第5次案)を発表します。


1、憲法理念を徹底する税制の実現をめざす

 いま、日本では憲法をめぐる激しいせめぎ合いが強まっている。戦後、長きにわたり、自民党政治が続いてきたが、第2次世界大戦から70年を超える中で「不戦の誓い」を忘れ、好戦的な国家主義が再び台頭し、人類普遍の原理である人権をも脅かす事態が広がっている。
 憲法は、平和国家としての戦後日本の礎となってきた最高法規であり、その変質・破壊を断じて許すことはできない。
 第2次世界大戦における痛苦の体験と真摯な反省を踏まえ、「戦争放棄」「戦力不保持」を明記した憲法が集団的自衛権の行使をはじめとする政府の暴走に歯止めをかける力になってきた。また、憲法が「平和的生存権」や「租税法律主義」の理念を明らかにすることで、庶民の暮らしより皇国への租税上納を優先するという戦前の「報国租税理念」を克服し、「個人の尊厳を踏みにじる税の収奪は許されない」という国民的な合意形成の力になってきた。
 社会経済の在り方についても、憲法が国民に生存権と勤労権を保障し、「経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策を要請している」という最高裁判所の判断がある。
 憲法が規定する両性の平等と個人の尊厳に基づけば、生業における自家労賃は実現されるべきであり、所得税法第56条にみられる封建的な家父長制度は廃止されなければならない。
 日本において、政治家はもとより、公務員全体に憲法を尊重し、擁護する義務が課せられているが、その意味するところは国家権力の暴走によって個人の尊厳が脅かされることのないよう、憲法に基づく法体系全体によって権力を制限・是正することにある。
 憲法を改悪してアメリカ追随・大企業優遇の悪政に適合させるのではなく、世界的にも先駆的価値を持つ憲法理念を国民の不断の努力によって、全面的に実現する政治へと転換することこそ強く求められている。
 世界に目を向ければ、税の歴史そのものが、権力者の収奪に抵抗してきた人々のたたかいの歴史である。その抵抗は時に、権力によって生命や財産を奪われるという悲劇や理不尽を繰り返してきた。しかし、税制・税務行政のあるべき姿を求めるたたかいが高揚し、多数派の自覚になった際には、権力を倒し、新たな「税の在り方と使い道」を創造的に生み出してきたといって過言ではない。
 国権の最高機関は国会である。平和と民主主義の高揚を求める議員・代表者を多数派にすることで、憲法理念を徹底する税制を実現する道を開くことができる。


2、生活費には課税せず、大衆的な消費課税は廃止する

 憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」ことを保障している。労働者、農民、中小業者など働く国民の収入は、その大部分が自己と家族の人間らしい生活に必要不可欠な経費として使われる。この生活費は現代における経済と文化の水準にふさわしいものでなくてはならない。
 ところが、現行の所得税および住民税の課税最低限は、実際の生活費より著しく低く、劣悪といわれている生活保護基準さえ下回っている。このように生活費に課税する制度は人権を侵害し、憲法の精神に反している。
 生活費非課税の原則に反する大衆的な消費課税は国家権力による生存権への侵害であり、廃止すべきである。政府や財界・大企業は、消費税の「基幹税」化を狙い、常にその税率引き上げなどをたくらんでいる。しかし、この悪税は廃止されるべき七つの性格を持っている。@景気を底から冷やすA低所得者ほど負担が重いB徹底した大企業優遇Cリストラ促進D中小業者の営業破壊E膨大な滞納を招くF軍備(戦費)調達を容易にする、ということである。
 消費税が導入されて以降、国民年金保険料が倍増したように、国民の社会保障負担は増え続けている。その一方で、法人税減税や消費税の輸出還付金制度の恩恵を受ける大企業は内部留保を激増させている。大企業がもうかれば、やがてそのおこぼれが庶民にしたたり落ちてくるという「トリクルダウン」や「社会保障のため」という政府の主張が真っ赤なウソであることは明らかである。
 政府が企図する消費税の複数税率化の目的は、国民の負担軽減ではなく、さらなる税率引き上げへの布石にほかならない。納付する消費税の計算を伝票で行う「インボイス制度」は、免税事業者を取引から排除し、地域に貢献する中小業者の経営と暮らしに限りない打撃を与えるものである。EU(欧州連合)などでは、消費税の輸出還付金や複数税率などによる弊害を解明し、不公平を是正する議論が始まっている。
 消費税の在り方は、政治と経済の在り方に深く関わっている。膨大な事務負担を押し付け、取引に混乱をもたらす複数税率とインボイス制度を含め、その廃止は公正な税制を確立するために不可欠の課題である。


3、能力に応じた公平な税制を確立する

 税金は、担税力の少ない勤労者には軽く、担税力のある大資産家や大株主などの不労所得には重く、また、中小企業には低く、大企業には高く累進的に課税すべきである。
 ところが、応能負担の原則を破壊している消費税はもとより、所得課税や資産課税においても、勤労所得や生存権的財産には重く、株や土地の投機的な売買を繰り返している大資産家や大企業には軽いという、極めて不合理なものとなっている。「税と社会保障の一体改革」の名で、国民への負担増が繰り返されてきた結果、税と国保料(税)などの負担が所得の4割にも達している。
 一方で、大企業などは各種の優遇税制によって、特権的に税を減免され、利益に対する税負担率は極端に低率となっている。その結果、法人税の実質税負担率は、資本金100億円以上の大企業の方が、資本金1億円未満の中小企業よりも低いという不公平なものとなっている。そもそも、現在の企業税制は「法人は株主の単なる集合体であり、法人税は所得税の先取りにすぎない」(法人擬制説)との前提に立ち、「法人の受取り配当には課税しない」という基本的な仕組みそのものが、不公平税制の根幹をなしている。
 消費税の導入後、政府は大企業の「国際競争力の維持」や「経済の活性化」を口実に、法人と富裕層への税率を大きく引き下げてきた。そして純粋持ち株会社の解禁と軌を一にした会社分割税制や連結納税制度によって、国境を越えてあくなき利潤を追求する多国籍大企業の横暴を助長している。
 タックス・ヘイブンを利用した巨額の税逃れが横行する現代社会において、大企業・大資産家の社会的責任を果たさせるよう不公平税制を抜本的に改め、能力に応じて公平に負担するという応能負担の原則を確立することが急務である。
 地方自治体の自主財源確保も、大企業への適正課税を基本とし、大衆課税は厳しく退ける立場で行使されてこそ、地域住民の信頼を勝ち取り、住民主人公の地方自治を発展させることができる。国から地方自治体への税財源の移譲は、事務権限配分に見合ったものとし、国は地域間格差の是正を図るべきである。工場の面積や従業員数、付加価値などを基に課税する外形標準課税は応能負担原則に反しており、中小企業に適用すべきではない。
 また、国保料(税)や介護保険料、社会保険料、国民年金保険料などが負担能力を無視して重課・徴収され、滞納者の急増、住民の健康破壊を招いていることは重大である。社会保障負担は「目的税」にほかならず、応能負担の原則が貫かれるべきである。


4、主権在民に基づく申告納税制度を擁護、発展させる

 憲法は、主権在民の民主主義国家を支えるため、「国民は法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」(第30条)とし、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」(第84条)と定めている。この租税法律主義に基づき、憲法の諸原則から、わが国の税制度は、「納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則」(国税通則法第16条)とする申告納税制度を基本としている。すなわち、国民は、法律の定める限度で納税の社会的責任を負うと同時に、自主申告により自ら納税すべき税額を確定する権利が保障されているのである。
 また、憲法は「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」(第31条)と規定している。
 「個人の尊厳」と「国民の幸福追求権」を憲法は明記しており、税法は課税権の限界を明示し、課税の領域で国民の財産権を保障することを目的とするものでなければならない。
 このような憲法上ならびに税法上の諸原則が明確にされているにもかかわらず、現在の税務行政は、大企業や大資産家などの「税逃れ」を野放しにしながら、労働者には賃金からの天引き徴税(源泉徴収)、農民や中小業者には強権的な調査を進め、過大な推計課税や重加算税の押し付け、消費税の仕入れ税額控除否認などが行われている。
 こうした中で、徴税強化に対する怒りをそらし、あるいは正当化するために政府と財界、その意向に沿った一部の勢力は、根拠のない所得の捕捉率(「サラリーマン9割、中小業者6割、農民4割」)を振りまくクロヨン宣伝や、経営実態を無視し、「消費税が中小業者の懐に残る」といった「益税」論を故意に拡散している。労働者、中小業者、農民、消費者に対する卑劣な分断策は断じて許されない。
 いま、緊急に求められているのは、納税者の大多数である労働者が、不当に奪われている自主申告権を取り戻し、主権在民の憲法の精神に基づく申告納税制度を擁護、発展させることである。
 主権者である納税者同士が助け合う自主申告活動への税理士法を悪用した弾圧は許されない。税務書類の作成や税務相談を税理士の独占業務とせず、対価目的でない限り原則自由とするなど、税理士法を改正すべきである。税理士や弁護士は、税に関するあらゆる場面で納税者の権利を擁護する立場に立ち、その役割を発揮しなければならない。


5、個人の尊厳を守り、税務行政に適正手続きを貫く

 今日の税務行政は、憲法を踏みにじり、個人の尊厳を脅かすものとなっている。
 税務調査における事前通知の規定は恣意的に運用され、納税者を犯罪者扱いする税務調査や生存権さえ脅かす徴収行政が行われている。地方税や社会保険料の徴収現場では、「滞納者は悪」と決めつけ、生活に必要な預金や日用品、給料が含まれた売掛金まで容赦なく差し押さえる違法な処分が横行している。
 納税者は憲法に基づき、税務行政において、信頼され、公平かつ丁重に扱われる権利を有している。適正手続きは税務行政全般にわたって厳格に運用されなければならない。
 強化された国税犯則取締法の規定とともに国税通則法に盛り込まれた扇動罪は、かつて税制・税務行政への批判を取り締まる弾圧法規として使われてきた。表現の自由や結社の自由などを侵害する扇動罪は廃止すべきであり、その発動は許されない。
基本的人権は租税の納付状況に関わりなく保障されるべきであり、納税緩和制度の活用を優先し、強権的な徴収行政は是正されなければならない。法的根拠のない地方税回収機構は直ちに解散するべきである。
 国民のプライバシー権は、税務行政においても全面的に保障されなければならない。税務当局が保有した納税者の個人情報は、当事者の求めに応じて公開されるべきである。国民の情報を収集・管理する個人番号(マイナンバー)制度は、国民を監視し、プライバシー権を侵害する憲法違反の制度であり、廃止されなければならない。
 権力的な税務行政がはびこる今日、納税者の権利救済機関の役割発揮も重要である。国税不服審判所を国税庁・税務署から独立させ、職員は税務職員以外の公務員とし、公正な審査を保障すべきである。
 個人の尊厳を守り、適正手続きを税務行政に貫くためにも、経済協力開発機構(OECD)の加盟諸国などでは常識になっている「納税者の権利憲章」を国会の総意によって、一刻も早く制定する必要がある。


6、税金の使途について発言し、監視し、是正する権利を広げる

 納税者が公共サービスに関する情報や予算のしくみ、財政支出の構成を正確に知り、政治経済の民主的で健全な運営を促進するよう、税金の使途への意思決定ができるようにしなければならない。
 フランスの人権宣言は「すべての市民は、自身で又はその代表者により公の租税の必要性を確認し、これを自由に承諾し、その使途を追及し、かつその数額・基礎・徴収及び存続期間を規定する権利を有する」(第14条)と述べている。もともと国民は、その固有の権利として、税金の徴収面にとどまらず、その使途についても監視し、発言し、是正する権利を有している。
 今日の日本では、市民運動として税金「オンブズマン」(行政監察官)が国や自治体の情報公開制度を活用し、官公需の不正入札やさまざまな名目の税金流用を告発・是正している。また、住民投票・直接請求によって、採算の見通しもなく環境破壊を引き起こす無駄な大規模開発をやめさせる運動が広がっている。
 いま、政治が右傾化し、復古主義の動きが強まる中で、軍事予算が拡大している。戦争法の強行によってアメリカ追随の自衛隊・海外派兵に道を開くとともに、憲法9条に自衛隊の存在を書き込むことで、平和憲法を根本的に変質させることさえ狙われている。
 日本政府は、地方分権の流れに逆行し、税収の多くを中央政府に集中させることで、財政面から地方自治本来の役割を奪うとともに、戦争・有事の際に地方政府を動員するしくみを強めてきた。強引に進められた市町村の「広域合併」も、住民の生活環境の悪化と地方自治の形骸化を招いている。また、国保の都道府県単位化を強要するなど、地方自治体への干渉と統制に執着し、住民負担を急増させている。
 その一方で、大企業の利益を最優先した巨大開発など税金の無駄遣いに地方自治体の行財政を総動員し、地方財政を危機的状況に突き落としている。
 「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という憲法に基づいて「自助・共助」の押し付けをやめ、格差と貧困をなくす税金の使い方を不断に推進しなければならない。
 税金の使途の是正を求める広範な国民の声を最大限に尊重し、国民本位の国家予算へ転換すべきである。

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