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「納税者の権利憲章」制定への提言
1992年7月
  基本原則
 「国民こそが主人公」であり、すべて国民は個人として尊重される、とするわが国の憲法原則は、当然のことながら税務行政の分野でも十分に生かされるべきものです。
 憲法第三十条は「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」とし、憲法第八十四条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律に定める条件によることを必要とする」としています。
 この規定は、古くはイギリスのマグナカルタから始まり、フランス革命の人権宣言のなかでも明らかにされたもので、国民は法律以外に税の負担をおわされるものではないこと、恣意的に課税したり、法律によらず課税を変更したりすることは許されないことを定めたものです。
 憲法第九十八条は「この憲法は、国の最高法規」と定め、税務行政といえども、憲法に反して行われた行為は、それだけで全部又は一部は、その効力を有しないと規定しています。税務の執行にあたっても憲法原則を厳守しなければなりません。
 また、憲法第三十一条では適正手続きの保障を規定しています。事前通信や調査理由の開示、処分に当たっての理由付記などの手続き規定が存在していない、今の質問検査権の規定は租税法律主義を著しく侵害し、適正手続きの保障に反するものです。
 憲法の保障するこれらの原則は、完全に尊重され、侵すことのできない納税者の権利として確立されなければなりません。

1 すべての国民の基本的人権は保障され、誠実な納税者として尊重される
 「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として現在及び将来の国民に与へられる」(憲法第十一条)というのが、納税者権利憲章の大前提です。
 税務署及び国家公務員である税務職員はあくまでも「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」(憲法第九十九条)ものであり、国民の基本的人権を保障しなければなりません。

2 申告納税制度の原則は、あらゆる納税者に保障される
 申告納税制度は「納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則」(国税通則法第十六条)とする制度です。ところが実際に納税者に接触する税務署は、申告書は「単なる資料」としてしか扱おうとせず、「最終的には税務署が税額が決める」という、税制の基本原則を侵すようなやり方を進めています。
 このようなことを改め、申告納税制度のもとでの「申告納税」は、主権者としての重要な権利の行使であり、これを尊重するようにすることが必要です。
 また、現在の源泉徴収制度は、納税者の八五%を占める給与所得者から申告納税権を実質的に奪い、国民主権原理を侵害しています。このような点を正し、あらゆる納税者に申告納税制度を原則的に保障するべきです。少なくとも、給与所得者が源泉徴収にするか申告納税にするか本人の選択制とすべきです。

3 国民のプライバシーは、国及び地方自治体等の干渉から最大に保護される。納税者が求める場合、納税者固有の情報は本人に全面的に公開される
 すべての納税者は、国及び地方自治体等がプライバシーに対し、不必要な干渉をしないように要求する権利があります。国及び地方自治体等が持っている納税者に関する情報について秘密が保持され、税法に明記された目的以外にそれが使用されない権利があります。そして、税務署に独占されている、納税者固有の情報は本人に全面的に公開され、情報は常に厳しい監視を受けなければなりません。

4 納税者は、税務職員に質問検査に応じるように求められた場合、常に丁重、かつ配慮ある取扱いを受ける 従って、税務調査に当たっては次のことが保障される
1 税務職員は、納税者に対して質問検査をする必要がある場合には、納税者の都合を尊重し、必ず口頭及び文書で事前に通知する義務がある。事前通知なく行われた調査はそれだけで無効である
2 税務職員は、税務調査等に当たり、合理性のある調査理由を具体的に説明しなければならない
(1) 税務調査に当たっては、わざわざ「前項の規定による質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」(所得税法第二百三十四条)と明確に制限されています。
 この立場からも、「納税者に対して親切な態度で接し、不便をかけないように努めるとともに納税者の苦情あるいは不満は積極的に解決に努めなければならない」(税務運営方針)というのが本来の国税当局のあるべき姿です。
 しかし、現実には、「税務署が必要とするなら日記帳でも家計簿でもすべて何でも調査できる」「納税者はみんな調査対象であって調査できる。任意も強制もない」などと、納税者を頭から犯罪者扱いする乱暴な態度をとっています。  カナダ、イギリスのように納税者は「丁重で配慮ある取扱いを受ける」権利を確立する必要があります。
(2) 申告納税制度のもとでは、税務署の調査はあくまでも例外的行為ですから、まず事前に通知し、調査理由を開示するなど法手続きを踏むことは当然のことです。
 アメリカの調査はすべて事前通知し、@調査日時(納税者の都合で変更できる)、場所、A代理人・立会人の同席(いかなる人でも立会人として、同行できる)、準備する必要書類等々を書いた事前通知書(コンタクト・レター)が税務署長名であらかじめ発信されます。予告なしの調査はそれだけで違法で無効となります。
 わが国でも、一九七四年の第七二国会で、「税務行政の改善については、税務調査に当たり、事前に納税者に通知するとともに、調査の理由を開示すること」と、私たちの請願を採択させています。
 また、「税務運営方針」でも「税務調査は、この公益的必要性と納税者の私的利益の保護との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることに照らし、一般の調査においては事前通知の励行に努め、また現況調査は必要最小限にとどめ、反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする。なお、納税者との接触に当たっては、納税者に当局の考え方を的確に伝達し、無用の心理的負担を掛けないようにするため、納税者に送付する文書の形式、文章等をできるだけ平易、親切なものとする。」と定めているのです。

5 税務調査等に当たり、税務職員は納税者へ「誰でもわかる文書」で権利を告知しなければならない。権利の告知なく行われた調査はそれだけで無効である。また税務職員は、これらの諸権利を遵守する義務がある
 納税者を主権者として尊重する以上、調査に当たっては、納税者が持つ権利、税務職員の義務について明らかにするのは当然です。
 欧米でも、例えばアメリカでは税務調査にあたっては、納税者の権利とそれに対応する税務署の義務が告知されなければならないと法律で定められています。また、欧米などのいずれの国も税務職員に納税者の諸権利を遵守する義務を課しています。
 同時に、国税庁長官等は本憲章を税務行政にたずさわるすべての職員に繰り返し周知し、かつ教育をしなければなりません。

6 税務調査の公正を期すために、納税者が求めた場合、第三者の立会人及び、調査内容の記録や録音が認められる  第三者の立会いが必要な理由は、税務当局の違法、不当な行為から納税者の権利を守ることにあります。
 もちろん、立会いは、調査を受けた納税者自身が求めておこなわれるものです。
 当局が「守秘義務があるから」とか、「税理士法に違反するから」との理由で立会いを認めない、と言っていますが、それが単なる口実に過ぎないことは、記帳補助者の立会いは認めていること一つみても明らかです。
 国際的には、第三者の立会いは当然のこととして認められています。
 フランスでは「すべての納税者は、税務調査に際して、自らの選択により助言者の援助を受けることができる」と立会権を保障しています。
 また、アメリカでは税務調査において、テープレコーダーによる録音を認められており、また、いかなる納税者であっても合理的な理由のない調査を受ける義務がないことも法的に保障されています。
 税務職員はこの求めを拒否してはならないことは当然です。

7 課税処分は、あくまでも実額課税が原則であり、推計課税は制限される
 本来、課税標準及び税額は納税者のする申告によって確定するものです。
 税務当局がこれを変更しようとする場合には、実額計算をして誤りを具体的に示すべきです。例外的に推計課税が認められますが、これは、@納税者が帳簿書類等を備え付けていない場合、あるいは整理をしていない場合、A帳簿書類等の記載内容が著しく不正確な場合、B納税者が税務調査に対して協力しない場合など推計以外に方法がない場合に限って、きわめて例外的にやむをえない場合にのみおこなわれるべきです。この場合でも、税務署がおこなう推計より、本人推計が正確であるという判例も示されます。
 提示された帳簿等を確認せずにおこなわれた推計課税はそれだけで違法です。このような条件を充たしておこなわれる場合でも、推計の必要性の要件を充たすほか、推計の方法にも客観的合理性が要求されます。

8 課税処分に当たっては、事前にその理由を十分知らされるとともに、聴聞、反論の機会が保障される
 税務署の更正や決定の処分に対して、異議申立人が意見を述べ、反論しようとしても、処分の理由の「告知」がなければできません。
 憲法で規定されている適正手続きを保障するためには、「告知」と「聴聞」をおこなうというのが最低条件です。
 フランスでは、増差税額について通知をすることになっていますが、「その通知書には、納税者が、なぜそうなったのかを納得することができるような正当な理由をつけなければならない」ことになっています。
 日本のように、処分について何等理由を説明しなければ、付記もしないようなことは異常で、きわめて不当なことです。
 告知、聴聞、反論を納税者の当然の権利として保障しなければなりません。

9 異議申立及び審査請求は権利救済であり、国税庁と独立した機関で審査される。権利救済機関の審査を経るか、直接訴訟で争うかは納税者の選択にゆだねられる
 税務署のおこなった処分に対してなされる不服申立には、異議申立と審査請求とがあります。いずれも、行政不服審査法の建前からは、「行政庁の違法または不当な処分、その他公権力の行使」(行政不服審査法第一条)に対しその是正、救済を求めるものです。
 異議申立は、税務署長に対し、処分をおこなった税務署の処分について、正当か否かが審理されるべきものです。
 具体的には、税務署長が自分がおこなった処分が適法が否かを見直すことが目的です。したがって、改めて納税者への再調査をおこなうことは異議申立者に対する圧力以外のなにものでもなく、禁止すべきです。
 また、審査請求をおこなう国税不服審判所は権利救済機関であり、国税庁から独立した機関として審理されるべきです。アメリカでは不服審査に当たる職員は税務職員との行き来はなく、独立して審査に当たっています。
 現在、いきなり訴訟して税務署の不当処分を争う道は閉ざされており、異議申立や審査請求を経なければ裁判所に訴えることができないなど、裁判の自由が実質的に制限されていますが、権利救済の審査を経るか、直接訴訟で争うかの選択は納税者の権利とすべきです。

10 生存権的な財産の差押さえや徴収は禁止される。納税者は不服審査や訴訟で争っている場合、税額は不納付のままで公平な審査を受けることができる
 例えば生命保険の差し押さえや解約して税額を徴収したり、売掛金や預貯金のすべてを差し押さえ、生活資金さえ根こそぎ徴収するなどがおこなわれていますが、生存権的な財産の徴収は、原則として禁止すべきです。
 アメリカでは、不服審査を求める場合、追徴税額については、@不足税額を払わず争う、A不足税額を払ったうえ、再び税務署長に還付請求する、B不服審査部等の決定に従う、との三つのコースが選択できます。
 しかしわが国では、不服審査や訴訟で争っている場合でも徴収は優先され、事実上不納付のままで不服審査を続けることを困難にしています。
 納税者が不服審査や、訴訟で争っている場合は、不納付のまま公平な審査、訴訟を受ける権利を保障する必要があります。

11  納税者オンブズマン(行政監察官・苦情処理担当者)制度を設置する。納税者オンブズマンの納税者救済命令や勧告は税務当局及び議会で尊重される
 税務当局の権力の乱用を防ぐため、その監視、是正を図る機関が必要です。それがオンブズマン制度です。
 オンブズマンの最も大切な使命は徴税権・調査権をもつ税務署とは独立して納税者の権利を守り、税務行政上の行き過ぎや誤りを正すことにあります。
 アメリカの「納税者オンブズマン」を含め、OECD加盟二四ヵ国中、一五ヵ国でオンブズマン制度があります。
 オンブズマンには納税者救済命令を出す権限が与えられ、税務当局は原則としてこの命令に従わなければなりません。

12  納税者は公正な裁判を受ける権利があり、裁判は総額主義ではなく争点主義でおこなわれる
 「手続きに違法があっても、その結果としての処分は有効」という判例が次々と出されています。これでは税務署の違法な調査を野放しにすることになります。
 裁判所は、憲法の規定に基づいて、「違法な手続きによってなされた処分はそれだけで取り消される」など、公正に判決を下すべきです。
 そのためにも、裁判所は、総額主義ではなく争点主義を採用すべきです。
 税務当局の側に非があった場合は、救済のために要した費用ならびに納税者が被った損害は賠償されます。
 課税処分取消訴訟においては、処分自体が納税者に不利益を課すものですから、処分の適法性を基礎づける事実について立証する責任は税務署にあることは当然です。
 納税者が課税手続きの違法を主張して取消しを争った場合にも、税務署にその手続きが適法になされたことを立証する責任があります。

13  税務職員の民主的な諸権利は保障され、課税、徴収ノルマによる勤務評定は禁止される
 憲法より「法令及び上司の命令」に従うという税務職員教育を改め、納税者の権利を尊重するように教育する必要があります。
 納税者の権利が保障される前提には、税務職員に課せられたノルマや所属労働組合による差別の全廃が必要です。少なくない税務署で修正申告の偽造事件が発覚していますが、このノルマによる勤務評定の当然の結果です。税務職員の働く職場での権利の保障は納税者の権利確立の前提です。
 アメリカの「納税者権利憲章」は税務職員の徴収ノルマによる勤務評定を禁止しましたが、これにより大幅に税務行政が改善されました。
 
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