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いま国民の間には、大企業・大資産家には軽く、働く国民には重い不公正な税制の是正を求め、銀行への公的資金投入や大型公共事業の浪費に象徴される税金のむだづかいをただす世論がほうはいとして高まっている。
今日までの税金の歴史は、洋の東西を問わず権力者の収奪に対する人民の抵抗の歴史でもある。
日本では、農民が封建領主による年貢の強制的な引き上げに対して一揆を起こし、明治政府による「富国強兵」のための「地租改正」強行に抗議して立ち上がった。戦後の混乱期には、アメリカ占領軍と政府のむごい徴税に対して、国民は全国で生活擁護同盟などをつくり抵抗した。その後、重税に苦しむ中小業者は「生活費に税金をかけるな」「自家労賃を認めよ」と団結してたたかってきた。
わが国の税制度は、大企業と大資産家をいっそう優遇しようとする勢力と、戦後の憲法と民主主義を土台に、国民本位の税制・税務行政を実現させようとする広範な国民との対決の中で変遷(へんせん)してきた。
このたたかいのなかで、広範な中小業者団体の共同が広がり、個人事業税の大幅軽減や所得税「戻し税」を実現してきた。また国税通則法の立法化に際して「記帳義務化」や「質問検査権の強化」など税務行政を強権化する項目を削除させ、「税務調査における事前通知の励行(れいこう)と調査理由の開示を求める」国会請願を採択させるなど、数多くの成果もかちとってきている。
大型間接税をめぐるたたかいは、取引高税を廃止に追い込んだのをはじめ、付加価値税や一般消費税の阻止、売上税の粉砕というように、常に戦後税制の原則と納税者の権利に直接関わる大きな争点としてせめぎあいが続いてきた。そして1989年に「日本列島騒然」といわれる国民の大反対にもかかわらず、消費税が強行実施されたが、国民の憤りは衰えないばかりか、国政選挙のたびに消費税への各政党の態度が問われている。そして大局的には、大企業と大資産家を優遇する政治の転換を求める世論と運動が着実に前進してきている。
現在の日本では、大企業の「国際競争力」の強化を何より優先する異常な税制になっている。また国民にとって、かけがえのない社会保障費や中小企業対策費などが極端に削減される一方、大手ゼネコン奉仕の公共事業や憲法違反の軍備拡張、多国籍大企業優遇の海外協力のために、ばく大な税金が使われている。この結果、国と地方の財政の破局的危機が進行し、国民が、主権者として、納税者として「税金のとり方と使い途」を変えさせることが緊急の課題になっている。
現代の民主主義国家において、税金は能力に応じて負担し、所得の少ない者には軽く、大企業や大資産家には重く、生活費には税金をかけるべきではない。申告納税制度は擁護、発展させられるべきである。そして住民主人公にふさわしい地方税財政を確立するとともに、納税者に税金の使途について発言し、監視し、是正する権利が保障されなければならない。
21世紀に国民の生活と営業を守り、納税者の権利を発展させるために、われわれは次の要求の実現をめざすものである。
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1、生活費に課税すべきではない
憲法は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(第25条)ことを保障している。労働者の賃金、農民、中小業者など働く国民の収入は、その大部分が自己と家族の人間らしい生活に必要不可欠な経費として使われる。この生活費は現代における経済と文化の水準にふさわしいものでなくてはならない。
ところが現行の所得税および住民税の課税最低限は、実際の生計費よりいちじるしく低いばかりか、劣悪といわれている生活保護基準さえ下回っている。加えて国民健康保険に対する国庫補助が厳しく削減されたことにより、その保険料(税)が生活費を無視して重課・徴収され、滞納者の急増と「国民皆保険」制度の崩壊を招いている。
このように生活費に課税する制度は、人類の普遍の原理である人権を侵害し、憲法の精神にも反するものであり、抜本的に改正されなければならない。
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2、大衆的な消費課税は廃止すべきである
生活費には税金をかけないという民主的な税制のあり方にもとづいて、大衆的な消費課税は廃止すべきである。
政府が公約を破って導入した消費税は、人間生活にかくことのできない消費全般に課税する最悪の大衆課税であり、国家権力による国民への生存権侵害である。
政府や財界・大企業は、消費税の「基幹税」化をねらい、常にその税率引き上げなどをたくらんでいるが、この悪税が「所得再分配」や「景気調整」といった税制本来の機能を大きく破壊してきた。
そして消費税は、大企業による下請への一方的な単価叩きなど不公正取引が野放しにされている日本社会において、実際には単価や販売価格には転嫁できず、「納税協力」のためのコスト負担ばかりを増大させて、中小業者の経営に集中的な打撃を与えている。消費税の「納税義務者」に滞納が急増しているのも、こうした現実があるからにほかならない。
消費税のあり方は、これまで以上に政治と経済のあり方に深くかかわっており、その廃止は国民・中小業者本位の21世紀税制を確立するために不可欠の課題である。
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3、税金は能力に応じて公平に負担すべきである
税金は、担税力の少ない勤労者には軽く、担税力のある大資産家や大株主などの不労所得には重く、また、中小企業には低く、大企業には高く累進的に課税すべきである。
ところが、消費税は、低所得者ほど重い負担を強いられるという逆進的な悪税であり、この原則を破壊している。
現在の税制は、この消費税のみならず、所得税や住民税などの所得課税や、固定資産税などの資産課税においても、労働者、農民、中小業者の勤労所得や生存権的財産には重く、株や土地の投機的な売買などをくり返している大資産家や大企業には軽いという、きわめて不合理なものとなっている。
大企業などは、各種の企業優遇税制によって、特権的に税を減免され、その結果、法人税の実質税負担率は、資本金100億円以上の大企業のほうが、資本金1億円未満の中小企業よりも低率という不公平なものとなっている。そもそも現在の企業税制は「法人は株主の単なる集合体であり、法人税は所得税の先取りにすぎない」(法人擬制説)との前提に立った比例税率で、「法人の受取り配当には課税しない」という基本的な仕組みそのものが、不公正税制の根幹をなしている。
消費税が導入された後、政府は大企業の「国際競争力の維持」や「経済の活性化」を口実に、法人税率と高額所得者の税率を大きく引き下げた。そして純粋持ち株会社の解禁と軌を一にした会社分割税制や連結納税制度によって、国境を越えてあくなき利潤を追求する多国籍大企業の横暴を助長している。
現代社会において、大企業・大資産家の社会貢献義務を果たさせるよう不公正税制を抜本的に改め、能力に応じて公平に負担する原則を確立すべきである。
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4、主権在民の憲法にもとづく申告納税制度は擁護、発展させられるべきである
憲法は、主権在民の民主主義国家を支えるため、「国民は法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」(第30条)と述べ、「あらたに租税を課し、又現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」(第84条)ことを明らかにしている。
また申告納税制度を基本とするわが国の税制度のもとでは、「納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則」(国税通則法第16条)としている。
消費税は間接税であるが、この原則はなんら変わらないものである。
国民は、法律の定める限度で納税の社会的責任を負うと同時に、自主申告によりみずから納税すべき税額を確定する権利も保障されている。
また、憲法は「何人も、法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」(第31条)とのべている。
「個人の尊厳」と「国民の幸福追求権」は憲法の原則であり、税法は課税権の限界を明示し、課税の領域で国民の財産権を保障することを目的とするものである。
このような憲法上ならびに税法上の諸原則が明確にされているにもかかわらず、現在の税務行政は、大企業や悪徳政治家などの脱税は見逃しながら、労働者には賃金からの天引き徴税、農民や中小業者には強権的な調査や根拠のない推計課税の乱発、当局の一方的判断による消費税の仕入れ税額控除否認などを行なっている。さらに徴収面においても、預金、売掛金の一方的な差し押さえや、生命保険の解約を強要して滞納税を支払わせるなど、人権を無視し、いちじるしく公正を欠いた行政が後を絶たない。
政府と財界、その意向にそった一部の勢力は根拠のないクロヨン論や、中小業者の経営実態を無視した「益税」論を故意に宣伝し、労働者、中小業者、農民、消費者の団結を破壊しようとしている。
今日、緊急に必要なことは、納税者の大多数である労働者が、不当に奪われている自主申告権をとり戻し、主権在民の憲法の精神にもとづく申告納税制度を擁護、発展させることである。そして、租税法律主義と適正手続きの保障を厳格に守り、民主的な税務行政を確立するため、経済協力開発機構(OECD)の加盟諸国などでは常識になっている「納税者の権利憲章」を制定すべきである。
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5、住民主人公にふさわしい地方税財政を確立すべきである
憲法は、主権在民の原則を地域で具体化し、民主主義社会の管理・運営を促進するために地方自治を保障している。
そして「世界地方自治宣言」(1985年)が「地方自治体は、他の政府レベルの財源とは区別された固有の財源を持ち、これを自己の法的権限の範囲内において自由に処理する権利を持つ」(第8条)とのべているとおり、地方自治を強化し、住民主人公にふさわしい地方税財政を確立することが世界の新しい流れになっている。
ところが、日本政府は、税収の多くを中央政府に集中させることで、財政面から地方自治本来の役割を奪ってきた。また地方自治体への干渉と統制に執着し、とりわけ税金のむだづかいに、地方自治体の行財政を総動員してきた結果、地方財政を未曾有の危機的状況におとしめている。
今日、広がっている市町村の「広域合併」も、住民の生活環境の悪化と地方自治の形骸化を招いている。
憲法を暮らしに生かし、住民主人公にふさわしい地方税財政を確立するためには、税財政政策を広く経済の民主化とのかかわりでとらえ、大企業に税財政面から地域への貢献を求め、産業の規制・誘導をはかり、地域住民の生活権を確保することこそ重要である。
地方自治体の自主財源確保も、大企業への適正課税を基本とし、大衆課税を厳しく退ける立場で行使されてこそ、地域住民の信頼をかちとり、地方自治を発展させることができる。国から地方自治体へ事務権限配分に見合って税財源を移譲し、地域間格差の是正についても自治体どうしの協力・調整を基本にすべきである。
21世紀の地方税財政は、地域を「ものの生産や文化、教養その他人間らしい生活を多彩に生み育む場」として再生する立場を基本にしなければならない。
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6、納税者が税金の使途について発言し、監視し、是正する権利を保障すべきである
現代社会においては、納税者が公共サービスに関する情報や予算のしくみ、財政支出の構成を正確に知り、政治経済の民主的で健全な運営を促進する税金の使途を意思決定できるようにしなければならない。
フランスの人権宣言が「すべての市民は、自身で又はその代表者により公の租税の必要性を確認し、これを自由に承諾し、その使途を追求し、かつその数額・基礎・徴収及び存続期間を規定する権利を有する」(第14条)と述べているとおり、もともと国民は、その固有の権利として、税金の徴収面にとどまらず、その使途についても発言し、監視し、是正する権利を有している。
そして今日の日本では、市民運動として税金「オンブズマン」(行政監察官)が情報公開制度を活用し、官公需の不正入札やさまざまな名目の税金流用を告発・是正したり、また住民投票・直接請求によって、採算の見通しもなく環境破壊にしかならない空港・港湾整備やダム建設をやめさせる運動などが広がっている。
大企業本位の国家予算を、国民本位に転換するためにも、税金の使途を監視し、是正する権利を保障すべきである。
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