参院選にどう臨むか
業者要求実現のチャンス

全国商工新聞 第3365号2019年6月17日付

全商連会長 太田 義郎さんに聞く

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 日本の未来を左右する参議院選挙が迫ってきました。衆参同日選の可能性もある中、野党は全国32の参院選1人区で統一候補を擁立。「市民連合」との間で「憲法、消費税、沖縄、原発」という国政の根幹部分を含んだ「共通政策」の合意も交わしました。政治を変えるチャンスです。改憲に執念を燃やす安倍自公政権をどう評価するのか、そしてなぜ、民商・全商連は、政治と向き合い、変えるために力を尽くすのか。太田義郎・全商連会長に聞きました。

安倍政権の6年 国民の声聞かず

-6年以上続く安倍自公政権をどう評価しますか。
 この政権は、国民の生の声を聴いていない。あるいは耳を傾けようとしていないのではないか。
 忖度も極まったモリカケ疑惑、自衛隊の日報隠しに、「いざなぎ景気超え」を支えたのは統計不正です。「緊密な同盟」を繰り返すアメリカ一辺倒の外交に加え、行き詰まった北方4島返還、北朝鮮の非核化交渉…。戦前のような権力的・権威主義的な安倍首相の国家運営は破綻している、と言っていいでしょう。
 その一方で、国民多数は豊かさを実感できず、年金が削られ、暮らしや生活も破壊され、地域経済は疲弊するばかり。そして憲法改正、消費税増税を掲げ、国全体を国家主義の方向に覚醒させようとしている。さらに、夫婦が95歳まで生きるには、年金だけでは賄えず、2000万円が必要と金融庁が試算した。「100年安心」は大ウソだったわけです。参議院選挙にどう臨むかは、日本の未来を左右する選挙戦になるでしょう。

政治的無関心を作り出す税制度

-安倍政権への支持率は高止まりしています。
 アベ政治が悪い、というのは多くの人が感じていますが、“選挙に行っても行かなくても、政治は変わらない”というようなペシミズム(悲観主義)に陥っているのではないでしょうか。非常に暮らしにくく、息苦しい社会になっている。最近のさまざまな事件から、日本社会に横たわる大きな闇を感じるのは、私一人でないでしょう。
 その異常さは、税金問題にもあります。
 消費税増税、複数税率を入り口としたインボイス制度の導入は、中小業者にとって、大きな問題ですが、多くの国民にとっては、理解しづらい。
 なぜか。海外では当たり前の人権としての「納税する権利」=自主申告権が、日本では源泉徴収や年末調整といったシステムによって、はく奪され、無権利状態に置かれているからです。「税の使い方、集め方」への関心を薄め、国民の怒りを抑え込む役割を果たしている。それが、国民や中小業者の暮らし、経営、地域経済の疲弊が続いているにもかかわらず、安倍政権の支持を支える一つの要因ではないでしょうか。

政治変えてこそ業者の展望開く

-民商・全商連は「改憲・消費税増税」を掲げる安倍政権と対峙していますが、なぜ、民商は政治に向き合い、選挙に取り組むのでしょうか。
 中小業者が経済の担い手として、どんな位置にあるのか、確認したい。経済の担い手によって、公共部門、民間部門、非営利部門の三つに分ける考え方があります。公共部門の末端には、町内会もあれば、婦人会、消防、地域のまつり・文化もそうです。それを支えているのは地域の中小業者。この業者層がいなくなれば、地域経済だけでなく、地域そのものの崩壊につながってしまいます。
 生協、農協、NPO法人などの非営利部門を考えると、自治体はこうした部門に仕事をアウトソーシングし、介護などの新しいソーシャルビジネスを作り出しています。急増しているフリーランスもそうですが、この部門を担っているのも中小業者です。
 民間部門は日本経済の中核を担っていますが、ここでも中小業者が、縁の下の力持ちとして産業を支えています。
 同時にこの部門は、政治のあり方によって、中小業者の営業の自由に死活的な影響を与える。例えば風営法、コンビニ、軽トラック配送問題などを思い浮かべれば、明らかでしょう。

-法律の制定、変更もストレートに影響します。
 例えば、今年4月から施行された「働き方改革」関連法は、有給休暇を年5日以上取らせないと、従業員一人当たり30万円以下の罰金が小規模事業者にも適用されることになりました。
 小規模企業の経営に大きな負担となっている社会保険料について、国会は「効果的な支援策の実現を図る」とする付帯決議を、小規模企業振興基本法の制定と同時に採択しました。しかし、これを実現できるかどうかは、政治がこれを実際に実現するかどうかにかかっています。時給1500円を最低賃金とする制度が、今のまま実現すれば、多くの中小業者は廃業に追い込まれることになります。
 つまり、中小業者は、地域社会でも地域経済でも大きな役割を果たしていると同時に、国の政治・制度、自治体の政策によって、生きるか死ぬか、営業や暮らしを決定づけられる位置にいるわけです。
 だからこそ、中小業者は政治に向き合い、政治を変えなければ、経営も暮らしも、その地位も向上しない。全商連が規約(第3条)で「中小業者の営業と生活、諸権利を守り、社会的・経済的地位向上をはかる」と明記しているのは、そうした背景があるからです。

「共通政策」は民商理念と合致

-だからこそ、民商・全商連は、政治に向き合うわけですね。
 政治や仕組みを変えるには、社会全体の合意なしに実現できない。それは選挙を通じ、中小業者の声を代表して国会で発言してくれる国会議員をどれだけ増やすかにかかっています。
 中小業者の要求、願い、国民の暮らしを改善するために、私たちは、運動し、政治を変えるために力を尽くしてきました。民商・全商連の歴史は、そのたたかいの歴史でもあります。

-安倍政権に代わる新しい政治、展望を切り開くことが大事ですね。
 市民連合と共産党、立憲民主党、国民民主党などが合意した「共通政策」はまさに、私たち民商・全商連が掲げ、運動してきたものです。ここには、アベ政治に代わる新しい政治の方向性-消費税率引き上げを中止し総合的な税制の公平化を図る、安保法制など立憲主義に反する諸法律の廃止、沖縄の辺野古新基地建設中止、原発ゼロ実現をめざすなど-が示されています。
 この政策を実現するため全力を挙げよう。民商・県連として、共産党、立憲民主党、国民民主党や無所属で立候補する統一候補と積極的に懇談し、私たちの要求も届けましょう。

市民連合と5野党・会派が「共通政策」で合意

 日本共産党、立憲民主党など5野党・会派の党首と「市民連合」(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)が合意した「共通政策」は以下の通り。

 (1)安倍政権が進めようとしている憲法「改定」とりわけ第9条「改定」に反対し、改憲発議そのものをさせないために全力を尽くすこと。
 (2)安保法制、共謀罪法など安倍政権が成立させた立憲主義に反する諸法律を廃止すること。
 (3)膨張する防衛予算、防衛装備について憲法9条の理念に照らして精査し、国民生活の安全という観点から他の政策の財源に振り向けること。
 (4)沖縄県名護市辺野古における新基地建設を直ちに中止し、環境の回復を行うこと。さらに、普天間基地の早期返還を実現し、撤去を進めること。日米地位協定を改定し、沖縄県民の人権を守ること。また、国の補助金を使った沖縄県下の自治体に対する操作、分断を止めること。
 (5)東アジアにおける平和の創出と非核化の推進のために努力し、日朝平壌宣言に基づき北朝鮮との国交正常化、拉致問題解決、核・ミサイル開発阻止に向けた対話を再開すること。
 (6)福島第一原発事故の検証や、実効性のある避難計画の策定、地元合意などのないままの原発再稼働を認めず、再生可能エネルギーを中心とした新しいエネルギー政策の確立と地域社会再生により、原発ゼロ実現を目指すこと。
 (7)毎月勤労統計調査の虚偽など、行政における情報の操作、捏造の全体像を究明するとともに、高度プロフェッショナル制度など虚偽のデータに基づいて作られた法律を廃止すること。
 (8)2019年10月に予定されている消費税率引き上げを中止し、所得、資産、法人の各分野における総合的な税制の公平化を図ること。
 (9)この国のすべての子ども、若者が、健やかに育ち、学び、働くことを可能とするための保育、教育、雇用に関する予算を飛躍的に拡充すること。
 (10)地域間の大きな格差を是正しつつ最低賃金「1500円」を目指し、8時間働けば暮らせる働くルールを実現し、生活を底上げする経済、社会保障政策を確立し、貧困・格差を解消すること。また、これから家族を形成しようとする若い人々が安心して生活できるように公営住宅を拡充すること。
 (11)LGBTsに対する差別解消施策、女性に対する雇用差別や賃金格差を撤廃し、選択的夫婦別姓や議員間男女同数化(パリテ)を実現すること。
 (12)森友学園・加計学園及び南スーダン日報隠蔽の疑惑を徹底究明し、透明性が高く公平な行政を確立すること。幹部公務員の人事に対する内閣の関与の仕方を点検し、内閣人事局の在り方を再検討すること。
 (13)国民の知る権利を確保するという観点から、報道の自由を徹底するため、放送事業者の監督を総務省から切り離し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築すること。

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