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  トップページ > 教育のページ > 文化 >全国商工新聞 第2909号 1月11日付
 
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鞆の浦の景観を守ろう・画期的判決に勇気

 宮崎駿監督作の映画『崖の上のポニョ』の舞台になった鞆の浦(広島県福山市)。万葉集にもうたわれ、江戸期の建物や湾岸遺跡が数多く残っています。ところが広島県が埋め立て架橋を計画。反対する住民が県知事を訴えた裁判で、広島地裁は09年10月、景観を理由に公共工事を差し止めました。

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昔ながらの風情が残る鞆の港町。中央が鞆の浦のシンボルである常夜灯

 鞆の浦はJR福山駅から車で約30分、瀬戸内海のほぼ中心に位置する港町。「美しい日本の歴史的風土100選」に選ばれています。瓦ぶきの家や狭く網の目のように走る小路、緩やかな円弧を描く浜に面して軒を連ねる民家…それらが生活の中に溶け込んでいます。世界で唯一とされる近世の湾岸施設を備えた円形の港の景観は、世界遺産候補地を調査する国連機関からも貴重な遺産であると評価されています。
 鞆の浦の埋め立て架橋計画が持ち上がったのは1983年(広島県が決定)。三日月状の港を埋め立てて橋を架け、町を東西に結ぶ県道47号線の新バイパスを通すというもの。住民からは「橋をかけたら鞆の景観が壊れる」と反対の声が続出。県や福山市はそれを押さえ込むため、道路が狭く、緊急時に消防車や救急車が通れないなどの理由を上げ、「生活改善を図るための道路」へと事業をすり替え。計画を支持する住民を組織していきました。

 地裁が鞆の景観認めた
 07年、住民159人が原告となり、事業の停止を求めて県を提訴。広島地裁は09年10月、原告の請求を認め「鞆の景観は美しいだけでなく歴史・文化的価値を有しており、近隣に住み、その恵沢を受ける者の景観利益は保護に値する」と断じました。しかし、県は控訴しています。
 「30年来のたたかいの結果がやっと出た。日本はもっと景観や歴史を守る法律を整備するべき」と話すのは、原告団の1人で商工新聞読者の松居秀子さん。町の活性化を図るべく坂本龍馬ゆかりの宿「御舟宿いろは」を運営しています。判決直後、安堵やうれしさに加え「何年も前から訴えてきたのに、今になってやっと」という思いも。公共事業を推し進めようとした県や市には、怒りを通り越して情けなさを感じたと言います。

 景観は生活と切り離せない
 鞆の自然と環境を守る会事務局長を務める福山民主商工会の高橋善信さん=喫茶店=は「保全によって景観を守るか、開発によって生活を優先するかと言われるが実は違う。景観は生活の一部で一体のもの」と話します。経営する「茶房セレーノ」のデッキから一望できる鞆の港と街並みを守りたいと、運動の中心になって活動。各紙に埋立て架橋事業の問題点を執筆するなど、全国に情報を発信しています。
 今回の判決を画期的・歴史的な司法判断・判決であり、長く歴史に刻まれると評価する高橋さん。「鞆の景観を壊さなくても生活や交通事情を改善する手はある。消防車が通れないなら他の自治体のように軽4輪の消防車を使えばいい。公共事業に頼らず、知恵を出し合うことが大切」と真剣な目で訴えました。

 町を良くする気持ちは同じ
 住民の間には「高齢化が進むなか、町の整備は急務」など、橋建設を望む意見も。しかし、お互い町を良くしたいという思いは同じ。新たな活性化策を探す動きも始まっています。
 幼少時に鞆で暮らしていた福山民商会長の西浜義夫さん=機械加工=は「江戸時代の建物が手付かずで残っている鞆の浦は国民の財産。県には橋建設以外の方法を模索してほしい」と話し、計画撤回へ期待を寄せています。

   
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