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  トップページ > 経営のページ > 経営 > 全国商工新聞 第2898号 10月12日付
 
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千葉県野田市で全国初の公契約条例を制定

 全国で初めて成立した千葉県野田市の「公契約条例」。今、国のレベルでも政権を獲得した民主党が公契約にかかわる法案を作成するなど、法制定に向けた動きも広がっています。注目される「公契約法(条例)」とは何か。下請け業者にとっての課題は‐‐。
 「野田市は先導的にこの問題に取り組む」‐‐。根本崇市長が議会で決意を表明していた「公契約条例」(別項)が9月29日、全会一致で可決されました。全国で初めての条例制定です。

公契約条例とは

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低価格入札でゆれ動く建設現場
 公契約条例とは、自治体が公共工事や業務委託を受注する元請け企業に対し、従事する労働者の賃金の最低基準額等を義務づける制度。全国労働組合総連合(全労連)の伊藤圭一調査局長は「労働者の賃金・労働条件の改善は、それだけでなく、公共サービスの質の確保、さらに地域経済の活性化、地域再生にもつながってくる」とその意義を強調します。
 同法(条例)制定を求める運動が始まったのは、1980年代後半。全国建設労働組合総連合(全建総連)や全労連が中心になって進めてきたもので02年の小泉内閣発足以降、急速に発展。法制定などを求める国への意見書を可決した議会は771にまで広がっています(9月28日現在、全建総連調べ)。
 「構造改革・規制緩和路線の中で“安ければいい”と過度な低価格入札が全国に広がった。その結果、生活できないほど労働者の賃金・条件が押し下げられた。それだけでなく、公共事業・サービスの質の低下を招いてきたんです」と伊藤さんは指摘します。
 06年7月に幼い子どもが市営プールの吸水口に巻き込まれて死亡した事故も、背景には埼玉県ふじみ野市が市職員を減らし、指定管理者制度を導入して安全知識もない民間企業に業務を丸投げした結果でした。
 野田市の根本崇市長も条例の提案にあたり「提供されるサービスや財に対する品質の確保が問題となり、さらに低入札価格の結果、業務に従事する労働者や下請け業者にしわ寄せがなされ、賃金の低下を招いている」と述べるなど、深刻な公共サービスの低下を裏付けています。

条例制定は朗報

 「国の法整備が進まない中で、一地方都市で条例が制定されたのは建設産業に携わる者にとっては朗報」と評価するのは、山形県内で(有)拓芯工建(本社・鶴岡市)を経営する遠藤強さん(全商連常任理事)。同時に「下請け業者の立場からすれば検討すべき課題もある」と指摘します。
 というのも、条例により賃金の最低基準額が明確になったものの、「下請けの事業経営が成り立つような積算単価が保証されていないから」(遠藤社長)です。
 「下請け単価には、賃金にあわせ、技術・技能の正当な評価や事業経営に必要な利潤が加味されるべきであり、そのことで再生産が可能となるのです」と遠藤社長はいいます。
 野田市の条例制定をきっかけに、全国の自治体や国レベルでの法制定の動きも出ている公契約法(条例)。根本市長も「国に働きかけるための先駆的、実験的な条例と考えている」と明言しています。

共同した運動を

 建設政策研究所の辻村定次副理事長は「労働者の賃金切り下げで成り立ってきた重層的下請け構造だが、最低賃金を義務づければ、施工に携わる業者中心の生産構造に変わる可能性がある。下請け業者と労働組合が共同し条例をどう実効あるものにするか。その運動が大事」と指摘します。
 
展望が持てる

 遠藤社長は「新しい政権の下で、労働者も下請け業者も生活できる賃金や単価を実現できる展望が持てるチャンス。公契約法へと高めていく運動を通じて、二省協定賃金(注)を引き上げることが緊急に求められています。建設産業に携わるすべての人と家族が幸せに暮らしていける仕組みをつくるために、力を合わせていきたい」と決意を語ります。
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(別項)野田市の公契約条例とは
 対象は予定価格が1億円以上の公共工事と1千万円以上の業務委託契約。業務委託契約については、施設設備の運転管理業務、保守点検業務、清掃業務に限定(将来は拡大を予定)。適用される労働者の範囲は労基法9条の労働者で、受注者もしくは下請者に雇用される者と派遣法適用労働者。
 市が定める賃金の最低額は設計労務単価(二省協定賃金)や、市の一般職の職員給与を勘案して決定。市は設計労務単価(二省協定賃金)の「80%を最低として保証したい」(議会答弁)としている。最低賃金を下回った場合、受注者は下請、孫受けなどと連帯して労働者に支払う義務を負い、市は契約解除や損害賠償請求できるうえ、事業者名を公表できる。2010年度から施行。



(注)二省協定賃金
 公共工事の予定価格決定は会計令などで取引の実例価格などを考慮して適正に定めるとしている。このため農水省、国土交通省の2省が共同で公共工事に従事する労働者の賃金実態を調査し、その結果をもとに「設計労務単価」を毎年決定している。前年度の価格が基準とされるため、低価格入札のなかで毎年下落。山形県の労務単価(普通作業員)は12年連続下落となっている。

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