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  トップページ > 業種のページ > 製造・小売 > 全国商工新聞 第3000号 11月21日付
 
業種 製造・小売
 

商工新聞で販路開拓、本物の技術で商品開発=石川・能登

 「若いころ商工新聞に載った1本の記事が私の商売を変えた」―こう語るのは、石川・能登民主商工会(民商)会員で、金箔を製造する塚本守利さん。仏像など文化財の修復にも使われる品質の高さを誇る「縁付け金箔」の伝統技術を今に伝える数少ない職人の一人です。商工新聞を力に、攻めの経営で新分野に挑戦し、売り上げ増。技術の継承にも意欲的です。

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金箔の上に絵や文字を描く技法を確立し、多彩な商品開発に挑戦する塚本さんと妻の信子さん

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「縁付け金箔」を仕上げる塚本さん


 「東海道五十三次」「富嶽三十六景」「鳥獣戯画」など鮮やかな浮世絵が金箔の上に描かれた作品の数々。塚本さんの工房には、合成漆で描く漆器の技法を取り入れた創作の世界が広がります。そして今年、東日本大震災からの復興を祈念して、石川と東北をつなぐ芭蕉の「奥の細道」をたどる金屏風「絆」を製作しました。

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大震災復興を記念して製作した「絆」

 ほかにも金箔扇子、金箔絵馬守、金箔七福神など商品開発に成功したアイデア製品がずらり。「待っていてもお客さんは来ない」と03年に妻・信子さんとともに始めた販売行脚は10県100自治体を超えました。「展示会をさせてもらえませんか」と市町村役場に手紙を書いて気軽に訪問。確かな技術に裏付けられた職人展とあって多くの自治体に歓迎され、粘り強い積み重ねで商品直販の道を開拓してきました。
 「本物の金箔を作っているという誇りと、民商で培ってきた中小業者魂で、どこへでも飛び込んでいける。断られたって振り出しに戻るだけ。マイナスには決してならない」と語ります。この数年は、金箔でコーティングする技術をさまざまに応用。お米を金箔で包んだ“純金米”が「祝の席にぴったり」とヒットするなど、今年は創業以来の売り上げを記録しました。

商工新聞記事で下請けから脱却
 問屋制手工業の金箔業界。問屋が流通の全てを押さえ、景気のいい時は「仕事をすればするほどもうかった」と言います。しかし、オイルショック(73〜75年)を契機に、主要な納品先である仏壇・仏具業界が中国からの安い製品に押され、金箔の需要も頭打ちに。塚本さんは「縮小する販路と事業規模に展望を見失っていた。伝統産業は絶滅危惧種であるかのようにやゆする心無い政治家が現れたのもこのころです」と振り返ります。
 生き残りの道を求めて模索する日々。仕事中に何気なく聞いていたラジオで、木製の名刺があることを知った塚本さん。それに金箔を貼った名刺を作ろうと思い立ちました。しかし、金箔がインクをはじき文字が書けない問題に直面しました。

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経営発展のきっかけになった商工新聞記事(1986年3月31日号)

 当時、共に金沢民商の副会長を務めていた印刷業の伊藤暁さんに相談。試行錯誤の末、86年に3年がかりで印刷できる方法を確立し、金箔名刺が完成しました。民商で自慢して見せて回ると、事務局員から「商工新聞に通信を送ってみましょう」と声がかかり、一つの記事になりました。
 「商品開発で受け身経営脱皮 伝統工芸生かした金箔の名刺」(86年3月31日号)-この記事が塚本さんの商売を変えたのです。「地元紙にも掲載されましたが目立った反応はありませんでした。だから正直に言うと、それほど期待していなかった」と言います。
 ところが、全国から注文の電話が殺到。「だめでもともと」と信子さんから許されていた開発資金5万円を回収して余りある約80万円を売り上げたのです。「全国は広い。何よりも商工新聞は読まれている」と実感しました。

異業種の民商は情報がいっぱい
 民商会員からの注文の中には「せっかくだから記念品になるものが作れないか」との要望も。金沢の名所を描いた金箔絵はがきが誕生しました。さらなる飛躍は、86年に金沢市内で開かれた全国事務局員交流会の物産展。絵はがきは飛ぶように売れ、「高級感ある盾に入れたものが欲しい」との声に応え、新たな商品開発へとつながりました。そして現在へと至る自家製造・自家販売、販売行脚のスタイルを確立する転機になったのです。

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玉子型の石に金箔を張った縁起物の「ラッグ」

 「お客さんの言葉の端から次の一手のヒントを得る。何より異業種の情報が載っている商工新聞をよく読むことです」と塚本さん。絶えず自分の仕事に生かせないかとアンテナを張り、「これは」と感じた記事中の会員を直接訪ね、情報交換もしているといいます。
 「商工新聞は、中小業者の団結の道を示し、ほかでは手に入らない技術や知恵の宝庫です。3000号を迎えたこの宝をもっと大きく」と笑顔を見せました。

伝統の技生かし1万分の数ミリに
縁付け金箔とは…縦・横1センチ、厚さ0.5ミリの合金を昔ながらの和紙に挟んで箔打ち機でたたいて伸ばす。塚本さんの縁付け金箔は、5メートル50センチ四方へと広がり、厚さは1万分の数ミリに。わずかの息の乱れで舞い上がるほどです。一枚ずつ竹の枠で縁に筋を入れて正方形に切りそろえる縁付け。今や産地の主流となった「断ち切り」金箔と比べ、薄く仕上がり材料に張ってもはがれにくいのが特長。金箔本来の輝きは、年を経ても変化しないと言います。
 「伝統技術をなくしてはならない」と塚本さんは06年、「縁付け金箔技術保存研究会」を発足させました。後継者育成の熱意は金沢市や石川県を動かし、金箔工芸館の建設、技術者育成の奨励金制度の創設などへつながっています。また、文化財の保存に寄与しようと職人仲間と「巧塾」も立ち上げています。

 ▽金箔のツカモト
 〒929-0342 石川県河北郡津幡町北中条ヨ2の1
 Tel&ファクス 076-288-6782
 ホームページ=http://www.kinpaku.jp
 心得=「理屈抜きで技術を磨け」「人に学ぶ、物に学ぶ、自然に学ぶ」「恩は遠くから返して、義理を欠かすな」など。
全国商工新聞(2011年11月21日付)
   
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