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  トップページ > 業種のページ > 建設土木 > 全国商工新聞 第2768号 2月5日付
業種 建設土木
 
LLC設立で広がる仕事の夢
技術や専門性生かせてピッタリ

仲間とのコラボが一番 埼玉・川越民商 吉田拓郎さん(28)
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時代を見据えて経営をきりひらく吉田さん
  自由な発想で個人の技術や個性、専門性を生かす。法人でありながら、会社組織には縛られない‐‐。これまでの「会社」という概念を打ち破った会社を青年が集まって設立しました。埼玉・川越民主商工会(民商)の吉田拓郎さん(28)が経営する「Y・T デザイン・オフィス」。会社の形態はLLC(合同会社=別項)です。住宅建築を主軸にしながらも、顧客の生活にかかわるあらゆるニーズに応え、トータルな事業を展開。いわば「建築の広辞苑」ともいえる存在です。時代を見据えて力強く羽ばたいています。


 「お客さんのライフデザインを描き、生活そのものをサポートする。それは一人じゃできないから、あらゆる専門家との提携が必要。でも、みんなが一つの会社に属する必要はない。一人ひとりが独立して企画を提案し合い、相乗効果を生み出す。それが『Y・T』がめざすもの」。吉田さんがやろうとしているのは建築の枠を超えるスケールのでっかいもの。05年3月に独立し、新会社法が施行された昨年5月1日、LLC設立の届け出を提出しました。賛同する仲間と共同し、住宅の建築・リフォーム、不動産取得に伴う税金や不動産登記に対するアドバイスなどを手がけ、新作家具も製作・販売。今期は、前年比160%の売り上げ増が見込まれています。

経営理念に最適
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 吉田さんがLLCを選択したのは、役員を置かずに1人でも会社が設立でき、 「Y・T」の経営理念を貫くには、最適だったからです。加えて「LLCってなに?」と尋ねられたとき、逆に経営理念を話し、売り込めるとも考えました。
 この間、さまざまなアドバイスをしてくれた奥村聡さん(31)=司法書士=は「Y・T」の共同出資者にもなり、大切な仕事のパートナーです。「しっかりとした経営理念を持たなければLLCは成り立たない。二人で十分すぎるほど意見を交換し、事業計画を練り上げた。一人社長では経営企画室的なものは持てないけど、LLCは横のつながりを生かして、それができるのが最大のメリット」と強調します。
 奥村さんは「Y・T」にマンションのリフォームを依頼したのがきっかけで、吉田さんと意気投合。「打てば響くような関係ができて、こちらの描いていることを形にしてくれ、安心して任すことができた」と言います。以来、2人には絶大な信頼関係が生まれました。吉田さんは2月から2世帯住宅の新築を着工させますが、依頼主は当初、税金滞納を理由に土地を差し押えられて困っていました。その問題を奥村さんが解決し、家を建てられるようにしました。こうしたケースがLLCの仕事の一端。共同することで仕事を拡大させます。

税の専門家も
 8月からは税理士事務所を開き、FP(ファイナンシャル・プランナー)の資格を持つ土屋貴史さん(32)が仲間に加わりました。FPとは夢や目標を実現するためにサポートするのが役割。不動産取得や税金、資産設計・管理、住宅ローン、生命保険、年金などあらゆる知識を生かし、相談者に適切なプランを提案します。土屋さんの仲間入りは「Y・T」の歯車を大きく前進させました。
 さらにホームページ(HP)の制作会社を経営する中嶋貴之さん(31)と祥之さん(29)との出会い。「Y・T」のHPを工事するため、時間をかけて話し合い、管理・運営のいっさいを任せようとしています。

建築を本気で
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「Y・T」の仲間。右から吉田さん、中嶋兄弟、土屋さん、奥村さん
 吉田さんは宮大工の祖父や1級建築士の資格を持つ父親の姿を見て、10代のころから建築家にあこがれていました。自分が納得しなければ動かないタイプ。高校進学後、カナダにホームステイした後、学校に疑問を感じ、高校を中退。夜通し遊んでいた時期もありましたが、建築現場で働くようになり、社会人としての緊張感が生まれました。建築の仕事を本気でやろうと決めたのはこのころです。
 夜、アルバイトをしながら学費を稼ぎ、昼間は建築の専門学校に通い、勉強にのめり込みました。上級科を卒業後、アトリエ設計事務所に入社。16歳から23歳までの7年間、全力疾走でした。さすがに疲れを感じ、その後の1年間は海外を回り充電期間に。
 日本に戻り、仕事を探そうとハローワークで見つけたのが(株)「アート設計事務所」。現場監督として雇用されました。そこで2代目として頑張る川越民商の菊池竜輔さん(34)と出会いました。
 「海外にも行き、コンペでも賞をもらって天狗になっていた自分を叩きのめしてくれたのが竜輔。今さら現場なんてと思っていたし、自分はバーチャルな世界で建築を描いていた。だけど竜輔はいつも地に足をつけ、言うことにも筋が通っていた。企画、設計、営業のことはもちろん職人さんとの接し方も学び、それが今に生かされている」と吉田さんは振り返ります。
 菊池さんは、吉田さんを一目見て「我が強くて個性的なやつ。でもどこか自分に似ている」と直感しました。「現場監督はすべてを網羅し、自分が率先して動かなければ職人さんもついてこない。お客さんとのやりとりも、苦労したと思う。自分の意見を押し付けるんじゃなく、お客さんの求めるものを表現する。初めは反発もしていたけど、人とのつながりのなかで、大きく成長した」と菊池さん。1年後、吉田さんはアート設計から独立。今でも悩んだときにはいつも菊池さんに真っ先に相談し、民商に入会。昨年9月に開かれた全国業者青年交流会にも参加しました。
 「Y・Tというオリジナルブランドを世に発信し、もっとたくさんの人たちに認識してほしい。いろんな仲間とのコラボレーション(共同)がそれを可能にする。その礎を築いていきたい」。吉田さんは新年の意気込みを語っています。

日本版LLC、LLPとは
 LLC(合同会社)とは 新会社法で新設された会社法人です。最低資本金の規制はなく、1人でも設立が可能です。
 主な特徴は、(1)登記=最低額は6万円(株式会社は約24万円)で、コストが節約できる(2)決算=公告義務はない(3)有限責任=出資者の出資額の範囲内に限られる(4)柔軟な経営=法律のしばりは少なく、社員間の同意で意思決定ができ、株主総会や取締役会のような機関を設置する必要がない(5)会社の税金=法人税や地方税が課せられ、事業税は法人税の課税所得によって段階税率が適用される‐などです。
 似たような組織としてLLP(有限責任事業組合)があります。最大の違いは、LLCが「法人」であるのに対し、LLPは民法上の「組合」で法人格はなく、個々の構成員(出資者)に税金が課税されることです。設立には2人以上が必要で、株式会社への変更はできません。
 
 
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