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トップページ > 地域のページ > まちづくり > 全国商工新聞 第2830号 5月19日付

地域 まちづくり
 

キャノンが進出した自治体の実態は
アパート急増でも入居は派遣社員
住民登録もせず、住民税も入らず

大分県連「大企業誘致より地域振興を」

   「アパートは次つぎ建つが、住民税も入らない。大企業誘致は本当に自治体のためになっているのか」‐。キヤノンやソニーなど大企業の誘致を多額の補助金を使って推進している大分県。キヤノンの工場がある国東市安岐町と大分市の現状を調べると、国の労働者派遣法の規制緩和(03年に対象業種を製造業にまで解禁)によってやりたい放題の大企業の下でしわ寄せを受ける自治体と県民の実態が見えてきました。

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「アパートに住んでいるのはほとんど県外の派遣社員ばかり」とずらりと並ぶ県外ナンバーを指さす国東市の白石徳明議員
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夕方5時からの勤務に向かう若い労働者ら(大分市内の大分キヤノン前)
住民税がまったく入らない
  大分キヤノン安岐事業所(国東市安岐町)周辺に次つぎと建設される派遣社員や定期雇用者向けのアパート群。駐車場には沖縄、熊本、宮崎、山形、豊橋など県外車両がずらりと並んでいます。
  こうしたアパートの建設に伴って住民が増える一方で住民票を移動せず、住民税が入ってこないことが大きな問題になっています。
  アパートが集中する同市の安岐町と武蔵町では02年から05年までに713人分のアパートが建設され、確実に住民は増えているにもかかわらず、住民登録数は27人減少し、個人住民税が2900万円も減っています(図1参照)。
  国東市議会の中でただ一人、この問題を取り上げてきた日本共産党の白石徳明市議は「住民票や住民税だけではない。この間、地元の住民からさまざまな相談が寄せられるようになった」と話します。
  「キヤノンの3交代勤務で昼夜となく知らない住人が行き交い、治安上も不安」「自転車が公園などに放置してあって困る」「ゴミ回収など行政サービスは利用するが自治会費も入ってこない」などです。最近も派遣社員が市民病院に救急車で運ばれたものの、親元の扶養になっていて、国保証がなかったということが続けて発生しました。

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立地協定守れに市長も賛同

  3月議会で白石議員は「安岐町だけでも1000人分以上のアパートがある。市の税務課の試算によれば、月給30万円ぐらいの1000人がちゃんと住民税を払ってくれるだけで1億2000万円もの税収になる。キヤノンは立地協定(注)で地域振興や地元優先の採用、地域社会との融和などを約束したのに非正規雇用は約8割。大半は県外の派遣社員を使ってぼろもうけをしている。ちゃんと正社員を雇用し、地元に定着するよう申し入れるべきだ」と追及。野田侃生市長も賛同しました。
  高木正史副市長も本紙の取材に対して「住民票を移動して住民税もちゃんと納付してほしい。大企業は正規雇用を進め、下請けの派遣会社にもちゃんと指導してほしい」と明かしました。
  一方、県の滝口定義参事にただしたところ「深刻な問題だと思うが、企業に何も言えないという立場。雇用形態などの指導監督は国の仕事」と言い切りました。

県は大企業誘致に大判ぶるまい
  旧通産省出身の広瀬勝貞県知事は政財界との太いパイプを強調し、大企業の誘致に熱心です。
  06年には県が68億円かけて造成した大分市内の土地を、大分キヤノンと大分キヤノンマテリアル2社に50億円で売却。また昨年暮れ、随意契約で工事を行った鹿島建設と、契約を仲介したとされるコンサルティング会社が多額の所得隠しで東京国税局の査察を受けるなど、キヤノン誘致をめぐる企業・県政の癒着問題にも注目が集まっています。
  また県は2年前、安岐町のキヤノンレンズ工場開設に伴い、2万6500平方メートルの町立多目的グランドと公園を駐車場として無償でキヤノンに寄贈するよう合併前の安岐町に要請。破格の値段でキヤノンに売却されました。
  広瀬知事は「税収も上がり、雇用も改善している」と言います。しかし、同県の大企業21社が納めた法人税が9億7863万円(06年度)に対し、立地補助金は9億9329万円を支出。知事の言い分は成り立ちません(図2参照)。一方で、苦境にあえぐ中小企業対策の予算は4・7%で横ばいです。
  大分市内で「大盛食堂」を30年経営する大分民主商工会会員の大泉努さん(67)は、食材、燃料の高騰で15年ぶりにメニューの値上げを余儀なくされました。「値上げせず必死で頑張ってきたけどもう限界。大企業が来て景気が良くなったかって? まったく実感したことないよ」。

住民と自治体が声を上げる時
  働く労働者の実態も深刻です。「振り込まれたのはたったの3580円だけ。これでは生活できない」‐。1カ前から大分キヤノンで働いている派遣社員の山口良子さん(31・仮名)は通帳を見せ、力なく言いました。派遣会社の教育係からいじめを受け休みがちになり、寮費、家具のレンタル代、不明の「経費」などが差し引かれました。
  大分県労連の児玉圭史事務局長は「大企業は派遣会社を使って若い労働者を使いつぶしている。派遣や請負を規制する労働法制の整備は急務」と話しました。
  大分県商工団体連合会の井上良雄会長は「地方財政、地域経済に潤いはない。地域を守り、地域とともに生きてきた中小業者として税金の無駄遣いをやめさせ、経済効果が地域や自治体に還元するように働きかけていきたい」と決意を語りました。

(注)キヤノンの立地協定書(抜粋)
  第7条‐従業員の採用
  県及び市は、工場従業員の充足について協力し、会社は従業員の採用について地元優先に配慮するものとする。
  第8条‐地域振興に関する協力
  会社は、工場の建設及び運営に伴う所要の資材、物資及び設備の調達にあたっては、できる限り地元業者を利用するよう勤め、その活用を図るものとする。
  第9条‐地域社会との融和
  会社は地域社会との融和、強調に努めるものとする。
 
     
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