米国、消費税を問題視。
増税なら報復措置も

全国商工新聞 第3362号2019年5月27日付

経済評論家 岩本 沙弓さんが指摘

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いわもと・さゆみ 金融コンサルタント・経済評論家。青山学院大学大学院国際政治経済学科修士課程修了。為替・国際金融・税制関連の執筆の他、国内外の金融機関勤務を生かし、参議院、学術講演会、新聞社主催の講演会等で国際金融市場における日本の立場を中心に解説。著書に『アメリカは日本の消費税を許さない』など多数。

 内閣府が20日発表した今年1~3月期の国内総生産速報値は個人消費、設備投資、輸出の減少が明らかになりました。「景気動向指数」も「悪化」へと下方修正される中、安倍政権は10月からの消費税10%増税への姿勢を崩していません。「日米貿易交渉の最中に増税すれば、米国は報復措置を突き付ける」と警鐘を鳴らすのは、経済評論家の岩本沙弓さん。日米貿易交渉がどんな影響を与えるのか、話を聞きました。

“輸出還付金はリベート”

消費税が争点に

─交渉の中で日本の消費税増税が問題になっているのでしょうか?
 茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表による会合が4月15、16の両日、ワシントンで行われました。
 日本政府は物品貿易協定(TAG)と名称をつけて物品に限定しようとしていますが、米国は包括的なサービスを含めての交渉と言っています。昨年12月、米国は交渉の目的と内容(22項目)を公表し(表1)、その序文で関税と非関税障壁も対象で、TPA(貿易促進権限)法(102条)にのっとるとしています。この中に「国境税」があり、消費税が含まれます(表2)。
 他国の税制に口出しをすると、内政干渉になりますので、「日本の消費税が気にくわない」というような書き方をしませんが、国境で調整機能がある消費税は関税とみなし、これを含めて交渉すると、公言しているわけです。

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─米国は消費税や付加価値税の輸出還付金制度を問題にしていますね。
 米国では消費税や付加価値税はリベート(補助金)付きの関税、不公平な税制との考え方があります。
 WTO(世界貿易機構)は間接税であればリベートを渡してもいいという例外規定があり、ライトハイザー代表はこのルールを批判してきた筆頭の人物です。日本の消費税引き下げ要求とWTOのルールも改定するという、二段構えで臨んでいます。

中国制裁の影響

─米中通商交渉が熾烈になっていますが…。
 米通商代表部は中国への制裁関税の「第4弾」として3805品目に、最大25%の関税を課すと発表しました。これが発動されれば、特に中国には深刻な事態を招きかねません。
 こうした中で、中国は日本の消費税にあたる「増値税」を引き下げました。製造業などの税率を16%から13%に、交通運輸業や建築業など税率を10%から9%へと引き下げです。内需活性化の側面もありますが、関税と考える米国に妥協してとの見方もできます。
─日米交渉にどんな影響がありますか?
 中国に関税が25%かけられて、一番対応を迫られているのは日本でもあります。メキシコ、カナダ、米国が新貿易協定(USMCA)を結んだ昨年10月、トランプ大統領は日本を名指しして、今後の日米交渉の中で、日本がそれなりの回答をしなければ、自動車に相当の関税をかけると言いました。
 この動きを察知し、「消費税増税は必要」と明言してきた日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は、「平成31年度税制改正」に対する要望書の中で、消費税増税賛成の態度を軟化させました。自工会が要望書を提出した直後、日米間での交渉入りが合意されました。
─米国からの圧力があったと。
 トランプ政権への対応として自工会が風向きを変えるのは賢明な判断です。これまで一番の増税派とも言える自動車業界の増税賛成のテンションが下がれば安倍首相としても増税を中止しやすいはずです。
 安倍首相の側近中の側近、自民党の萩生田光一幹事長代行が増税延期を示唆したのは茂木氏とライトハイザー氏の会談直後でした。米国から関税機能を持つ消費税へのプレッシャーがかかった上でのコメントではないでしょうか。
 米国はこれまで各国の輸出産業が米国市場に安い製品を提供して構わない、われわれは金融で稼ぐからというスタンスでしたが、トランプ政権になった時点で、「米国ファースト」と言い始めました。生産拠点を米国に戻し、米国製品をナンバーワンにし国内に還元する。今まで無税特権を利用してきた海外製品は許さないと、態度を変えました。

増税中止の展望

─EUでも付加価値税見直しの動きが広がっていますね。
 EUは2016年に恒久改革としての計画を発表しました。軽減税率は一部見直し、撤廃の方向です。欧州でも個別企業が払った付加価値税を還付し、不正や詐欺が横行していました。改革では、欧州域内で財務省同士での資金移転で不正還付をなくそうとしています。個別企業へのリベートはなくなるわけです。
─増税中止の展望は?
 外圧で中止は情けない話で、本来なら日本国内からの声で中止の判断が筋ですが、米国プレッシャーは相当のものです。可能性は高いでしょう。
 厳しい日米交渉の最中に消費税を増税すれば、米国は自動車の関税引き上げなどの報復措置を当然突き付けます。日本に不利になる増税を強行していいのか、賢明な判断を日本政府に求めたいと思っています。

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