第二章 大手小売資本への国民の立場からの規制強化の方向

1、中小商店・商店街の大切な役割
 小売商店数の99%、年間販売額の76%は中小商店が担っており、630万人の従業者が中小商店で働いています。
 中小商店は地域で住民と密着し商品の提供を通じて、住民とその家族の生活と健康を守るという貢献をしてきました。地域のこどもたちの健やかな成長や青少年の非行防止など、大資本にはできない役割も果たしてきました。
 中小商店と商店街は、網の目のようにきめ細かな日本の小売流通を担う一方、地域の世話役としても働き、まちの潤いや活気をうみ、地域住民とともにそれぞれの地域固有の文化・風土を営々とはぐくんできました。消費者が商店街などに期待するのも、「アフタ−サ−ビス」「地域活性化、まちづくり」「楽しい買い物の場」「消費情報の提供」など、地域生活に密着した役割です。
 専門家の中からは「ビッグストアが日本を席巻したら、『もの』は豊富で便利であろうが、地域の伝統、文化、人のつながり、治安、夜の静寂さ、住みやすい街、住むことに誇りをもてる街はなくなってしまうのではないかと懸念される」といった声があがっています。
 中小業者が一貫して消費税の増税に反対し、その廃止を要求しているのは、その最終負担者である消費者の利益を守るという立場からであり、高い正義感、道徳感に裏付けられた行動でもあります。
 このような中小小売業者を「非効率」という理由で切り捨て、利潤追求を第一とする大資本に地域をゆだねようとする規制緩和は、人間らしい生活を望む国民が期待する小売・流通のあり方ではないと考えます。

2、大店法の緩和に反対、規制強化を
私たちは、これ以上の大店法の緩和には強く反対します。そして、都道府県知事の権限で許可制にする、大資本のコンビニも規制対象にするなどの、大店法の強化改正を提案します。

 政府は、大店法をさらに緩和する方向で審議会討議を開始しました。来年の通常国会に改悪案を提出する方針です。これは、アメリカを先頭とする外国資本や大手小売資本の利益拡大のための圧力に応じて、事実上、大店法が無いに等しい状態にするもので、とうてい認めることができません。
 90年代に入ってから3度におよぶ大店法の緩和で、大型店の新規出店は最高記録を更新しています。
 まちの顔ともいわれるまちの中心部の商店街が空洞化し、消費者に不便を与える問題に加え、地域全体の活力を低下させています。
 郊外地への相次ぐ出店、大型店同士の激しい競争、過度なコンビニ出店、長時間営業は、道路の渋滞、排気ガス、騒音、ゴミ、青少年への悪影響など住・教育環境を破壊し、被害は拡大し続けています。大型店は、地元問屋との取引は少なく、地場産業振興にも役立ちません。地元金融機関にも、つり銭を用意させるが売上は本社に送金するだけというように、地元経済への貢献は低いものです。「大企業が栄えて地域がほろぶ」のはもうごめんです。
 経済企画庁は、規制緩和の経済効果を試算、全体としてプラス効果があったとしていますが、大店法の緩和については、中小商店、商店街を衰退させ、経済効果はマイナスだったと発表しました。
 代表的な大手スーパーである、イトーヨーカ堂社長は、地価は下がり、大店法は緩和され、安い労働者は獲得し易く、「これまで経験したことがないくらい出店環境は良好」だと語っています。
 当然、大スーパーなどの出店意欲は衰えず、「規制緩和で海外の大手流通業が必ず、日本に進出してくる。経費がかかっても今は出店を急ぐべきだ」(スーパー・ライフ清水会長)と明言しているではありませんか。
 このように、大スーパーなど大手小売資本は、新規大型店やコンビニを引き続き増やす計画であり、また、アメリカの大手小売業や不動産業者も超大型商業施設の日本進出を決めるという動きに、中小小売団体をはじめ、国民は怒りと不安を高めています。

3、大型店規制は世界の流れ
 世界の流れはどうでしょうか。
 アメリカではゾーニング法、フランスではロワイエ法、イタリアでは商業基本法、ドイツの連邦建設法など、大型店出店等について様々な規制法があり、欧米諸国では政府や自治体の許可が必要になっている上、規制強化が流れとなっています。
 フランスでは新規出店の審査対象面積が300平方メ−トルまで引き下げられ、イギリスでは環境保護の立場からの規制が強化され、アメリカでは最近、ディスカウントストアの最大手ウォルマ−トの進出が「住環境の破壊につながる」という住民の反対運動によって出店差し止めになりました。
 これに対し、日本では、届け出をすればよい制度で、しかもこれを緩和しようというのです。なぜ日本だけが世界の流れと逆の方向に走るのでしょうか。
 日経産業消費研究所の調査でも、都道府県と政令指定都市の産業振興政策の重点として、「大型商業施設の誘致」をかかげるところはほんの一部という結果が出ています。「もうこれ以上大型店はいらない」という自治体が大半です。

4、これ以上の大資本の横暴野放しの規制緩和は許せない
 大店法の緩和だけでなく、コメ(96年6月から卸・小売の参入が許可制から登録制へ)、酒類(89年に免許制度基準緩和)、ガソリンスタンド(スタンド建設の規制廃止、輸入自由化)、薬品・化粧品(再販制度の縮小)などの業界で新規参入の道が大きくひろがりました。出版の自由と文化に貢献する、新聞・書籍の再販制度の見直しも検討されようとしています。
 すでに、これらの業界に大手小売資本は競って参入、その結果、中小商店では売上が大きく減少し、本業では生活できず、パートや深夜のアルバイトに出る人が増え、自殺者まで出るほどに事態がすすんでいます。
 「アルコールは普通の商品と違って、致酔性のある商品だから、適量を適正に売っていくために一定の規制が当然必要」(酒販組合)、「薬は生命にかかわる商品、大型店やコンビニで大量販売することが消費者利益か」(薬局店)、「生産量と消費量はほぼ決まっているのに、卸・小売業者だけ増やすことは中小商店つぶしだけが目的なのか」(米穀小売店)など、業界から批判・抗議の声があがっています。
 また、卸・小売業で働く労働者からも、「社会で果たしている役割にふさわしい人間的な労働条件を」といった要求と運動がとりくまれています。
 私たちは、中小企業団体や労働者のなかでひろがる「大店法等のさらなる規制緩和反対」「家庭も破壊する長時間営業反対」の要求を支持し、ともに奮闘します。

 そして、より広範な団体、消費者・住民とともに、大店法のこれ以上の緩和を許さない大きな共同・連帯の運動のなかで、規制強化の法制定をめざします。
 また、真の消費者利益にかなう方向のために、「商業集積活性化法」「中小小売商業振興法」の活用現状と今後のあり方について、ひろく国民とともに見直しの議論をすすめることを提案します。

5、公正な取引ルールの確立を
 地域の電器店経営者の組織である、全国電機商業組合連合会は、96年3月、カラーテレビ、冷蔵庫の1円セール商法などに抗議、「公正な競争の実現」を求めて決起大会をひらきました。
 大型店などによる、中小商店の仕入れ価格を下回る安売りの氾濫は、写真、紳士服、酒、その他さまざまな商品にひろがり、中小業者の経営に大きな打撃をあたえています。
 また、百貨店やスーパーに納入している中小卸売業者に対しては、納入価格の理由なき値引きや、本来返品しないのがルールである「買取制」の商品まで返品するなどの例が増えています。
 フランチャイズシステムによるコンビニの多店舗展開でも、本部と加盟店の不平等契約によるトラブルが増えています。
 大企業がその優越的地位を利用して、中小業者に不利益を押しつけたり、「おとり商品」で消費者をあざむくなどの行為は違法です。
 公正取引委員会は今年新しく、不公正な取引方法を監視することを専門にする上席専門官を増員する措置をとりました。当局もその必要性を認めるほど、不公正取引があふれているのです。
 私たちは、商品が安くなることに反対するものではありません。メーカーも卸売業者も小売業者も、コストを引き下げて消費者によい品を安く提供する経営努力をつよめることは当然必要だと考えます。
 しかし、そのために、法律を無視したり、商業道徳もふみにじり、中小業者や労働者にしわよせをして、結果として地域で貢献する中小商店を廃業に追い込むような行為は消費者利益にも反すると考えます。
 経団連の「企業行動憲章」や業界が自主的に作成している「企業行動指針」などでは、「公正、透明、自由な競争を行なう」「良き企業市民として積極的に社会貢献活動を行なう」「健全な商慣習に従い、取引先と相互に利益のある関係を樹立し、これを維持する」などとうたっています。これを確実に守るなど、大企業はその社会的責任を自覚し、公正な取引ルールの確立の義務を果たすことを要求します。
 自治体にも法的権限を与えるなど、違法行為の未然防止と摘発の体制を強化し、行政の責任で大企業の違法行為を厳しく取り締まることを提案します。

6、地方条例の今日的意義をふまえて
 どこにどのような商業施設が配置されるかは、都市計画上の重要な問題です。また、地域の独特の歴史や特徴、個性も発揮した産業振興や安全で住みよいまちづくりを地域の中小業者、住民、自治体が共同してすすめるために、適正な条例を制定することは、地方自治を守り、発展させる上で大きな意味をもつことはいうまでもありません。
 自治体の都市計画や住民利益を無視した一方的な出店、そして撤退がもたらす撹乱行為を条例等を活用して規制することは当然のことです。
 大企業や政府が、この間、地方条例や自治体独自の規制要綱を目の敵にして廃止をせまる圧力を加えてきたことは全く不当です。
 私たちは、「わがまち中小業者宣言」づくり運動や地域経済振興条例(仮称)制定運動などと関連させながら、地方自治を守り、魅力と活力ある地域づくりへ、大企業の横暴を規制する条例制定がいっそう大切だと考えます。

7、大企業、大型店との共存共栄に関して
 私たちは、大企業や大型店の存在を一切否定する立場をとっていません。問題にしているのは、地域の実情を全く無視して、中小業者・住民が反対する出店や撤退を一方的にきめたり、その資本力や販売力にものをいわせて、中小企業・中小業者、労働者、住民、自治体の意思やねがい、法令や業界の慣例、商業道徳を無視・かく乱する行為です。
 今日、地域の商店街、中小商店の衰退・経営危機の根源の一つは、製造業を先頭にした海外への生産拠点の移転による地域経済の衰退です。また、競合する商品の輸入増大が地場産業、地域産業を危機に追い込んでいます。
 私たちは、大企業、大型店と商店街、中小商店が共存共栄することは絶対に不可能だとは考えません。しかし、自由競争社会であることは、一切のルールがない社会とはちがうはずです。このルールを無視し、共存共栄の基盤を大企業、大型店が破壊していることが問題です。
 私たちは大手小売資本に対して、法令を順守することはもちろん、地域の歴史や伝統、商業道徳をふまえた公正な事業活動をおこなうよう、要求します。
 また、地域社会、地域経済を担う重要な一事業体として、その様々な力を地域振興に貢献することにふり向けることこそ、これからの時代に求められる企業のあり方だと考えます。
 個々の中小商店の経営努力、商業集積の魅力をいかす商店街、小売市場の自主的努力、自治体の支援などが実をあげるためにも、大企業の地域経済をかく乱する行為を民主的に規制することが不可欠です。さらに、大企業の一方的な撤退等を規制する法制度の確立が必要です。
 対等・公正な立場で、地域全体の真の活性化の方向を話し合い、大企業・大型店と商店街の良さを発揮することと各個店の経営が伸びることを結びつけた、共存共栄の道が実現することに双方が努力することを提案します。

8、「消費者利益のための大型店出店」論などの本質
 大型店などが新規出店や正月営業に際して必ず強調するのは、「消費者の選択の場をひろげ、消費者利便に貢献するため」論です。
 では、ダイエー、ジャスコなど大手小売資本は、本当に消費者利益のための企業行動を貫いているのでしょうか。
 通常の商圏ですでに大型店は飽和状態にある地域に、殴り込み的に出店する行為は、もはや「消費者の買い物の利便」とか、「選択の機会を与えるため」という理屈は説得力をもちません。逆に交通渋滞や騒音など住環境に悪影響を及ぼすだけです。
 一方、自治体の公的補助も受けながら出店したにもかかわらず、企業が望む通りの営業成績が上がらない場合は、店舗を閉鎖・撤退しています。たとえばジャスコは、「採算の悪い店舗は通常の建て替え時期や閉鎖すべき時期になる前でも閉鎖する」と公言しています。実際にジャスコは過去5年間に67店を出店する一方で36店が撤退・閉鎖しています。
 このような行動はジャスコに限りません。消費者利益よりも自己の企業利益優先が本質であることは明白です。
 正月営業についても、「私鉄やホテルは正月も営業しており、消費者の要求・利便に応えるのは当然」と言います。97年は大型店の正月営業店は大きくひろがりましたがその売上は予想以上に低いものでした。消費者は大型店の正月営業をつよく求めているわけではないことを証明した結果になりました。
 むしろいま、「これ以上、身近な商店が消えては困る」という消費者、住民の声が高まっているのが特徴です。