分納実現し事業継続
差し押さえ中止できた

全国商工新聞 第3376号2019年9月9日付

 「社会保険料が払えない」「分納していたのに、一括納付を迫られた」「差押予告通知が届いた」―。社会保険料に関する相談が、全国から寄せられています。民主商工会(民商)では、事業をつぶすような徴収や差し押さえをやめるよう相談者と一緒に年金事務所と交渉。「換価の猶予」(払える金額での分納)を認めさせ(下の図)、相談者から「これで事業が続けられる」との声が寄せられています。

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先日付小切手取り返す 「親身な相談に感謝」

 「誰にも相談できなかったけれど、親身になって話を聞いてもらい、的確なアドバイスをしてくれた。もっと早く民商と出会いたかった」と笑顔を見せるのは、名古屋市内で飲食業を営む加藤宏さん(仮名)。
 名古屋北部民商に入会して大曽根年金事務所と粘り強く交渉し、8月15日、社会保険料滞納分の支払いのために振り出させられた15枚の先日付小切手1100万円分(決済分除く)を取り戻し、毎月160万円ずつの分納が認められました。

差押予告通知が

 加藤さんが名古屋北部民商を訪ねたのは6月28日。わらにもすがる思いで、これまでの経過を話しました。
 仕出しや貸し会議室の弁当などを受注する加藤さん。30人ほどの従業員を雇用しています。最盛期の5年ほど前から売り上げが半減。資金繰りに行き詰まり、借入金の返済や税金、毎月150万円の社会保険料の支払いが滞るようになりました。分納していたものの滞納額は1100万円を超え、大曽根年金事務所から5月7日付で「差押予告通知」が送られてきました。
 5月21日に来所すると、1000万円の先日付小切手(7枚)を切らされ、5月31日付の200万円が不渡りに。「もうおしまいだ」。途方に暮れる加藤さんに大曽根年金事務所は追い打ちを掛け、6月25日から9月25日まで振出日を15回に分けた約1200万円の先日付小切手をあらためて切らせました。

対策会議を力に

 民商では7月5日、役員とともに対策会議を開催。加藤さんは従業員に給料を払うためヤミ金からの借り入れがあることを打ち明け、「無休で給料が遅配でも働いている従業員とその家族のために事業を継続させたい」と伝えました。
 元金以上の返済をしているヤミ金には警察の協力も得て「もう払わない」と通告し、解決の道が。大曽根年金事務所には「納付の猶予」を求めました。しかし、担当者は「小切手で決済するしかない」「不渡りになっても、倒産してもやむを得ない」と暴言を吐きました。
 7月25日には事務局員と一緒に東海厚生局年金指導課に出向き、事情を説明すると担当者は、個人的としつつも「納付の猶予は過去の不履行などは影響されず、納付の見通しが立てば適用できる。年金事務所の対応はおかしい」と見解を述べました。厚生労働省にも指導を求めたところ、大曽根年金事務所は姿勢を改めて日本年金機構と対応を協議。先日付小切手を返却し、滞納分の分納を認めました。
 「乗り越えなければならない問題は多いが、事業をつぶすわけにはいかない。経営を必ず立て直す」と決意しています。

先日付小切手とは

 小切手を切るときに、振出日をその日より先の日付にした小切手のこと。小切手の振出日付前でも小切手の提示があれば、振出人は支払わなければならず、その時に当座預金が残高不足であれば不渡りとなり、倒産に追い込まれる危険性があります。
 滞納処分の際、税務署が強引に先日付小切手を振り出させたことが国会でも問題になり、国税庁の村上善堂次長(当時)は「小切手を強制的に振り出させることはない」「滞納整理は、納税者の実情に十分配慮」と答弁しています(2005年5月17日)。

「換価の猶予」認めさせ 「会社立て直しに専念」

 さいたま市内で派遣業などを営む安田博さん(仮名)は7月26日、社会保険料滞納分の「換価の猶予」が実現し、分納(1年間)が認められました。「差し押さえの恐怖を感じる言動があったけれど、払っていないのが悪いと思っていた。3人の子どもたちや従業員とその家族を思うと夜も眠れず、体調を崩してしまった。換価の猶予が認められたことで、事業に専念し、立て直しに集中することができる。納付への対応もしていけると思えるようになった」

売り上げが激減

 正社員とアルバイトを合わせて約40人を雇用している安田さんは昨年秋、取引先から突然の派遣切りに遭い、売り上げが半分以下に激減しました。新規事業に資金を投入していたことが重なって資金繰りが行き詰まり、11月から3カ月間、社会保険料が払えなくなりました。
 今年2月、年金事務所に出向いて分納を相談。3月には一部を納付し、「分納して滞納分(約480万円)をなくしたい」と徴収担当者と話し合っていましたが、担当者が代わった途端、徴収が厳しくなりました。突然、担当者が会社を訪ねてきて、従業員に対して「代表はどこにいるのか、仕事の実態はあるのか」と迫り、経理担当者が事情を説明しても「社長は悪質。国税よりうちが最優先」と一方的にまくしたて、「会社がつぶれもよいということですか」との質問にも「そうですね」と言い放ちました。安田さんは年金事務所に出向いて「換価の猶予」を申請し、「新規発生分を納付しながら、滞納分を分納したい」と伝えましたが、聞き入れてもらえず、4月9日付で「差押予告通知」が送られてきました。

ネットで民商が

 そんなとき、経理担当者がネットで見つけたのが、浦和民商の「なんでも相談会」でした。「それはひどい対応」と相談員の一人の綾達子元さいたま市議(共産)から言われ、安田さんはその言葉に救われました。
 5月30日、綾元市議とともに年金事務所に出向き、徴収課課長と担当者を交え、この間の経過と年金事務所の対応を協議。ひどい対応について徴収課長に謝罪させるとともに、「換価の猶予」を申請。併せて従業員の請願署名を添付して厚労省と日本年金機構に「換価の猶予申請の受理と猶予を求める請願書」を提出しました。その結果、7月26日付けで「換価の猶予許可通知書」が送られてきました。

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