第21回商工交流会
地域経済を元気に

全国商工新聞 第3378号2019年9月23日付

中小業者が力合わせ

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全体会での発言に拍手を送る参加者=全体会場の長野市ホクト文化ホール

 第21回中小商工業全国交流・研究集会(商工交流会、同実行委員会主催)が7、8の両日、「循環型経済の確立で個性豊かな地域社会を-ローカル&スモールファースト」をメインテーマに長野市内で開催され、575人が参加しました。消費税10%への増税や地域衰退を加速させるアベノミクスに対抗するカギは「ローカル循環」。地域を舞台に、食、エネルギー、ケアなど人の暮らしに欠かせない財やサービスの担い手である中小商工業者が力を合わせ、個性豊かな愛着のもてる地域社会づくりへ貢献していこうと交流を深めました。

 全体会では、滝沢孝夫現地実行委員長の歓迎のあいさつに続き、橋沢政實実行委員長が「地域の豊かな資源や人材に注目し、地域経済の発展方向を見出そう」と主催者あいさつを行いました。

増税は地域壊す

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長野県内5民商が、会員の逸品で参加者を迎えた物産展。唐辛子やジャム、餅、お菓子などが並び、にぎわいました

 岡崎民人常任実行委員は基調報告で、安倍政権が強行しようとしている消費税増税について、「10%への消費税増税は、単に税率を2%引き上げるだけではない。複数税率とインボイス制度という『劇薬』が盛り込まれており、深刻な景気悪化、重い事務負担と大混乱、免税業者の廃業危機という、『桁違い』の悪影響を及ぼす」と指摘。
 その上で、この悪政への対抗軸は、循環型経済だとし、「そのカギとなるのが『ローカル=地域』と『スモール=小企業・家族経営』。ここに打開の糸口がある。中小業者の知恵や工夫、創意、柔軟性などをどう生かすか、発展方向を探っていこう」と呼び掛けました。
 続いて、小林世治元日本大学教授が「地域政策に関わる重要性」と題して基調講演を行い、「政策を考える上での地域調査が重要」と問題提起しました。

多彩なテーマで

 その後、「小規模事業者と地域の持続的発展」「営業と暮らしを守る税制度の構築に向けて」の二つのパネルディスカッションと、基礎講座「事業計画の作り方と実践方法」「憲法と経済民主主義」が開かれ、豊かな討論が行われました。
 翌8日には11の分科会と2コースの移動分科会で交流を深めました。
 午後からの閉会全体会では、報道写真家の石川文洋さんが「日本縦断あるき旅-地域の『宝』再発見」と題して特別報告を行いました。
 閉会を兼ねた「まとめ講評」を井内尚樹・名城大学教授が行い、「ローカル&スモールは、小規模・分散型の経済を進めること。担い手は皆さん。学んだことを生かし愛着を持てる地域づくりに力を合わせよう」と強調しました。

特別報告 平和願い歩き旅 報道写真家 石川 文洋さん

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北海道から沖縄までの歩き旅について講演する報道写真家の石川文洋さん

 8日午後に開かれた閉会全体会では、報道写真家で長野・諏訪地方民商会員の石川文洋さんが「日本縦断あるき旅─地域の『宝』再発見」と題して特別報告に立ちました。石川さんは、徒歩による2003年の日本縦断に続き、今回、18年7月9日~19年6月8日の11カ月間、北海道・宗谷岬から沖縄県那覇市まで、約3500キロを歩き通しました。
 「日本とは、どんな国なんだろう?」という素朴な疑問から今回の旅を始めたとのこと。16年前の旅で出会った人と北海道で再開した喜び、福島原発事故のつめ跡が残る地域で目にした四季折々の風景…。石川さんは「歩行者を無視する道路システム」「日本の経済を支えるトラック輸送」などにも思いをはせながら、生まれ故郷の沖縄に到着し、辺野古で進む米軍基地建設を目の当たりにします。ベトナム戦争取材の経験も例に挙げながら、「当然のように民間人を犠牲にする。これが戦争だと実感しています」と結びました。

パネルA ローカル循環に展望 中小業者と行政の役割深め合う

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パネリストを務めた(右から)真関隆さん、成澤篤人さん、曽我逸郎さん、江森けさ子さん

 パネルAは、吉田敬一・駒沢大教授をコーディネーターに、人間が生きていく上で欠かせない「食」「エネルギー」「医療・介護」を地域で自給するために中小業者が果たしている役割と行政の在り方を深めました。
 パネリストは、ワイナリー経営者の成澤篤人さん、NPO法人峠茶屋専務理事・訪問看護ステーション所長の江森けさ子さん、中川村の元村長・曽我逸郎さん、県環境エネルギー課長・真関隆さんの4人が務めました。

介護で地域支え

 江森さんは故郷に貢献したいと16年前に移り住み、5人で介護事業所を立ち上げました。高齢者の暮らしを守るために次々に事業を広げ、お年寄りの尊厳を守る介護事業所づくりを進めてきた経験を報告。「スタッフは48人。喜びも、苦しみも、つらさも共有し、感謝されながら成長できる素晴らしい職業」と話しました。
ワインで振興を
 成澤篤人さんは、荒廃農地を借り、ワインづくりを通じ地域振興に貢献しています。
 「今年、坂城駅前葡萄祭には2000人が訪れ、坂城の奇跡といわれた。ワインを通じ、地域の人々の幸せ、楽しみをつくっていきたい。世界レベルのワイン、1000年続く企業・産地をつくっていきたい」と未来への思いを語りました。

再生エネで貢献

 真関隆さんは、長野県の「経済は成長しつつ、エネルギー消費量と温室効果ガス削減が進む経済・社会」づくりの戦略についてリポートしました。
 「燃料の購入のため、圏内から流出する資金は4000億円にもなる。『1村1自然エネルギープロジェクト』には、270のプロジェクトが登録。上田市民エネルギー『相乗りくん発電所』や、砂防堰堤を活用した米子川第1発電所など。売電で得た収益の一部は地域に還元し、流域および地域の環境保全に貢献している。エネルギー転換をさらに広げ、地域活性化を図っていきたい」と述べました。

商工業者の出番

 曽我逸郎さんは、村長3期の経験を踏まえ、「地元商工業者の頑張りがなければ地域は持続できない」と中小商工業への期待を語りました。
 吉田敬一教授は「地域で人が暮らしていく上で欠かせない食、エネルギー、ケアなどのローカル循環を回していくことが大切。個性を競い合うことが地域の振興にとって欠かせないことが明らかになった。担い手が誰なのかも、はっきりした討論になったのではないか」とまとめ、地域での今後の取り組みに期待を寄せました。

パネルB 増税中止を多数派に 営業守る税制の構築へ

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大企業優遇税制などを正せば消費税10%は中止できると議論を深めたパネルB

 パネルBは、「営業と暮らしを守る税制度の構築に向けて」と題し、不公平な税制度の問題点や憲法理念にのっとった税制度の在り方を考えました。
 とりわけ、10月に強行されようとしている消費税10%増税を前に、議論は消費税関連に集中。コーディネーターを務めた全商連常任理事・税金対策部長の服部守延さんは「消費税に関し、国民や業者の中に打って出るチャンスだ」と強調しました。
 そば店経営で長野・北アルプス民商会員の種山千恵子さん、税理士で立正大学客員教授の浦野広明さん、税理士の菅隆徳さんがパネリストとして登壇。
 種山さんは、長野県大町市(旧・美麻村)でそば店を始めて32年。消費税導入後に3%、5%、8%と引き上げられるたびに経営は厳しくなったと指摘。全国で2番目に早い時期に「そば祭り」を始め、畑や地元産業を次の世代に継承するために奮闘している地域の姿を紹介しながら、「“毎月毎月、とりあえず”と頑張っている人たちを苦しめる消費税増税を絶対に許しません」と締めくくりました。
 浦野さんは、「シャウプ勧告」で示され、その後40年近く続いた直接税(所得税、法人税など)を中心とする税体系が崩され、消費税導入後の約30年間で「消費税収の大部分が法人税減税の穴埋めと軍事費に消えている」と指摘。消費者・小事業者への過重な負担、大企業が巨額の還付を受けている輸出免税制度などを解明しながら、「あきらめずに増税中止法をつくろう」と訴えました。
 菅さんは、主に法人税減税・大企業優遇税制の実態について発言。消費税導入後の30年間で、法人税の税率は42%から23.2%へ、所得税の最高税率も60%から45%へと引き下げられ、法人税収も18.4兆円から10.3兆円に激減していることを示しました。
 例えばトヨタ自動車は法定実効税率30.3%に対して実際の負担率が18.1%になるなど、「試験研究費」「受取配当益金不算入」などの優遇策を指摘。菅さんは「仮に優遇税制に手を付けなくても、法人税を累進課税にするだけで19兆円もの税収増が見込まれる。払う力のある者から得れば、消費税の引き上げは一切必要ない」と述べました。

第6分科会 共同して変化に対応 業種別の対策

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業種別の課題と経営対策について意見を交換した第6分科会

 第6分科会「業種別の課題と経営対策」は、各業界が抱える課題を交流し、業界の在り方や発展方向について討論し、経営交流会や異業種ネットワークの実践などを交流しました。
 助言者の佐竹隆幸・関西学院大学教授が、高齢化、グローバル化、4次産業革命の中で進行する社会のアンビエント化など、経営環境の激変を指摘。山下紗矢佳・神戸山手大学講師は、「連携により一事業者では得られない効果が得られる」と神戸市の事例を紹介しました。これを受け、損保、運送、コンビニFC、自動車整備などの業界の現状や課題が報告され討論しました。
 京都・下京民商の伊藤泰浩さんは、「AIに取って代わられないためにも、人にしかできないことに特化する必要がある。それは創造することではないか」と意見を述べました。
 福岡・筑紫民商の隅信一さんは、「自動運転車の登場やIT化など技術進歩は著しい。組合として共同の取り組みもしなければ小規模業者は取り残されてしまう」と発言。損保代理店の参加者からは、本部の動きや代理店への強圧的な動きを正していく上でも「代理店が団結して運動を進める必要がある」など意見交換が行われました。
 佐竹教授は「生き残るためには、中小企業も持続可能な社会への取り組みを進め、自社のブランド力を高める以外にない」と助言しました。

第7分科会 地域振興へ連携強め 小企業と自治体施策

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中小企業振興条例や公契約条例制定の取り組みが話し合われた第7分科会

 第7分科会「小企業の活躍を促す自治体施策」は、駒沢大学の吉田敬一教授を助言者に、中小企業振興基本条例や公契約条例を制定する取り組み、自治体の産業政策への参画などを議論しました。
 吉田教授は、「成長しない中小企業は必要ない」とでもいうべき中小企業基本法の改悪が1999年に行われた後、民主党政権時代の2010年に閣議決定された中小企業憲章が、東日本大震災後の自公政権の登場で実行に移されないまま終わった経緯を紹介。その後、14年の小規模企業振興基本法では「成長しない企業も必要だ」との発想転換があったことに触れました。一方、ドイツ、フランス、イタリアなど欧州諸国では自営業者数が増加傾向にある中、日本では2000年の731万人から16年の530万人に激減。「“まともな先進国”なら、地域の歴史やライフスタイルを伝えていく中小業者を大切にし、記憶を重ねていく地域づくりが必要だ」と強調しました。
 各地から5人が報告。「“縛り”のある公契約条例を制定したが、現場ではなかなか理解が進まない」(東京・渋谷民商)、「市経済局の予算で出前相談などを実現した。ただ、政令市の区には経済担当部門がない」(横浜市議)、「条例制定に際し、犬山市や扶桑町で民商の代表が参加した」(愛知・尾北民商)、「新潟市の区に設置された自治協議会で地域の産業施策も議論している」(新潟・地域経済研究所)、「渋川市長と懇談。その後、民商に振興会議への参加要請があった」(群馬・渋川北群馬民商)と発言しました。
 発言者に対するコメントや参加者との質疑の中では、吉田教授から「条例の中に『商工会等』という表現を盛り込むことで、民商などを排除しにくくなる」「日本とは違い、欧州連合(EU)では産業施策を考える場合、『50人以下の企業の数を減らさない』といった社会的規制がある」といった指摘がありました。

刺激もらった 参会者の感想

役立つ「SWOT」分析

群馬・渋川北群馬民商
Mさん=整体師、エステサロン

 夫婦で接骨院をやっていましたが、私が肥大型心筋症を患って仕事ができなくなりました。その後、再起をかけ、妻を事業主にして女性専用エステサロンを開業。その時、民商の力を借りて日本政策金融公庫から530万円の融資を獲得しました。
 昨年9月の夏期研究集会で上品忍さんのセミナーに参加して“上品フリーク”になったんです。強み、弱み、機会、脅威の観点で見る「SWOT分析」はとても役立っています。今回の交流会でも、一から勉強し直しました。

小さな商売の展望広げ

長野民商
Tさん=機械整備

 小さな商売だからこその、苦労、不安、失敗談も聞けて、自分も頑張ろうと、とてもいい刺激がもらえました。
 分科会は「小規模事業における女性の役割と地位向上」に参加しました。年齢も業種もさまざまで、商売のことを中心にいろいろと語り合えました。大学生も2人来ていて、「私も将来、キャンピングカーでホテル業をやりたい」と話してくれて、若い人のアイデアにみんな感心。経理や届け出、商売に必要な知識のアドバイスも出され、世界が広がりました。

地域で挑戦広げたい

兵庫・加古川加古民商
Kさん=塗装

 地方創生などの取り組みを各自治体が盛んにやっているので、地元・加古川市が何もやらないのでは負け組になり、街がなくなるのではないか。そんな危機感をもったので、商店街のイベントに取り組んだ。
 ワークショップなど1年やってみて、その大変さが身に染みた。つながりも財産として残ったので、交流会で学んだこともヒントに、さらに挑戦していきたいと思います。

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