中小業者支援の在り方検討を
2019年中小企業白書を読む

全国商工新聞 第3365号2019年6月17日付

 2019年版中小企業白書は、3部構成。第1部は中小企業の動向、第2部は経営者の世代交代、第3部は中小企業・小規模企業経営者に期待される自己変革です。

円滑な事業承継 喫緊の重要課題

 喫緊の重要課題となっている経営者の円滑な世代交代や、経済・社会構造の大きな変化に合わせた自己変革の取り組みについて、豊富な事例を交えながら分析しています。
 現下の変化とは、「人口減少」「デジタル化」「グローバル化」。この変化の中で、消費者の生活スタイルは「安ければよい」から「利便性」と消費への「こだわり」へ、従業員も「収入」から「自由時間」「社会的な役割」を重視するなど、変化が見られることを指摘します。
 その上で中小企業に期待される役割としては、第一に「我が国経済を牽引する役割」、第二に「サプライチェーンを支える役割」、第三に「地域経済を活性化する役割」、第四に「地域の生活・コミュニティを支える役割」を上げ、その四つの切り口から分析を進め教訓を引き出しています。
 第一では、オープンイノベーションという外部との連携による研究開発が注目されること。第二では、これまでの「系列取引」や下請けからの脱却を図り、企業価値を高めていることの重要性と成功事例。第三では、「地域資源」を活用した新たな展開に当たり、地域資源の持つ特徴(強み)を再度見直し、地域資源の価値がより評価される市場を開拓することや、地域資源の特徴(強み)を生かした新たな商品開発が重要であることが強調され、事例が紹介されています。「和ろうそく」の海外展開、すだれを現代建築のインテリアデザインとして新市場を開拓した事例、和紙の伝統技術を取り入れての不織布の開発などが紹介されています。第四では、地域の衰退という社会課題を自社の経営課題として捉え、積極的に解決に向けた取り組みを進める中小企業、中小企業のネットワークや合同会社、NPO法人などが取り上げられています。

役割を明確にし自己変革を促す

 「デジタル化やグローバル化で、企業規模が小さいことによる有利も不利も解消されつつある中では、中小企業という存在をとらえなおすことも必要であろう。こうしたなかでこれからの中小企業に求められるのは、…現状を踏まえ、自社が社会から求められている役割を改めて明確にするとともに、その役割を果たすために必要な自己変革を積極的に行っていくこと」と述べます。
 これらの指摘や事例は、中小企業・小規模事業者が自らの経営戦略を考える上でも参考になりますし、押さえるべき着眼点といえます。
 また、今年の白書は「防災・減災対策」に1章を割き、多発する自然災害に対する備えを強調していることも特徴です。リスクの把握、損害保険への加入、BCP(事業継続計画)策定の3点を上げます。

役割発揮できる環境整備が必要

 いま、コンビニの24時間営業が社会問題になっていますが、問題は本部と加盟店の利益配分に行きつきます。大企業の優越的地位の乱用を規制し、中小に適正な利益配分を実現することが「働き方改革」を進める上でも前提です。
 大企業が進んで行わないなら課税強化と所得の再分配機能を通じて行うことも選択肢です。隣の韓国では、小企業への社会保険料負担の軽減措置や雇用支援などが行われています。白書が、「我が国の企業の99.7%は中小企業であり、雇用の約70%を創出しているなど、その存在感は非常に大きい」と強調するなら、今日の環境変化を踏まえ、中小企業に期待される役割を果たしていく上での支援の在り方についても、具体的な検討が求められるのではないでしょうか。経営としての将来性が見通せることが、事業継承にとっても欠かせません。中小企業・小規模事業所の未来は、不公正取引の是正なくして展望できないことを改めて強調しなければなりません。

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