社会保障の財源はある

全国商工新聞 第3347号2019年2月4日付

所得税、法人税の累進強化を

鹿児島大学教授 伊藤 周平さん

 日本では、消費税が社会保障の主要財源と位置付けられ、社会保障の充実のためとして、税率の引き上げが行われてきた。しかし、消費税が増税されても、社会保障の充実は見られず、医療・介護のように削減されている分野もある。
 2018年度予算で見ると、消費税増収額8.4兆のうち、社会保障の安定化として、基礎年金財源に3.2兆円、借金の軽減に3.4兆円が用いられ、社会保障の充実に回ったのは1.35兆円、増収分の16%程度にとどまる。
 社会保障の安定化に消費税収を用いるということは、これまで社会保障に充てられてきた法人税収や所得税収の部分が浮くことを意味する。つまり、消費税増税分の大半は、法人税減税などによる税収減の穴埋めに使われたといえる。実際、消費税が導入された1989年には40%であった法人税の表面税率は、現在は23.4%にまで引き下げられている。
 税制の基本原則は、負担能力に応じた負担、すなわち応能負担原則にある。この原則は、日本国憲法25条の生存権規定から導き出される原則であり、消費税は、低所得者ほど負担率が高くなるという逆進性の強い不公平税制であり、憲法の応能負担原則に反する。
 所得税や法人税の累進性を強化し、社会保障の財源を確保すべきである。日本の所得税率は1986年まで15段階、住民税の最高税率18%とあわせて最高税率は70%であったが、現在は7段階、住民税率10%とあわせて最高税率は55%と累進性が大きく緩和されている。
 最高税率の水準を1986年水準にまで戻せば、相当の税収増になるはずだ。また、法人税の減税は中止し、引き下げられてきた税率を元に戻し、資本金10億円を超す大企業に集中する租税特別措置法を廃止もしくは縮小すべきである。「不公平な税制をただす会」によれば、こうした不公平税制の是正で、2017年度の増収試算額は、国税で27兆3343億円、地方税で10兆6967億円、合計38兆310億円に上るとされている。消費税を増税しなくても、社会保障の財源は十分確保できるのである。

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