第三章 国民本位の流通の確立めざして

 生産と消費を結ぶ商業は、経済の発展とともにその重要性を高めています。
 日本経済全体に占める比重で言えば、商業は国内総生産の12.8%を担い、就業者数では22.3%にも達しています。そして、商業の多くが中小企業で占められていることは重要な特徴です。
 商業の主役である小売に携わる業者は、消費者・国民に代わって生活に必要な物を仕入れ、消費者に提供することがもっとも基本的な役割です。大手資本がその比重を高めてきつつあるとはいえ、小売販売総額の8割近くは中小企業・中小業者が占めており、この基本的役割を担っています。
 これに加えて、家族経営を主体とする零細商店の存在それ自体が、何100万人もの働く場を確保しているという点も大切な役割です。
 「政府ビジョン」でも、「商業に期待される役割とその位置づけ」のなかで、 @まちの核としての商業  A多様な小売業態の提供 B魅力ある個店の創出、育成 Cレジャー志向、余暇時間増加への対応 D高齢化社会等への対応 E環境問題、景観保全への対応 F地域の伝統文化の保持・振興 G地場産業との連動 H新たな技術に対応した地域社会の情報提供の場としての役割 I災害への機動的な対応 という10項目の役割をあげ、「商業集積が地域社会の基礎的なインフラとなっているという意味において、新たな社会資本と位置づけることが適切である」としています。ここには、私たちが主張してきた意見の反映もみられます。
 そこで、商店街、中小商店の振興を基本にした今後の流通のあり方について、次のように提案します。

一、商店街、中小商店振興の自主的努力の方向

(一)住民とともにきづく地域振興、まちづくりこそ地域商業発展の道
 地域経済全体が衰退するなかで、商店街・中小商店だけが活性化するなどということはあり得ません。地場産業、地域産業、農業、漁業など地域を支えるそれぞれの産業の安定・発展と結びついてこそ、地域の商店街、中小商店の振興が可能です。
 いま、各地で取り組まれている地域経済振興、まちづくり運動は国民による、国民本位の流通をつくりあげていく上で、大きな意義をもちます。
 大企業の誘致(製造業であれ小売業であれ)による地域活性化策では、地域雇用も予想外に少なく、また、進出大企業は利益を中央に集中させ、地域内に還元しないなど大企業の私益本位であることが多くの自治体、住民の批判を浴びています。
 そこから、地域内の様々な資源、歴史的特性を生かした地域おこし、まちづくりという、地域自律型の地域振興が今後のあり方として追求されはじめました。
 地域に根ざした中小商業者は、この方向のなかにこそ自らの営業の活路があることを自覚して、運動の主役として積極的に参加しはじめています。
 消費者、住民のニーズにこたえた商業施設の適正配置、住民のコミュニティの場としての商店街、中小商店の役割、地場産業、地域産業の振興と連携した地元の卸・小売店の役割など、地域振興、まちづくりのあり方や方向について、中小小売業者が積極的に提言していくことが重要です。

(二)消費者の要求にこたえ、消費者とともに商店街、店舗づくりを
 商圏内の消費者の意識と行動について、たえず把握し、それに見合った商店街づくり、店舗づくりへの努力が求められています。そのために、すべての商店街、個店で、消費者への接近・対話と共同がいっそう重要です。
 商圏内人口の増減、男女、年齢構成など、基礎的データをととのえること、そして、消費者から商店街や商店がどう評価されているのか、何を求められているのか、その変化・動向に最大の注意、関心を払っていくことが欠かせません。
 この点で、中小企業庁や商工会議所などの「消費者意識調査」では、地元商店街が大切だとか、商品選択で最も重視するのは値段の安さではない、などの回答が高くなっています。しかし、実際の購買行動はどうなのか、必ずしもこの通りの消費者の購買行動になっていると言えない実態もあります。この「意識と行動のズレ」があることが業界や研究者の間でも議論になっています。
 調査の項目、調査の方法を様々に工夫して、消費者意識と消費者行動の調査を、商店街、中小商店自らの力で行なうことが有効だと考えます。それをもとに、消費者要求に機敏に対応していくことが重要です。
 とりわけ、高齢社会の今日、高齢者を社会的・経済的弱者という面でしか見るのではなく、元気で一定の経済力もあり、社会活動にも参加する高齢者もあること、高齢者を主な客層に位置づけていくことも重要です。高齢者についてよく調査・分析していくことは21世紀に向けた店づくり、商店街づくりで大切なポイントです。
 また、消費者の意識変革を促す交流・対話も21世紀に向けて活路をひらく大切な方向だと考えます。

(三)経験が示す「元気な商店街」への自主的努力のポイント
 全国各地の商店街の活性化の経験のなかから、学ぶべき点として次のような点をあげることができると考えます。

1、「自分たちのまちは自分たちで」という、地元主導の考え方を貫くこと
 商店街自身が徹底して「地域にこだわり」をもち、自らのまちや地域の歴史と特徴、そしてわが町における商店街の役割は何かを明らかにする討論を重ねて、地域の特徴を生かして個性ある商店街をきづき、伸ばすことに力を注ぐことが重要です。
 たとえば、ある商店街では、「初めから他所の模倣をすることは一切避け、まず自分たちの足許を確かめ」「自分たち(商店街)のことは自分たちで解決していかなければ誰も助けてくれない」立場にたち、「夜なべ談議」をくりかえして衆知を集め、理念を確立していったといわれています。
 「地域あっての商店街」「地域に役立つ商店街」「地域に愛される商店街」という理念を確立し、また、商店街の成り立ちの歴史や、地域の文化を継承する、などの話し合いのなかから改善の方向を見出すことになるでしょう。
 当然、商店街の各種イベントなども企画会社に任せず自ら実施していくことで、組合員の団結力や行動力が高められます。

2、消費者、住民に理解される商店街へ
 町内会・自治会、消費者・住民との話し合いも重ね、住民に理解されることを徹底して重視することが重要です。
 このなかで、「大手スーパーなどは『生活の利便のための商業施設』、私たち昔からある商店街は『物心ともに生活を豊かにする商業施設』である」ことの理解をひろげます。そして、地域住民の商店街への要望にくりかえし耳をかたむけ、要望の高い事業から実施していくことが大切です。
 身近な商店街が、商業集積の魅力、威力を発揮すること、その方向へ努力している姿が地域の住民、消費者に伝わることが重要です。各種の調査でも、地域の住民、消費者は商店街を利用したいと考えており、商店街が元気であってこそ地域に活気が生まれると回答しています。
 アンケート調査や懇談会、そして各種のイベントなど様々な方法、機会を通して住民との接触を深め、連帯感をつよめていくことが大切です。そして、住民から出された要望は聞き流しにしないで、実行できるものから実行していくことが信頼と共感を確実なものにします。

3、協同・共同化事業への努力
 商店街の集積としての魅力を高めるためには、商店街の結束が重要なことはいうまでもありません。
 FAXを使っての商品の宅配サービスや、高齢者向け事業、共同イベントや共同店舗など、協同・共同化事業は多彩に展開されています。
 成功させているところでは、何よりも、その事業が顧客の拡大につながり、個店の売上・利益が増すものであることを重視し、そのために商店街として地域・消費者との共存という考え方を確立すること、この話し合いのなかから、商店街を構成する個店の得意や意欲に根ざした、自覚的な力の発揮で共同事業を成功させ、個店の顧客拡大に結実させています。

4、商店街組織の体制の強化
 商店街組合などに専従事務局職員を確保するなど、体制を強化することも大切な教訓の一つです。
 地域間競争も激化しているいま、商店街全体の振興を専門的に追求する人づくり、人の配置はますます重要です。
 もちろん、「元気な商店街」のなかには、専従事務局がいないところもありますが、中小企業庁等がまとめた「元気のある商店街100」のうちの75%の商店街には、事務局職員が確保されている点は見逃せません。関連して、現状では圧倒的多数の商店街には事務所がありません。商店街、商店会に「事務所」があることは重要です。組合員の集まる場であるとともに地域住民、消費者との共同のセンターの役割も果たすことになります。
 この点への商店街自身の努力と公的支援も今後への課題と言えるでしょう。

二、中小卸売業の役割とその発展方向

(一)期待される中小卸売業の役割と機能
 豊かな国民生活に貢献する小売・流通産業の発展にとって、中小卸売業の問題は避けて通れない問題です。一部に我が国の多段階流通こそ我が国流通産業の前近代性の象徴であると断定し、「流通近代化」の核心の一つとして、卸売業無用・廃止論を説くむきがあります。
 これは、卸売機構の現実、とりわけ、中小卸売業者が流通機構全体のなかで果たしている役割、機能を全く無視した暴論です。
 卸売が小売とは異なる決定的な点は、小売機構は消費者に対する消費財の提供を担当しているのに対して、卸売は、生産財、資本財、消費財を生産者、卸売業者、小売業者と多岐にわたって供給していることです。
 そして、我が国の卸売機構では、中小卸売業者が商店数の99.2%、販売額の62%をになっています。
 商品の流通は売買取引で終わるのではなく、保管、輸送などの物流が伴います。生産者と直接取引する場合には、この物流コストをどちらかが負担しなければなりません。
 多数の中小製造業者や中小商店にとって、この物流コストを負担して生産者と直接取引することは困難であり、事実上、不可能です。
 その点、通常、卸売業者はいくつかのメーカーと取引しており、卸売業者に集約して多数の小売業者や製造業者に供給した方が流通コスト負担は軽減されることになります。
 多くの生産者から商品を集め、中小企業に供給する卸売業者の存在は、中小製造業、中小小売業の経営に欠かすことができません。生産者と消費者、生産者と小売業者という簡素化された流通の方がコストがかからないという物も一部にはあります。しかし、すべての商品には該当しません。卸売機構という社会的分業のすぐれた面、その基本的役割は、引き続き重要です。
 卸売業が果たしている主な機能、役割は、
 @需要と供給を結ぶことで購買、販売、価格を形成する役割
 A輸送、保管、包装、加工の役割
 B金融機能、危険負担、
 C経営指導、情報提供の役割
などがあります。
 中小卸売業者は、全国各地の数多くの中小企業・中小業者に対して、こうした役割、機能を発揮して地域経済に貢献してきました。
 個性的で自律した地域経済の確立が重要視されている今日、地域流通をになう中小卸売業者の役割はますます重要です。

(二)中小卸売業の実態
 卸売業者は、どのようなシステムで何を主にあつかっているかによって多種多様です。
@農産物、水産物など「卸売市場法」で管理・規制される卸売市場型、
A規格化された工業製品で大量生産されるブランド商品の特約店型、
B同じ工業製品でも、特定メーカー専属、系列化された販売会社型、
C卸売商業資本が主導権をもった販売代理店型、
D呉服その他伝統的な商品に多くみられる製造問屋型、
E綿花や生糸、金などの商品取引所型、
Fその他、などに分類することができるでしょう。
 商品それぞれに固有の卸売システム、経路があり、固有の歴史と伝統、そして今日的課題に直面しています。
 中小卸売業者に共通している実態は、その主な販売先である中小小売業者の経営不振で、売上が大きく落ち込んでいることです。また、「価格破壊」の影響を受け、仕入れ価格を下回る販売価格要求で利益が大幅に減少しています。さらに、規制緩和政策による新規参入の増加、競争激化に見舞われています。全体として、厳しい経営環境に直面しています。
 このなかで、中小卸売業者は、品揃えの総合化や物流システムの合理化・高度化、協業化、小売業のニーズを商品情報として集約し、中小メーカーに商品企画・開発の情報を提供するなどの自主的努力をつよめています。

(三)自主的経営努力の方向への提案

1.中小小売業の振興に貢献する卸売業者へ
 中小卸売業者の販売先の圧倒的部分は中小小売業者です。したがって、中小小売業者の経営が伸びることが決定的に重要です。
 そのためにも、自らの存在価値を高める不断の自主的努力が必要であり、小売店の繁栄に役立つ商品の品揃えが大切になります。
 小売店が儲かる商品、価格競争ができる商品、他の小売店との差別化ができる商品などを提供することができるかどうかが決定的に重要になります。
 商売熱心な小売店ほど、卸・問屋からの情報やアドバイスを期待します。したがって 商品情報の提供、品揃えの提案、売場活性化の提案など、多くのメーカーや小売業者と取引をもつ卸売業者の条件を活かして、小売店の活性化を支援、貢献することが大切だと考えます。

2.流通経費の節減をはかる
 情報化によって、得意先との受発注業務や物流、請求業務などを合理化・一元化するなど、経費を節減する努力は欠かせません。
 広い視野で全面的に現在のすべての業務を見直し、流通経費のローコスト化をすすめることは、卸売業の大きな役割です。メーカーや小売店が、卸売業者と取引を継続することが経費節減になるということが実感できることがキメ手です。
 また、最近では、包装、仕分け、値つけなど流通加工分野の作業が拡大傾向にあり、この分野の経費節減努力は大切になっています。
 この面での努力とあいまって、新しい取引先を新規に開拓することも重要です。

3.不合理な取引慣行の改善
 「コスト構造の改革」の流れのなかで、多くの業界でリベート制や系列店制度など取引慣行の見直しが行なわれています。
 取引慣行のなかには、その商品独特の伝統的な慣行など、尊重されるべきものもあります。しかし、不透明なリベート制や「特売」の名目での押しつけ販売など、改善すべき慣行もひろく残っています。
 また、全体として大手資本が価格決定権や物流支配権を握っているもとで、これらの慣行の見直しを口実に、マージンの切り下げ、多頻度納入、取引中止などのしわ寄せが強まる傾向です。
 取引先中小商店ともよく話し合って、不合理な取引慣行は是正していく努力をする一方、大メーカーや大手小売店などの不公正な取引については、同業者や関係する組織・団体とも相談して、改善させることが、業界全体の地位向上のためにも重要です。

4.共同化への努力
 他業種からの参入もあり、また、自主的な経営努力をすすめていく上でも、共同・協業化は大切になっています。すでに、その事例もうまれています。ゆるやかなネットワークも含め、この面での対策を重視していくことが求められています。